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蒼き蝶に赤き花  作者: 織星伊吹
第3章 蒼き蝶に赤き花
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第78話 俺の口臭は足の爪の間に挟まったヘンなゴミ級にかっ飛ばしているからウンコ星人に……俺はなるっ!

 泣きじゃくる花の頭に優しく触れてから、彼女の頬を伝う綺麗な涙を指ですくい上げる。


「舞台劇のこと、やっぱり教えて欲しかったよ。俺は……花のことなんでも知りたいから」


 花の潤んだ茶色の瞳を見つめながら、彼女の手のひらを握る。


「うぅっ……蝶……ごめんね、これからは何でも相談するからぁ……」


 落ち着かせるつもりが余計に泣かせてしまう。なんだか幼い頃のやりとりを思い出して、頬の筋肉が緩んだ。


「演技、上手だったよ。恥ずかしがることなんてないよ。お世辞なんかじゃない。本当にそう思ったよ。花には才能があるから」


「……うぅ~、そんなに褒められると照れるぅ……うぅええん」


「泣いてるのか照れてるのかどっちなんだ」


 吹き出しながらツッコミを入れてしまう。花の泣き声は、俺に妙な心地良さを与えてくれる。とても安心するんだ。この場所で、花と一緒に居ることに。


 俺は、幸せ者だ。好きな人とこうして結ばれて。


 だから――、きっと大丈夫なんだ。


 花との大切なこの関係を、この場所を、想い出を、これからも守るために、俺は花を心の底から送り出さなくちゃいけない。


 そしてそれを、花に言葉で伝えなくちゃいけないんだ。

 泣き止んだ花と二人並んで頬を夕色に染めながら、俺たちは向き合った。


「あのさ、花は……本当に、心から女優に……芸能界に入りたいんだよね?」


「え? うん! ……お芝居したい、色んな役が出来る女優になりたい」


 無垢な言葉で愛らしい微笑みを浮かべて、花がそう言った。

 それだけで、俺には十分だった。

 何も難しいことなんてなかったんだ。花が望むことを、俺は祝福してあげたい。

 その気持ちだけで良かったんだ。他には、何もいらない。


「……俺、応援するよ、心から。本当に心の底から」


「……え? だって、前も応援してくれるって……言ってくれたよ?」


 花が顔を傾げながら、ポカンとした表情で言った。そんな彼女を見ていると、本当にこの先やっていけるのか、正直不安になる気持ちも強いけど、きっと大丈夫だろう。

 これからたくさんの壁にぶつかることもあるだろう。だけど、そんなときに俺が花の支えになってあげられたら……それだけでいい。


「……俺もさ、本当に変われる様に頑張るから、花のためにも。自分のためにも」


「蝶……? どうしちゃったの?」


 もう、今までの卑屈な自分とはさよならだ! 俺は生まれ変わる!


「うわああああああああああああ! 頑張れ花ァ――!」


「ちょ、ちょっと……! 蝶ってば本当にどうしたの!?」


 俺たちは幼馴染だ。外面を良くしようが、格好つけようが、幼い頃からの内面をお互い知り尽くしてる! 面倒な駆け引きなんていらないし、好きに思いを伝え合えば良い。嫌なことは嫌だとはっきり言い合えば良いし、悩みは相談し合う。そして楽しいことは二人で分け合うんだ。


 花のことが好きだ。だから彼女の夢まで一緒に願う。応援する。それが、きっと花の一番喜ぶことだから。そしてそれは、俺が嬉しい。


 ありったけを込めた俺の手のひらを、花の背中に注入する。


「頑張れ! 花っ!」


「え、ええ……? なんなの本当に……頑張りますけど……松岡修造?」


 花が不思議そうな顔で背中を摩りながら、俺の顔を覗き込むようにしてくる。


「どうしたの? あと俺は松岡修造じゃないよ」


 俺のツッコミに返事もなく、花が悪戯な笑みを浮かべて、俺の手の甲をそっと指でなぞってくる。


「な、なんだよ……くすぐったいな」


 なんだか身体の中心辺りがキュンとくる。触れられるのは、やはりどこであっても全然慣れない。とても嬉しいのに、素直には言えない。


「えへへ、こちょこちょ」


 今度は悪戯に俺の脇腹辺りをまさぐってくる。子供か! でも嬉しい! ああ、もっとやって!


