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第2話・魔力解放

王都の中心やや北、王宮の背後にあたる位置には、木々が覆い茂る緑地が存在している。

『霊樹』はその奥にあるということだった。

林の入り口には小さな小屋が立っており、中には老婆が一人いた。


「これはこれはメイリア様、こんな場所にいらっしゃるとはお珍しい」


「こんにちは、ばあや。いまから奥を使わせてもらってもいいでしょうか?」


「もちろんでございます。誰もおりませんので、どうぞお気遣いなく」


僕の存在を誰何されることもない。

フリーパスでメイリアと僕は林の中に進入した。


「さっきの人は?」


「かつては王宮につとめていて、わたしも幼少の折だいぶ世話になった女性です。わたしが融通をきかせられる数少ない相手なんですよ」


メイリアのいうツテとは彼女のことらしかった。


木々のあいだの小道を進む。

『霊樹』なんて大仰な名前がついているからには、相当な巨大樹であるはず。

だというのに、林の奥にそれらしき存在は見あたらなかった。

なぜならば――


「あれが……『霊樹』……?」


ひらけた場所にでる。

そこには広々とした泉があり、その中心には巨大な切り株が鎮座していた。


「そうです」


メイリアがうなずく。


たしかに尋常の樹木ではない。

幹の直径は少なく見積もっても二〇メートル以上。

表面には苔がびっしりと生えており、太古の昔からそこにあったことを想像させる。


だが、それだけだ。

残っているのは切り株のみで、『霊樹』の高さは二メートルにも満たない。

朽ちて根本から折れたのか、はたまた伐採されたのかは不明だが、付近に巨樹の幹が倒れているということもなかった。

切り株の内側は空洞になっており、そこからはとめどなく水があふれだしている。


水――いや、果たしてあれを水と呼んでいいのだろうか?

周囲の泉を満たしているのは、無色透明のなんの変哲もない水だ。

しかし、『霊樹』から湧きでているのは黄金色に輝く不思議な液体だった。

『霊樹』の樹液、ということなのだろうか。

黄金色の液体は泉の水面に触れると急速に輝きを失い、通常の水へと還元されているようだった。


「『霊樹』よりもたらされる魔力の源泉『アムリタ』。それを体内に取りこむことで、自身のうちに秘めたる魔力が解放されるのです」


「つまり、あれを飲めってことか」


なるほど、それなら事前の準備もいらないし、一度に大勢を集めても滞りないわけだ。


「では始めましょうか」


ちゃぷん。メイリアが泉に足を踏み入れる。

水深は浅く、足首が濡れるていどだった。


「『アムリタ』は『霊樹』から湧きでたものを直接飲まなければなりません。下に流れ落ちたものはただちに真水となってしまいますので」


「わかったけど……『霊樹』って、最初からああだったのか?」


「……いえ。かつての『霊樹』は、天空に届かんばかりの巨大樹であったと伝承にはあります」


「それがどうして、あんなことに?」


「『霊樹』とは、この世界の守護神たる光の女神・フリアエの化身。ですが、いまから四〇〇年前、女神はこの世界から永久に去りました。同時に神の化身たる『霊樹』は枯れ果て、根本から折れたのち灰になったと伝わっています」


「神に見捨てられた世界、か。でも、なんだって女神はこの世界から去ったんだ?」


「詳しくはわかりません。いまとなっては、誰にもたしかめようのないことです。ただ、女神が世界を見捨てたのは、わたしたち人が赦されざる『大罪』を犯してしまったことが原因だと……」


