涙よりも透明な世界
年季の入った
読み親しんだ本を
書斎の机に置き
小さな木の窓へと
歩み寄った
空浮かぶ淡い雲が見え
綺麗だと思えた
きっと誰も触れていないものだからだろう
初心を思い出しながら
そっと窓辺を後にした
階段を降りて
コーヒーミルを回す
ほのかな甘コケた香りが漂い
ほろ苦さを楽しめる
大人になったことに
どこか優しさと
青い夏がアルバムの隅へと行ってしまう
寂しさに
そっと砂糖をいれた
アイロンがけされた
新聞を広げて
一息つく
世界の広さと自分の立てる世界の広さ
そんな届かない距離への探求を済ませ
家を出た
広がる野道を
回る時計の輪にのって歩み
静かに移り変わる自然に
心が靡きながら
一歩また一歩と自分を前へと送り出す
そうして日は沈み
変わらない日々の
変わらない時間が
息をするように淡々と
流れていった
その
変わらないように見えた日々に
気づいたことは
涙よりも透明な世界に生きているということ。