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蒼き蝶に赤き花  作者: 織星伊吹
第3章 蒼き蝶に赤き花
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第84話 卒業 ~追想~


 用を足し終えて教室に戻る最中、三人組のヘンなヤツらが視界に入り込んできた。


「かぁぁ~! ぺっぺ! 卒業式とかマジゴミじゃね? どうせみんなピーコラ泣いてSNSに上げまくって謎のBGM付けて感動拡散すんだろ? かったるいったらありゃしないぜ、ピーコラピー!」


「同感だぜ。体育館取り壊す方向で行こうぜ。そんで代わりにお花屋さん開こうぜ。ピーコラピー」


「いやそれは意味解らんけど。まあでも最後の最後までセンコーどもの面なんか別に拝みたかねえよな。おら、一本どうよ。ミチオ、フジ」


 健治が懐から抜き出した白くて細い筒を指で挟みちらつかせる。


「こ、これがニコチンってやつですかい……? ピ、ピーコラポー」


「シガレットだよ。つかフジ、なんだピーコラポーって。脳味噌ニコチンコか、お前」


「ニコチンコってっ……! ぶふっ」


 吹き出す藤川の横で、ミッチーが受け取ったシガレットを早速指に挟み、吹かす。


「ふぅぅ……俺、これ好きだぜ。最高にハイって感じだ。これで俺も肺が真っ黒になっちまうってなもんよ。これが格好いいんだぜ」


 ミッチーがチラッとこちらに視線を寄越したが、俺はガン無視して教室に入り込もうとする。


「おいおいおいバタフライ! 待たれよバタフライ!」


「いや……なんかやってんな、近寄りたくないなと思って」


「そこはもっと近寄ってくれよ!」


「それは……なんかそれで嫌なんだが?」


 もう魂の叫びじゃん。ガン決まりな表情で俺の肩をガッチリ掴んでくるミッチー。こいつ、卒業したらこの先大丈夫なのかなと俺は心配になった。


 そう、今日は卒業式だ。

 ずっと先のことかと思っていたのに、本当に三年間なんてあっと言う間だった。


「あーん? なんやねんな……あんちゃん」


 この世で最も無益なコントに蒼希蝶が参戦したと勝手な解釈をしているであろう健治が咥えたシガレットを上下に動かしながら迫ってきた。その傍らでは藤川が半ば痙攣している。

 大丈夫かこいつも。爽やかイケメンキャラどこいった。


「ヤンキーコントのつもりなのか知らんけど、藤川はもはや引き笑いで呼吸困難に陥ってるし、ミッチーはミッチーだし、お前はただのシガレット小僧じゃん。カオスだよ。一体何がしたいんだよ!」


 本当に下らなすぎてどうしようもないなと思いつつも、つい口角は上がってしまう。自由登校期間も普通に遊んでたけど、制服を来て、こうして皆と会うのも今日が最後なんだ。


 なんだか……感慨深い。


「んだよ蝶! そこはお前もガン付けてぶつかってきて、お互いの髪の毛を引っ張り合いながら爪立てて引っ掻き合う男通しの戦いのシーンだろ~!」


「女々しすぎる……てかもういいから、そんな痴態を教室の前で晒すんじゃないよ。友達として究極的に恥ずかしいわ!」


「そんなこと言って近づいてくるくせにな~。かまってちゃんはどっちだよって話だよな~、ミチオよ」


「なあバタフライ、このシガレットってヤツをよ、俺は今日初めて食べたんだが、コイツはマジでイケるぞ。俺の食いかけだけど……やるよ。今回だけだぜ?」


「何を特別感出してんだ、普通にいらんわ!」


「ったく、お前はいつからそんなツッコミキャラになったんだよ!」


「お前等のせいじゃね!? 普通に考えて!」


「バタフライはバカだからなぁ。ツッコむことしか出来ないんだろ」


「え、何ソレ。なんかエロくね? 『蒼希はツッコむことしか出来ない』ってタイトル。むしろ格好良いわ、次はこれでコントすっか? 俺脚本書くわ」


「ンナッ、ハンゥ、ヒッーンッ、ヒッーハッハッ、ンナハァー! ンハァー!」


 リノリウムの床で横になりながら暴れている藤川の笑い方が、今――進化する。


「……とりあえずムハンマド語を提唱し始めてる藤川を保険室に運ぶか」


「ハンゥヒッー ムハン……マド――じゃ……ハッハッハヒーン……ないっ」


「引き笑いの中、とりあえずムハンマド語は否定することはできたようだ」


 顎に手をやりながら健治が冷静に語る。


「テキトー言ってる場合じゃないから! こいつマジでヤバいぞ! 急げ!」


 体格の良いミッチーの背中に藤川を担がせて、バカ笑いしながら俺たちは保険室を目指して出発する。


 そんなとき、教室の中から中嶋が出現する。


「ちょっと~大バカ四人! 何やってんのよ、もう教室に集まれっての~!」


「藤川がヤバいことになってるから保険室に行ってくるぜ」


「はあ……? うわっ、イケメンが台無し」


 中嶋、イケメン藤川のヤバい表情に若干引く。

 こうしてイケメンの評判がガンガン落ちていくんだなあ……っていうか彼女持ちだしむしろヘンな虫を払うためにやってるんだ、俺たちは!(故意で引き起こしている訳ではないが)


