ヒネクレ勇者は殺されました
思い付きで書いたナニカ。
気が付けば俺は見知らぬ建物の中に居た。
延々と続く赤絨毯に天井にずらりと続くシャンデリア。
綺羅びやかという言葉に相応しい回廊の一部に出来た不自然な大広間。
そこに描かれた厨二チックな魔法陣の上に俺は立っていた。
そして俺を取り囲む魔導士然として男達。
その誰もが今にも死にそうなほど全身青白くかなり不気味だ。お化け屋敷に居ても違和感ないぐらいに。
何かしらの意地でもあるのか。杖を支えに辛うじて立った姿勢を維持している。
だがそれも直ぐに終わりを迎えた。
どこからともなく近くづく複数の駆ける音。
「お待ちくだされ!ティエリカ姫」
ああ、やんちゃが過ぎる系な姫君さんか。従者の方も大変なこった。
姫君さんの目的は俺らしく、魔導士な男達は無理に道を開けようとして…そのまま倒れ込んだ。姫君さんではなく、野郎達が倒れた。全然萌えない。凄くどうでもいいがヒュゥヒュゥ掠れた呼吸音が聞こえる。死んでないから放置しても問題ない。
いつの間にか視界には金のティアラにドレスを纏った少女だけでなく、インテリ系なメガネ爺さん二人に付き添い騎士然とした美青年が映っていた。待女じゃないんかよ。全員男とか逆ハーレムじゃん。
そいつは俺の目の前に現れるや否や―――
「勇者様!どうか我らをお救いください」
「は?」
意味不明過ぎて反射的に声が出た。
まず第一に平々凡々で若干頭の悪い俺が勇者とか有り得ないし。あとなんで初対面の見ず知らずの誘拐犯を救わなきゃならんわけ?美少女の頼み?ナニソレおいしいの?そんな無茶振りは物語の中だけで十分だ。是非とも俺を元の世界へ御返し願いたい。
俺の困惑を無視する腹づもりのか同じ言葉が透き通った口許から紡がれる。
「……どうか我らをお救いください」
「それは聞いたから。で、なんでなん?」
自分でも意地悪いことは解っているけど知らんがや。
俺の質問は想定の範囲だったらしく、淀み無く喋りを始めた姫君さん。
「我らがベルムブルグ国は今、魔王の脅威に晒されておりまして勇者様には―――」
「だからなんで?なんで俺が貴方達のために動かないといけないん?」
「えっとですね………………」
俺も更なる詰問に口を閉ざす姫君さん。あ、その表情いいね。もっとイジメたくなるわ~。
「黙らないで何か言ってよ?用が無いならさっさと元の世界に戻してくれる?」
すると、先程から俺に睨みを利かせていたインテリメガネ爺さんその1が全然申し訳なさそうに見えないドヤ顔で俺の言葉に対応する。
「大変申しにくいのですが送還魔法の術式を知り得るのは魔王唯一人のみでして……魔王を倒していただかないことには還すことも儘ならないのです」
ああ、よくあるテンプレだ。でもそれって結局―――
「え、ナニソレ。無理ゲーじゃん。魔王しか知らないのに殺しちゃったら聞けないじゃん。そもそも魔王が喋ってくれなかったらどうすんのよ?」
「いえ…それはですね……あ、そうでした!死者から記憶を抜き出す古の呪術を行使すれば殺してしまっても問題ありません」
取ってつけたかのような思いつきの発言に思わず笑いそうになるのを堪えた俺を褒めてほしい。勇者に呪術使わせるとかイメージ的に不味いんじゃねとか思わなくもないが今回のところは許してやろう―――なんつって。
「へぇ~。じゃあ聞くけどさ。魔王ってどんな奴なん?」
「かの者は強大な力を持った恐ろしい存在でして―――」
「強大?どんな?」
強大な力を持ったものなら幾らでもいるし、そもそも力と言っても多種多様なタイプが存在する。国王なら権威だし、ドラゴンなら純粋な身体能力や体内に秘めた膨大な魔力とか。強大と言っても一重に色々あるのだ。で、爺さんの回答は如何に……
「それはもう邪悪でして世界の全ての敵でございます」
ほぉ~邪悪と来たか。だけど本当に邪悪なのかどうか怪しいところだよね。人によって悪の定義はやや異なることもあるし。ま、いいけど。
「ふ~ん邪悪なんだ。で、見た目は?邪悪って言うんだから勿論見たんだよね?」
「それは文献によりますれば頭に角の生えた―――」
「角?形は?色は?本数は?ってか見たことないの?そもそもそれっていつの文献よ?誰が書いたん?その辺ちゃんと確認したん?記録が古すぎて魔王さん代替わりしてるかもしれないじゃん。どうやって確認すんのよ?」
「魔王は不死身でして―――」
ワロタ。死なないとかマジ無理ゲーじゃん。
「え、死なないん?無敵チートとか勝ち目ないじゃん。どうするん?秘策はもちろんあるんだよね?」
すると爺さんはドヤ顔でこう言った。
「それに関しましては我らが世界の創造神よりお告げを承っております。『レベルを上げて物理で殴れ』と―――」
え?レベル上げるだけで済むなら勇者いらないんじゃね?そうだよね?というかさ……
「は?いや、だからさぁ。そもそも魔王って不死身なんでしょ。殴って素粒子レベルで木っ端微塵に粉砕しても逆再生して復活するんでしょ?俺はお告げが聞きたいんじゃないの。倒し方を知りたいの。そこら辺どうなん?」
「……………」
「いや黙ってないで―――え」
するとイケメン騎士が抜刀したかと思えばそいつは目と鼻の先まで居た。それどころか―――俺の腹に剣の柄が埋まっているのが見える。そして遅れてやってきた痛みを通り越した熱量に目を大きく見開いた。
そして耳元でイケメン騎士は語る。
「俺は勇者が大っ嫌いだ。ティエリカ姫は俺のものだ。お前なんかに渡さない。お前のようなティエリカ姫を虐める奴は俺が絶対許さない。ティエリカ姫を苦しめる奴は魔王だろうと勇者だろうと俺が全部殺すんだ。見ろよ。俺のレベル。見えるんだろ?勇者様よぉ」
朦朧とする意識の中、歪んだ笑みを湛えるやつの頭上に1e100という数字が見えた気がして――――――――――――――――――そして俺は死んだ。
書き終わってから思った。
ナニコレ酷い。
色々な意味で。