「『大罪』……」


神の逆鱗に触れるような罪がいかなるものなのか、僕には想像もつかなかった。


「それでも、希望は残された。女神が去って四〇〇年が経った現在でも、女神の加護の残滓は尽きることなくここにあります


足をとめ、『霊樹』から湧く『アムリタ』を示して言う。

僕もまた『霊樹』の前で足をとめた。


「そのおかげで、わたしたち人はかろうじて魔の物に滅ぼされずにすんでいるのです」


「これを飲めば、僕も魔法を使えるように――」


ここまできても、そんな実感は湧かない。

が、拒否する気はないし、理由もない。

魔法を使えるようになるなら、それに越したことはない。

どうあれ僕は、この世界で生きていかなければならないのだから。


「さあリュート、『アムリタ』を」


「わかった」


『霊樹』に両手をのばし、湧きでる『アムリタ』をすくう。

やや粘性なのか、とろりとした触感があった。温度は温かくもなければ冷たくもない。


「ええと……いただきます?」


「どうぞ、めしあがれ」


メイリアがくすりと笑んで言った。

僕は手のひらに満ちた『アムリタ』を口元に運び、一気に飲みほした。


味はしない。が、喉を通っていく際、奇妙な熱さを感じた。

不思議なことに、そのまま胃の腑に達したという感覚はない。

黄金色の液体は人体構造の枠を離れ、僕という存在の奥深くに流れこんだようだった。


「ッッ――!?」


直後に起きた現象をひと言で表すなら――『点火』だ。

僕の内側の奥深く、いままで存在していることにさえ気づかなかった領域に、文字どおり「火がついた」。


力の解放。魔力の現出。

それは物理的な現象としても表れた。


カッ! 僕を中心に、不可視の波動が同心円状に放たれる。

ザパッ! 泉の水が津波のごとく逆立ち、周囲の木々が激しく揺れる。

空気がビリビリと震え、広範囲にわたって地響きが発生した。


「っぅ!?」


至近距離でまともに波動をあびたメイリアは、両手で頭部を防護しつつ後ろに数歩、たたらを踏んだ。


だがいまの僕は、彼女にまで気がまわらなかった。


「これが、魔力……!」


ひろげた自分の右手を凝視しながら、つぶやく。

新たな力が全身に満ちている。

自分には魔力がある。その事実が、いまでは当然のことのように受け入れられた。


「おめでとう、リュート。やはりあなたは、アルテア王国史上でも屈指の魔力強者でしたね」


メイリアは周囲を見渡して、


「魔力解放にともなって、ここまで外界に反応が表れた例をわたしは知りません。よほどの魔力強者であっても、ふつうはさざなみが立つていどなのですよ」


「そうなのか」


まさかメイリアが僕をかついでいるということはないだろう。

実際、自分のうちにはあふれんばかりの力を感じる。


「ともかく、これで僕も魔法を使えるようになったんだな」


感慨深げにつぶやくと、


「いえ、まだですよ」


メイリアは意外な言葉を返してきた。


「えっ、そうなのか?」


魔力解放がすんでも、まだ魔法は使えない。

僕にはまだ欠けているものがあるということか。


「リュート。まずは『ステータスドロー』と唱えてみてください」


「わかった。――『ステータスドロー』!」


パッ。直後、僕の眼前に光の文字が現れた。


==========


種族:ヒト

性別:男

魔道士ランク:なし

潜在魔力:EX

表層魔力:150/150


〈契約魔道書〉


〈習得魔法〉


==========


表示された情報は以上だった。


「どうですか、リュート。『潜在魔力』の項目は六星ですか? それとも七星でしょうか?」


メイリアがたずねてくる。


「星? いや、なんか違うけど」


僕はステータスを見せた。


「い、EX、ですか……!?」


メイリアは目を丸くして、


「そのような表記は見たことも聞いたこともありません。七星の上、ということなのでしょうか……?」


「そもそもこの潜在魔力っていうのは? あと、ステータスには表層魔力っていうのもあったけど」


「潜在魔力とは、一人の魔道士が有する魔力の総量。将来性や成長の上限を示す値です。表層魔力とは、現時点で使用できる魔力の量。こちらは魔道士として成長していくことで値が増えていきます」


「なるほど。潜在魔力のうち、自由に使える一部分が表層魔力ってことか。言い換えると、この表層魔力が現在の強さの指標って感じでいいのかな?」


「そうですね、その理解で間違いありません」


僕は少し考えて、


「ちなみに、潜在魔力のランクってどのくらいあるんだ?」


「リュートのEXは例外として、ぜんぶで八つです」


メイリアの説明によると、潜在魔力のランクは以下のとおり。


七星……英雄。歴史に名を残す傑物。

六星……天才。一〇年に一人の逸材。

五星……卓越。各世代のトップ級。魔力強者の上。

四星……優良。一般的にすぐれた魔道士。魔力強者の中。

三星……適格。標準よりやや上。魔力強者の下。

二星……平凡。大半の魔道士がここに属する。可もなく不可もなし。

一星……劣等。魔道士になることは推奨されない。魔力弱者。

無星……落第。魔道士になることは許可されない。事実上の魔力無者。


「へえ、大半は三星なのか」


「基本的にはそうですね。ただ、種族によって多少の差異はあります。たとえばドワーフ族は他の種族にくらべて魔力弱者が多い傾向がありますし、逆にアルテア王族は四星以上が大半です」


「ってことは、メイリアも?」


「いえ……。わたしは一星の魔力弱者です。――『ステータスドロー』」


パッ。メイリアのステータスが表示された。


==========


種族:人間族

性別:女

魔道士ランク:E

潜在魔力:☆

表層魔力:180/180


〈契約魔道書〉

白の魔道書『閃光』(レベル1・光属性・天位)

赤の魔道書『燐火』(レベル1・火属性・下位)

青の魔道書『漣』(レベル1・水属性・下位)

緑の魔道書『微風』(レベル1・風属性・下位)

黄の魔道書『砂粒』(レベル1・土属性・下位)


〈習得魔法〉

『ヒールライト』(レベル☆・固有・特殊)

『ライトニングボルト』(レベル1・固有・攻撃)

『ファイアボール』(レベル1・火属性・攻撃)

『アイスロック』(レベル1・水属性・攻撃)

『ラピッドモーション』(レベル1・風属性・補助)

『サンドウォール』(レベル1・土属性・防御)


==========


「ええと、その……」


ばつの悪い思いで言葉を探す。


「リュートが気に病むことではありません。人は誰しも平等ではない。優れた者がいれば劣った者もいる。ただそれだけのことですから」


かすかに笑って言うメイリアだったが――無理をして気丈にふるまっているように見えたのは、僕の気のせいだったろうか?

ともあれ、これ以上の深入りは避けたほうがよさそうだ。


「そ、そういえば魔法にもそれぞれレベルがあるんだな」


「ええ。基本的にはレベル1からレベル3までの三段階にわかれています」


「ん? それじゃ、メイリアの『ヒールライト』の星マークは?」


「これは『完成して』『これ以上は成長しない』という意味です。魔法の種類によっては、レベル3から成長して完成することもあれば、レベル2の段階で完成することもあります」


「ちなみに『ヒールライト』は?」


「『ヒールライト』は変わった魔法でして、習得したときにはすでに完成していました」


「へえ、そういうこともあるのか」


それはさておき、


「この契約魔道書って項目だけど――これってつまり、魔法を習得するには魔道書との契約が必要、ってことか?」


「そのとおりです。ではリュート、魔道大図書館にむかいましょう」


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