「ちょっと! マジでくすぐったいってば!」


「あっ……」


 花の手首をぎゅっと握って、やめさせる。

 至近距離で――花の瞳と目が合う。


「蝶……」


 花が俺の名前を艶っぽく呼んでから、もじもじと太ももを動かす。

 なんだか――久しぶりだ。こういうの……。


「……何?」


「…………あのっ」


「……うん」


 花が上目遣いのまま、薄桃色の唇をゆっくり開く。


「…………す、好き、……だよ。……すっごくっ」


「お、俺だって…………好きだよ。凄く」


「……えへへ。わたしも」


 ふにゃりと溶けたような愛らしい笑顔で、花が笑う。

 お互いに言葉が無くなると、もう相手の顔をじっと見つめることくらいしか、することがなくなっていることに気付く。

 顔が燃えるように熱い。それなのに、指先や足の先は異様に冷たくて、体の感覚が麻痺しているような気さえしてくる。


 沈黙の中、先に言葉を発したのは花だった。


「そ、そのっ……えっと……、“ちゅー”とか、……あの、……す、する?」


 真っ赤っかな顔で花が微妙に身体を寄せつつ、とろんとした丸い瞳で、そんな魅力的過ぎる甘い言葉を囁いた。


「え……? え! ……ちゅー……って……え、あ、や! そ、それは……」


 やべえ! 花が俺を誘ってきてる!

 可愛すぎる! なんだこれマジか実在したのかこんなマンガみたいな展開が!

 まあ心なしか疑問系だったような気がするけれどもそんなことは気にしない、否関係ない! 俺たちの前には疑問系だろうと現在進行形だろうとなんだとうとかまいやしない!


 キス……なんて、あの日以来だよな。何度か挑戦してみようとしたけど、どれも上手くいかなかったし……。俺にとっても花にとっても、やっぱりそんな簡単なことじゃないから。


 だから、花から言ってくれるなんて滅茶苦茶嬉しいや。


 だけど…………。


「いや……その、なんていうか」


 頬を掻きながら、遠くの空を見上げる。花はそんな俺の不審な様子を見つめては、より顔を赤く染めていく。


「……っ! ……そうだよね。ご、ごめんね……ヘンなこと言って」


 残念そうに、花が肩をがくりと落とし込む。


「えっと、その、違うんだ……」


「ううん、ごめん……なんかわたし、恥ずかしい。……このこと、絶対、忘れてよね」


「…………いやー……」


 違うんだ、花。

 君のせいじゃない。全部、俺が阿呆すぎてヤバいだけなんだ。

 今日の昼ご飯、俺は大量の餃子を食いまくっていた。ウンコ星人なのか俺は。

 歯磨きをしたにもかかわらず、匂っている。俺の今の口臭は足の爪の間に入ってるヘンなゴミを取りだしたときに匂うレベルと同等だろう……。つまり、ハンパなくかっ飛ばしてる。


 でもなんかあれクセになるんだよなあ……たまに嗅いじゃう。

 いや何言ってんだよお前、頼むから早く死んでくれウンコメン。


 ああ……もう、今度から、常時ミンティア持ち歩こう。うん、そうしよう。



悪臭ってなんなんでしょうね。不快になるはずなのについつい嗅いじゃう。あと一回、もう一回だけ……って感じで。学ランのボタンとか触った指先とか滅茶苦茶臭いですよね。現役学ラン諸君はわかってることだろうけども。え……私だけじゃないよね!?

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