「外見で人を判断するなんてな。ふっ……センターアイランドはまだお子様の中のガキ中の子供だからなぁ」


「超お前に言われたくないんだけど……てか何言ってんの? 意味不明。キモッ」


「キ、キモッ……? は? キモいとかそんなん……な、無いだろ……んだよ……本当によ……まったく……くそがっ」


 ミッチーのガラスハートに無数の斬撃が刻まれた。

 藤川を担ぎながらとぼとぼと保険室に向かうミッチーの後ろ姿を笑った健治が、中嶋の肩にポンと手を置く。


「中嶋ももっと優しくしてやれよ。アイツ、お前のこと好きなんだから」


「は、はあ? 急に何言ってんの? てか、触んな変態、お前は死ね」


 ゴミを見るような目で、中嶋は健治の手を弾き飛ばした。


「え? 俺へのアタリ尋常じゃなくね? なんで?」


「それは周知の事実だろ。何を今更」


 俺は健治に現実を突き付けて、ミッチーに付き添ったのだった。


 卒業したら、こいつらとこうしてバカやる機会も無くなってしまうかもしれない。

 だけど、ときたま会ったときに今日みたいな無益な日々を笑い話にすることができるなら、それはきっと俺の人生に素敵な思い出を作ってくれるはずだ。



 * * *



 式の最中で、俺はこの高校での三年間を思い返していた。

 本当に楽しかったな。特に、ラスト一年……この三年生の期間は。


 健治はともかくとして、ミッチーや藤川に出会えたこと、四人でバカをやってるときが実は人生で一番面白いときなんじゃないかと、たまに思ったりもする。


 ……花とも、昔みたいに接することができるようになったし。

 まさか、恋人同士になるだなんて、想像はしたけどまさか本当に実現するとは思わなかった。



 すべてのきっかけは――花が、あの日、ウチに来てから始まったんだ。



 ――――あ、あの……赤希ですけど。


 消え入りそうな声で。見ず知らずの人に話しかけるみたいな声音の花を思い出す。

 あのときは胸が痛かった。


 だけど、そこから始まったんだ。


 長い間凍っていたモノが少しずつ温められて、柔らかくなっていくような……。

 でも……きっとまだ途中なんだ。俺たちは。ふわふわしたこの感覚がずっと続くかどうかなんてわからない。

 まだ凍っている部分――俺の知らない花は、きっとまだたくさん居るだろう。


 できる限り、知りたいなと思う。すべてをわかることはできなくても、もっと色んな花と自然に馴染んでいきたい。彼女と一緒の人生を一緒に驚きたいし、楽しみたい。


 当然……それは俺も同じだけど。

 少しずつ、心を通わせられたら良いなと思ってる。


 いつかきっと、花は芸能人になってしまうから、俺たちの間にはきっとたくさんの困難が待ち受けてる。普通のカップルよりも大変かもしれない。女の子とのお付き合い自体が始めての俺に、その先を想像することは難しい。


 でも、花が決めたことだ。

 子供の頃から夢見ていた世界に片足を突っ込んだ彼女の道だ。


 俺が心配するのもおこがましい厳しい世界。

 成功するかどうかなんて、誰にもわからない。


 でも、決めたんだ。花の支えになるって。


 ――俺が、花の心を支えられる柱になるんだ。


 俺も花も、もうすぐ19歳だ。となるとハタチもすぐ目の前で、大人と子供の中間じゃなくなる。社会的に成人するんだ。


 健治たちとさっきはふざけたけど、タバコも酒も本当にやるかもしれない。もう子供じゃないから。


 もっとしたら……結婚を考える年頃になって――。


 幼い頃に約束したとおり、花と結婚するかもしれない。


 そうしたら、将来的には子供だってできちゃうかもしれない。今の俺にはまだそんなこと考えられないし、笑っちゃうけど。


 もう、そんなに先の未来じゃないんだ。

 ワリと、もうすぐ目の前まで来てるんだ。俺は、大人になるんだから。


 不安や心配は山ほどある。こんな、教室の前でバカやるくらい子供なのに、急に切り替えられるのか全然わからない。


 ほんの十年前は鼻たれのガキんちょだったのにな……あんなにチビだった俺も花も、もうそんな年頃になってるんだ。


 一丁前に恋愛をするようになって、身体も、心も大きく成長して……。


 本当に不思議だ。


 こんなにも、幼なじみの君に恋しちゃってるんだから。


久しぶりに書いていて思ったけど、花が回想ワンシーンしか出てなかった……。

まあ男子たちのバカ話も蝶花の特徴ってことでここは一つ!

更新頻度上げてきます!

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