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蒼き蝶に赤き花  作者: 織星伊吹
第3章 蒼き蝶に赤き花
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第81話 蝶と花のクリスマスイブ①


 12月24日――クリスマスイブ。

 恋人たちの聖なる夜に、俺はサンタさんからコンドームのプレゼントをもらった。


 赤と緑のクリスマスカラーで包まれた素敵な箱の中から、『薄』やら『0.02』やら『蝶』のデザインマークが見えた途端、俺は咄嗟に目ん玉をひん剥いて、和やかな微笑みを浮かべる若いエロサンタを睨み付ける。


「サンタさん……いや健治さん、これはどういうことっすか」


「皆まで言うな……ちゃんとお前のシンボルマークも入ってるじゃねえか」


「そういうことじゃないんだよ! なんでプレゼント交換にこういうの入れようとか考えちゃうんだよ! 包んだ側も包んだ側だけどさ!」


「そこんとこはワリと頑張った。悪戯だと思われたからさ、『俺はマジっす。これで今夜救われる男が居るんです』って泣きついたら店員さん折れてくれたわ」


「なんで泣きついてんだよ意味がわからん……それに折れたらダメだろ店員さん」


 終業式を終えた俺たちは、近所のカラオケボックスでクリスマスパーティーをしていた。メンバーは修学旅行で仲良くなった中嶋、酒井、佐藤、花の女子四人組と、藤川、健治、ミッチー、それから俺の男女八人組だ。

 あの日以降、何かとこうして集まることが多くなった俺たちは、学校内でも珍しく男女仲良し組だった。しかもその中でカップルが二組居るという。別にそんなつもりもないけど、なんか途端にリア充っぽい気がしてきた。


 まあそれは良いとして、なんで俺は健治のプレゼント当てちゃうのかなあ……。


「お前と俺は運命共同体だからな。当ててくれて嬉しいぜ親友。大事にしてくれよ。ていうか今夜絶対使えよ? 冬休み中に一回その箱確認するからな? もし中身が減ってなかったら……そうだな、お前……俺の前で致せ」


「地獄絵図か。ふざけんな馬鹿」


「おいいいいいいいい! 俺これ買うとき相当勇気振り絞ったんだぞおおお! コンドームにクリスマスラッピングしてもらう俺の気持ちがお前にわかんのか!? 

そんな俺の行動が報われないとかそんなの嘘だろぉぉぉぉぉ!」


「なら買わなきゃ良いだけの話だろが! 大体これ女子に当たったらどうするつもりで――」


「――蝶、誰のプレゼントが当たったの?」


 俺と健治がこそこそ話していると、にこにこ嬉しそうな花が声をかけてきた。

 うんうん、クリスマスパーティー楽しいね。ホント無邪気な天使かよ。健治の汚い発言すべてをこの最愛の恋人には聞かせたくない。


「ああ、えっと……健治からのだったよ」


「飛谷くんのプレゼントなんだった!? 見せてみせて!」


 キラキラ目を輝かせて……めっちゃ興味津々じゃん。可愛いなあ。抱きしめたい。


「あの……いや、花にはまだ早いというか……なんというか」


 コレなんて言えばええねんな!? マジでなんて言えば良いねんな!? この辺り一帯の空気が凍るの簡単に想像できるよ俺! 男子だけならまだしも女子がいるこのグループで爆笑とか絶対起こらないから! マジでふざけんなよ馬鹿健治!!


「ハア? ちょっと何それどういうことよ飛谷! 一体何を買ったのよ!」


 中嶋が苛立ちながら立ち上がった。


「それは男にしかわからねえロマンなのさ」


 ロマンを購入したらしい健治は、中嶋からのプレゼントでお洒落なマフラーをゲットしていた。俺もそういうのが良かったんですけど……。早速首に巻いて何ファサァ――ってやってんだよ。嬉しそうにしやがって。マジふざけてんだろお前!!


