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第11話・戦いのあと

「こ、これは……。い、いったいなにが起きたのですか……!?」


メイリアの声が聞こえた。

つづいて足音。僕のほうへと駆けよってくる。


だめだ、体にまったく力が入らない。

指先をぴくりと動かすことさえ、相当な困難がともなった。


「リュ、リュート!? しっかりしてください、リュートッ!」


うつ伏せに倒れていた僕の体が、仰向けへとひっくり返される。

後頭部にやわらかい感触。これはメイリアの膝だろうか。

そのことを裏づけるように、メイリアの顔が上からのぞきこんだ。


「よ、よかった、生きているのですね……!」


僕は彼女の名前を呼ぼうとしたが、声がうまくでてこない。

喉の奥からはヒュウヒュウというかぼそい音がでるのみだった。


「リュート? これは――ま、まさか、表層魔力が枯渇しているっ……!?」


驚愕の面持ちで、メイリアが僕の顔をなでる。


「いけない……かなり危険な状態ですね。リュート、わたしの声が聞こえますかっ?」


かすかなうなずきを返す。


「これから応急処置をします。そのまま動かないでじっとしていてください」


じっとしていろもなにも、僕の体はまったく動かない――


「!!??」


次の瞬間、体どころか思考まで完全に硬直してしまった。

なぜなら、メイリアがいきなり唇を重ねてきたからだ。


「んっ……」


それも、唇と唇が触れあうだけのキスではない。

舌をからめ、おたがいの唾液を交換する濃厚なくちづけだ。

しかも、長い。メイリアとのキスはたっぷり二〇秒もつづいた。


「ぷはっ……」


ようやくメイリアが唇を離す。

唾液が糸を引く光景がたまらなく艶めかしかった。


「どうですか、リュート。少しは楽になりましたか?」


たしかに楽にはなった。異常な虚脱感は消え、全身に力が戻ってくる。

だが、僕の心臓は破裂しそうなほどバクバクと脈打っていた。


「なっ、なな、なななッ……!?」


「ま、まだ足りませんか。仕方ありません、ならばもういちど――」


「ま、待った。楽にはなったよ! なったけどさ!」


僕はあわててメイリアを制止した。


「……なんでいきなり、その、キスなんかしたんだ?」


「キ、キスではありません! 経口接触による魔力投与をしたのです!」


メイリアは顔を赤らめて、


「いいですか? 理由はわかりませんが、リュートは表層魔力が枯渇状態に陥っていました。そのまま放置していれば命の危険さえあります。ですから、わたしは応急処置をおこないました。以上、説明終わりですっ!」


やたらと早口で言った。


「その応急処置が、さっきのキ……じゃなくて、魔力の口移しだった、と」


顔が熱い。しばらくはメイリアの目をまともに見れそうになかった。

会話が途切れる。異様に気まずい。


「えっと、その、表層魔力の枯渇ってよくあることなのか?」


「きわめて稀なことです。わたしも知識としては知っていましたが、実際に応急処置をしたのははじめてです」


よかった。メイリアはほかの誰かに魔力を口移ししたことはないようだ。

なぜだか僕はホッと胸をなでおろしていた。


「表層魔力の枯渇は、たとえば丸一日休まず魔法を使いつづけるような無茶をしなければ起こりません」


メイリアがあたりを見まわして、つづける。


「リュート、いったいなにがあったのですか? デモンはどこに? それに、あのクレーターは……あなたの魔法なのですか?」


「実は――」


デモンとの戦いの一部始終を、僕は話して聞かせた。


「――デモンとの戦闘中に、リュートは『覚醒』。そこで習得した新たな魔法によって、敵を完全に消滅させた、と」


「なんていうか、言ってて自分でも信じられない気はするんだけど……」


あの絶望的な状況から死をまぬがれて、あまつさえデモンを駆逐してしまうなど、まったく考えられないことだった。


例の黒の世界と、玉座に座っていたもう一人の僕が現れるまでは。


いまにして思う。あれは本当に、僕だったのだろうか?

