京阪神鉄道男女
A「ドアの上を見れば」
甲「島が付く駅は、大阪に三駅集中してるのね」
乙「芦屋の芦は略すが、香櫨園の櫨は略さないのか」
甲「大物はダイモツ、青木はオオギと読むのね。読み間違いが多そう」
乙「西灘は、読めるけど自信を持って書けない駅名だな」
甲「直通特急の停車駅に、快速急行が停車するとは限らないのね」
乙「御影は、直通特急は停車するけど快速急行は通過。平日の甲子園は、直通特急は通過するけど、快速急行は停車するのか」
甲「曲線で斜めになってたり、川の上だったり、真っ直ぐな平地だけが駅じゃないのね」
放送『次は、淀川。淀川です』
乙「下町を縫うように走ってるし、駅間距離も短い。初乗り料金もジェーアールに次いで安い。ジェットカーは庶民の味方だな」
甲「さすが、『みなさまの足』ね」
乙「そういうことだな。どうぞ、お気軽にご利用ください」
監督「ハイ、カット。ご苦労さん」
甲・乙「「お疲れさまでした」」
*
B「三人掛けに並んで座れば」
甲「千日前線だけ短くない? いかに利用者が少ないかが分かるわ」
乙「奈良線の快速急行を見たあとだから、余計に短く感じるな」
甲「百歩譲って御堂筋、堺筋、中央の三路線は相互乗り入れがあるし、長堀、今里筋の二路線はミニ地下鉄だから良しとしても、谷町、四つ橋の二路線に負けるのは口惜しいわ」
乙「張り合っても仕方ない。空いてて座れるのは助かると思わなきゃ」
甲「ねぇねぇ、このティーシャツ、鶴橋の商店街で購入したんだけど、いくらだったと思う?」
乙「難波、上本町、日本橋をスルーするなよ。パリコレも真っ青な攻め方をしやがって」
甲「アバンギャルドに生きましょう。なぁ、いくらだったと思うの?」
乙「あと二枚とセットで千円ってところか?」
甲「ちょっと。何で当てちゃうのよ。そこは高めに言ってくれなきゃ。察しが悪いわね」
乙「言ってくれなきゃ分からないって言っただろうが。話を聞かないんだな」
*
C「改札口で待ち合わせれば」
甲「この前は夕立のときは、迷惑を掛けたわね。借りたシャツ、洗ってあるから。貸してくれてありがとう」
乙「いえいえ。濡れたまま帰す訳にいかないと思いまして。誘ったのは、こちらのほうですし」
甲「ともかく、助かったわ。それにしてもアレね。いつもレディースを着てるのね」
乙「シャツやスラックスは、レディースのほうがシルエットが良いものですから。乾燥機に回すときに見てしまったのですが、そちらは」
甲「そう、メンズよ。締め付け感が無くて快適だから」
乙「見た目より実用性を取るんですね」
甲「機能美という言葉をご存知?」
乙「はい。よく存じ上げております」
*
D「吊り革を持てば」
甲「炎症でコンタクトが上手くはめられなかったからって、眼鏡とマスクをしてまで出勤するなよ。美人が台無しだ。どう考えても風邪だから、次の駅で降りて、家で大人しく治せ」
乙「グズッ。だって、ここで抜けたら、プロジェクトのメンバーに迷惑が」
甲「いいから、あとのことは任せろ。社内に病原菌を撒き散らされても困るが、無理して途中で倒れられても困るんだ。なっ? 分かってくれるね」
乙「ズビッ。はい。お言葉に甘えることにします。絶対、明日には治しますから。」
*
E「ホームのベンチに座れば」
甲「リュックしか背負わないのは?」
乙「トートは女性っぽいから」
甲「カットソーをインナーにしか使わないのは?」
乙「襟が無い服は下着だから」
甲「シャツの裾をズボンから出さないのは?」
乙「おなかを冷やさないように。氷水を飲まないのも同じ理由です」
甲「珈琲、日本酒、ビールを飲まないのは?」
乙「紅茶派で、甘党で、とりあえず烏龍茶で乾杯したいからです」
甲「つまらないことにこだわるのね」
乙「いまさら大雑把になれませんから。それより、酔いは醒めましたか?」
*
F「中吊り広告を見れば」
甲「強さをアピールするのに動物を引き合いに出すのは、いかがなものかしらねぇ」
乙「象が踏んでも壊れない、鰐が噛んでも砕けない、虎や熊が引っ掻いても傷つかない、馬が引っ張っても真っ二つにならない」
甲「最後は、マグデブルグの半球?」
乙「いいえ。老舗ジーンズメーカーの宣伝ですよ。本当に裂けない代物なのか、はなはだ疑問ですけど」
*
G「貫通扉を開けば」
甲「分かりにくいのよ。待ち合わせ場所に紛らわしい駅を選ぶものかしら? やっぱり、間違いの無い駅にしないほうが悪いわ」
乙「阪神野田と野田阪神にしろ、京阪三条と三条京阪にしろ、そのあとに乗る路線を考えれば、自ずと正しいほうが分かるだろうが」
甲「もう。済んだことまで取り上げて追及するなんて、最低最悪よ。降りるまで、顔も見たくないし、声も聞きたくない」
乙「待てよ。女性専用車に逃げるのは卑怯だぞ」