「花、どうせろくでもないものだから気にしないほうが良いよ。それより早くそれ開けようよ」


 男子のエロ波を敏感に感じ取った佐藤が(この表現自体全然良くないが)、小さなため息と共に花の頭を撫でる。

 そんな傍ら、俺の正面でとある男がうずうずしていた。


「お、おい、早くしてくれよ。俺はプレゼントを開けるのを待ってるんだぜ。フラワーが開けないことにはこちらも始まらない。俺は気になってるんだ。俺の元にやってくるプレゼントがバタフライのものなのか、それ以外か――という点において、非常に慎重になっている」


 ――お前は一体何を言ってるんだ感がハンパないが、俺のプレゼントそんなに大したものじゃないからあんまり期待しないほうが良いよミッチー。


「なんなのよ三井は、どんだけ蒼希のプレゼント欲しいのよ」


 ミッチーの隣で中嶋がうりうりちょっかいを出すと、ミッチーはきちんと膝上に置いているまだ誰のものかわからないプレゼントを必死に庇った。


「やめろセンターアイランド! プレゼントにまでダメージがいったらどうするつもりなんだ! スノードームとかのワレものだったらどうするつもりなんだ! 弁償できんのか!? えぇ!?」


 ぶっちゃけ言うとあの包みは俺のプレゼントなんだけど、そんな可愛いものは買ってないから安心しろ。そしてお前、スノードーム欲しいんか。今度買ってあげよ。


「……むう。蝶のプレゼント気になるのに。あ、あとで絶対教えてもらうからね!」


 納得いかないらしい花は頬を膨らませつつも、自分の前に置かれているプレゼントに手をかける。

 俺と似たような包みの中から出てきたプレゼントは、何やら衣服だった。


「何コレ……赤い、服?」


「しゃあああああああああキタコレビンゴォ!」


 突然健治が立ち上がってガッツポーズをキメた。

 なんだ? お前は情緒がヤバいのか?

 そんなことを思っていると、続け様に健治はこんなことを言った。


「飛谷健治プレゼンツ、クリスマス“性夜”セットの爆誕だああああ!」


 こいつが言うせいか、“聖夜”の筈なのに“性夜”に聞こえるんだが? 字面がね。いや口頭なんだから字面ってオカシイんだけどね……?


 急激に悪寒が走る俺。変質者を見るような目で健治を睨みながら、そっと花に近づいて、彼女のプレゼントを盗み見る。

 しかし、間に合わなかった。気になってしまって仕方の無い花が子供のようにその“赤い衣服”をバッ――と広げた。


「…………サンタ、さんの服?」


 白いボンボンが胸元についた可愛らしいサンタ服。

 しかしその布面積は極端に狭く、視線を下げていくほどに明らかに少なくなっている。そう――これは。


 ――ミニスカサンタコスチュームだった。因みにちゃんと帽子も入ってました。


「え、何よこれ完全にミニスカじゃん! 何? コスプレしろってこと!? ちょっと誰よ、こんなエロいのプレゼントに入れたやつ!」


 叫ぶ中嶋。当然だった。


「ミニスカ……サンタ……コスプレ」


 中嶋の声に反して、消え入りそうな声で三つの単語を繰り返す花。

 徐々に顔が赤くなっていき、遂にはミニスカサンタコスをぎゅっと抱きしめて身を屈めてしまった。穴に入りたそうにしているのが可哀想だったけど、これがまた愛おしいから俺はすべてを包み込みたい。


 当然、輪の視線はすべて一人の男に集まる。


「……ふん。バレちまってはしかたねえぜ」


「いやお前さっき叫んでただろうがよ! 飛谷健治プレゼンツとか意味わからんこと言って! ていうかなんでお前のプレゼントが二つあるんだよ!」


「細けえことは良いんだ相棒、全部俺の自腹なんだから。赤希ももらってくれるよな? 今夜ベッドの上でそれ装着さえすれば、おまえらのクリスマスイブも盛りあがること間違いなしだぜ」