むしろ、いまこの意識を有している僕は、本当の僕だと自信をもって言えるのだろうか?


「わたしは信じます。ことリュートに関しては、常識はいっさい通用しないと痛感しましたから」


「なんかそれ、僕が常識を知らないやつだって言ってるようにも聞こえるんだけど」


「あら、当たらずとも遠からずでしょう? デモンに独りで挑もうとするなんて正気の沙汰ではありませんよ」


「メイリアだって自分独りが残ろうとしてたんだから、おたがいさまだろ。……っていうか、どうしてここにいるんだよ? 王都に戻って応援を呼んでくるんじゃなかったのか?」


「体力が回復してやっと歩けるようになったとき、リュートの魔法が森を消し飛ばすのが見えたのです。それで、居ても立ってもいられなくなって」


「ひとまずこっちの様子を見にきたってわけか」


「まさかこんなことになっているとは夢にも思いませんでしたけど――」


と、メイリアが急に瞳をうるませた。


「リュートが無事で、生きていてくれて、本当によかった……!」


ふいに身をかがめ、顔を僕の胸元へとうずめる。

僕は依然としてメイリアに膝枕されてるわけで、自然と彼女の胸が僕の顔にかぶさる形になった。


「あなたに死なれたら、わたしはどうしたらいいかわかりません。本当に、本当に無事でよかった……!」


下手に身動きがとれない。が、そもそも涙ぐんでいる女の子を払いのけるような真似はできるはずもない。


メイリアの気のすむまで、僕は彼女になされるがままだった。


……でもまあ、悪い気はまったくしない。

僕のことを想って泣いてくれる人がいるなんて、これ以上に幸せなことはないと思う。


   ◆◆◆


メイリアが落ちつきを取り戻し、僕の体力も歩けるくらいまで回復した。

となれば、この場に長居は無用。

さっさと王都に戻って、カドラオークの討伐をギルドに報告するとしよう。


「っと、そうだ」


歩きながら、僕は自身のステータスを表示させる。

新たに習得した魔法の詳細を確認しておかなくては。


「『ステータスドロー』」


==========


『フレア・レジスト』

(レベル1・消費100・CT360・威力-・速度A・射程D・持続D)

指定した範囲における、すべての魔力現象を無効化する。

効果範囲と効果時間は二律背反の関係にある。


『フレア・バースト』

(レベル☆・消費∞・CT86400・威力S・速度S・射程B・持続E)

自身の全表層魔力を代償に放つ、無属性攻撃魔法。

『無』の力によってあらゆる存在を消滅させる。


==========


「な、なんだこれ……?」


良くも悪くも、驚くしかないスペックだ。

特に『フレア・バースト』のほうはデタラメな値が目白押しだ。


「魔力消費∞に、チャージタイム86400秒……。リュート、あなたの魔法はつくづく常識の埒外にありますね」


メイリアはあきれまじりの嘆息をこぼした。


「86400秒って……これ、24時間ってことだよな」


「一日一回しか使えず、いざ使えば強制的に魔力枯渇状態に陥る……。威力はとてつもないですけど、気軽に使える魔法ではありませんね」


「だなぁ……」


気軽に使えないどころか、絶体絶命の危機に陥ったとき以外は禁じ手としなければならないだろう。

『フレア・バースト』は、まさしく最後の切り札ってわけだ。


「『フレア・レジスト』。こちらもすさまじい魔法ですね。いかなる魔法も『無』効果する『フレア・レジスト』に、あらゆる存在を『無』に還す『フレア・バースト』――この二つこそが、真の無属性魔法なのかもしれませんね」


「そうだな、僕も同意見だよ」


まあ本音をいえば、もう少し使い勝手のいい魔法だとありがたかったんだけど。


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