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第三話 自称完璧マッチ

「全然売れません、おかしいですねこんなはずでは……」


 ごめん知ってた。


「マチ、この世にはチャッカマンっていうマッチなんかよりもずっと便利な特撮ヒーローがいるのを知らないのか?」


「誰ですかそのヒーロー? 絶対マッチマンの方が強くてかっこいいですよ!」


 あの後、一時間くらいマッチを売ろうとしたが案の定一箱も売れなかった。

 今の時代、マッチなんて誰も買おうとは思わないだろう。

 ちなみにお値段は一箱十二本入り二百円になります。

 ……代金二百円、……お金か。


「なあ、今更なんだが路上販売してるけど許可あるのか? もしかして犯罪じゃないのか?」


 マチに恐る恐る尋ねる。

 最悪の場合、足が速くて巷で有名な†韋駄天の森林†を披露することになるが……。


「その件に関しては大丈夫ですよ。本の世界日本担当全権が交渉して、直接お偉いさんから融通を利かせてもらっています。」


 なーんだそれなら安心……って、


「え? 日本のお偉いさんは本の世界のことを認知してるの?」


 マチは俺の返事を聞くと、意味深に微笑んだ。


「森林さんの知る世界が、決して全てではないんですよ?」


 ……こ、怖ええええ!

 もう少し人を疑うことを覚えよう、うん。


「さてと、仕方ないですね。今度はこれを値段据え置きで売って宣伝しましょう」


 そう言うと、マチはカバンからマッチを取り出した。


「……えっと、さっきと何の違いが?」


 どうみてもさっきまで売っていた普通のマッチである。


「これだから森林さんは。よく見てください!頭薬に細工をして得た防水機能!木の部分にはマッチが持ちやすいように計算された絶妙な凹み!子どもが飲み込んでも大丈夫な苦い味!そしてアラーム機能!この完璧なマッチなら皆も是非売ってくれと大行列間違いなしです!」


 ふんすっ、と鼻息を立てながらマチは自信満々にそう言ってのけた。



「おかしいです、全然売れません。このマッチは完璧なのに……」


「需要以外はな」


 ガクッ、とマチは膝から崩れ落ち手をついた。


「そんな……、やっぱり、マッチなんてどこの世界でも売れないんですよ……。誰ですかマッチ何か売ろうと思った人」


 鋭利な刃物付の特大ブーメラン刺さって血が出てますよ、マチさん。


「もういっそマッチョ売りの少女に転職しようかな……」


 女の子の口からすごい台詞が出てきました。


「お前いきなり何言ってんだ!? マッチ売りの少女はどうしたんだ!?」


「そうですよね……人身売買はよくないですよね……」


 そこかよ、許可下りたらするのかよ!


「……はあ」


 四つんばいから体操座りへ変形、すっかり落ち込みモードのマチである。

 ……。

 マッチ売りの少女は、雪の中マッチが売れない時もこんな感じだったのだろうか。

 それを思うと、脅された身だが同情しなくもなくなってきた。

 ……しょうがない、しぶしぶだったが手伝ってやるか。


「マッチ、借りてくよ」


「グス……え?」


 自称完璧マッチを借りると、早速俺はあるグループを探す。

 この時間帯なら……お、いたいた。


「へいそこの中学生ボーイ、制服のぎこちなさと新品の白い靴から察するに、君はこの春入学したばかりだね?」


「うえっ!? ボ、ボーイって……は、はい確かに中一ですが。何ですか?」


 正直ホントに合ってるとは思ってなかったのは秘密。


「実は今マッチを販売していてね、一箱どうかな?」


「ま、マッチ……? いや、遠慮しときます」


 中学生が怪訝そうな顔をして断る。

 まあこれは予想通り、ここからが本番だ。


「まあ待ちたまえ。マッチは何も火をつけるだけの道具じゃない。いいかよく聞け、中学一年は理科のガスバーナー実験でマッチをよく使うんだ。そこで、君はクラスの嫌いな奴にマッチを忍ばせてこう言うんだ。『先生!○○君がマッチを盗んでいます!』ってね。いつもは温厚な先生でも、実験となると生徒の安全のため鬼と化すだろう」


「す、すごい! これで僕を入学当初から地味だの何だのバカにしてきたあいつらを……。で、でも僕が指摘したら後で復讐されるのではないでしょうか……?」


 確かに、一理ある。

 うーん……あ、このマッチにその問題は通用しないな。


「じゃあ作戦変更だ、指摘せずに先生に気づかせよう。これなら復讐もない」


「ど、どうやってですか!? やっぱり無理なんですよこんなしょうもない計画! ちょっとでも買おうと思った僕がバカだっ――」


「このマッチ、アラーム機能付きなんだ」


「買います」


 中学生は完璧マッチを十箱買い、スキップして帰っていった。

 ……多いな。


 「お買い上げありがとうございましたー」


 俺は初めてのお客様の帰った方向に、ペコリと礼をした。


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