 ――スチャ、と健治が白い前歯を見せながら親指を立てた瞬間。

 バキッ、とその指がヘンな方向に曲がる。


「死ッ!!」


「ぐわはぁああああああああああ!! アカンて!! 中嶋さんそれはアカンて!!」


 中嶋キックが炸裂し、健治は部屋の片隅に吹っ飛んでいった。そんな騒動の最中、待ちきれなかったミッチーがプレゼントを開封した。


「俺にはわかる……これはバタフライからのプレゼントだ……。クソ、バタフライのくせして俺を手こずらせやがって……でもやったぞ。俺はやったんだ! ついにバタフライのプレゼントを引き当てたんだ!」


 なんの面白みもない実用性バッチリの豪華文房具セット、ミッチーは涙を流しながら胸に抱きかかえた。コッチが引くくらいには喜んでくれていた。


 藤川と酒井については偶然にもお互いのプレゼントを交換することができたし、一部を除いて万事解決だなというところで、一つ問題が発生した。


「あれ、なんか一つ多くない? 誰のこれ」


 酒井がまだ未開封のプレゼントを持ち上げた。


「その包みは……俺のじゃないか」


 信じられない、といった表情でミッチーが俺のプレゼントを傍らに置いて立ち上がった。

 そう、健治のプレゼントが何故か二つも混ざっていたことで、誰かのプレゼントは余ることになってしまうのだった。


「バタフライのプレゼントに当選できたことは喜ばしいことだ。だがしかし、何故俺のプレゼントは誰の元へも届かなかったんだ?」


「当選って言い方やめろよ、俺は一体なんなんだ」


「バタフライはバタフライだろ……クソ、なんで俺のプレゼントは誰にも……」


「ミッチー……やっぱお前って持ってるわ……なんでそんなにおいしいやつなんだよ」


「俺はおいしくなんてないぞ!! 食えるわけが無いだろう、人間だぞ俺は!」


「まさかその返しで来るとは思わなかった」


 もはや驚きもしない。こいつは何処までいってもミッチーなのだ。


「お前さえよければ、それは俺がもらいたいな」


「気休めは止してくれ! そうやって俺を哀れんでいるんだろう? そうなんだろう!?」


「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……でも、じゃあ……健治は一応プレゼント二つ用意してくれたわけだから、健治に――」


「ふざけるな! これはバタフライのために買ってきたんだ! 他のヤツに手渡される想定はしていなかったんだぞ!」


「なんなんだよお前は! めんどくさいなもう!」


 じゃあなんで健治のプレゼントだって判明したときに騒がなかったんだ、一体なんなんだお前は。


 結局、ミッチーのプレゼントは、ディズニーランドのおみやげで良くあるミッキーの被りもの(クリスマスバージョン)でした。


 なんで俺のためにこれを買ってきたんだよミッチー! ミッキーだけにってか?

 とりあえずその場でそいつを頭に被ってみたら、泣きべそをかいていたミッチーも喜んでくれました。その真相は……すべてが闇に包まれている。


 ミッチーとくだらないやりとりをしている間にチラリと花と目が合うと、彼女はミニスカサンタコスと俺の顔を見比べてポッと頬を染めてはそっぽを向いた。


 偶然とはいえ、花のミニスカサンタが俺はとても楽しみになりました。

 健治……本当に良くやってくれた。お前は良い奴だ。


 俺は、部屋の片隅で転がってる友人に心の中で親指を立てた。



お久しぶりのオリジナル掌編です。のびのびと書かせていただきましたら、結果ただのコメディになりました。②はちゃんと蝶と花のイチャイチャクリスマスイブになりますので!

たぶん③、④くらいまで続くかなと思います。②は一週間後に投稿予定。

皆さん、去年は良いクリスマス過ごせましたか?(もう新年だけど)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 織星先生固有の「青春感」がものすごく好きです。 [一言] 初感想かな?失礼します。 私の織星作品との関わりの暦は蝶花を源流としており、ワンルームやワナビ俺なども読ませていただきました。 ど…
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