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蒼き蝶に赤き花  作者: 織星伊吹
第3章 蒼き蝶に赤き花
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第65話 俺の秘蔵コンテンツ


 すうすう寝息を立てる雪ちゃんにタオルケットをかけてから、俺と花は彼女を起こさないようにベッドから立ち上がった。


「……勉強、してるんだ」


 俺の勉強机を見下ろしながら花が言った。机上には受験生らしくたくさんの学習参考書が散らばっている。


「まぁ、一応受験生だし」


「そういえば、大学はどこに行くの?」


「一応、四季大」


「そうなんだ。ウチの学校から行こうとしてる人結構いるよね」


 花が俺の椅子に座り、微笑みながら手招きをしてきた。


「何?」


「ふふふ~、問題出しちゃおうかなあって思って」


「なんでよ」


 笑いながら口にする。


「蝶がちゃーんと勉強してるのか確認するため!」


「ふっ。バカにしてくれちゃってさ。あんまり俺を舐めるなよ――!」


 袖机を引き出し椅子代わりにして、隣で俺はノートと筆記用具を構える。花は参考書をぺらぺらめくりながら、数問の問いを提示してきた。


 結果――普通に惨敗する俺。なんかあえて難しい問題を選んでる様な気がするんですけど!


「全然ダメじゃん! ……本当に勉強してるの?」


「失礼な! してるよ! 今はたまたま運が悪くて……そのアレなだけで……」


「……わからないところがあるなら、教えてあげようか? ふっふっふ、今ならお姉さんがなんでも教えてあげるよ」


「……な、なんでもって……なんだよ、それ」


 冗談のつもりで言ったんだろうけど。なんだか照れてしまって妙な返しをしてしまう。


「や、やだ、冗談で言ったのに! 本気にされると恥ずかしいから忘れて! 今のナシ! ナシだからね」


 顔を真っ赤にしながら、彼女はびっと胸の前でバツ印を作る。そんな花の横で俺は自然に笑みを浮かべていた。


「じゃあ教えてよ、お姉さん」


「す、素直だね……」


 唇を尖らせながら、花が照れる。だったら言わなければ良いのに……! こっちが恥ずかしくなるんですけど!?


 結局、流れのまま勉強を見てもらうことになった。

 昔から要領の良い花のアドバイスはわかりやすくて捗る。まあ、それ以前に一つの机にこれだけ身を寄せ合うこともなかったので、俺はドキドキが収まらなかったのだが。


 ――花はどこの大学行くの……?


 ふと頭を過ぎった言葉。そのまま口にすれば良いのに、俺はできなかった。

 なんとなく……怖かったからだ。


 気付けば窓からは夕色の光が差し込んでいて、俺たちの頬を明るく照らしていた。


「うんうん。正解! オッケーだね! じゃあ休憩にしよっか」


 言いながら、花が身体を伸ばす。

 俺は瞬時に彼女から視線を反らしてしまう。ほっそりした身体ながら突き出た部分に、ちょっとだけ色っぽさを感じてしまったからだよ!


「あの、ありがとう。花先生の授業、優しくてわかりやすかった」


「えぇ、本当? なんか照れちゃうなあ。恥ずかしい。……でも、お役に立てたのなら、どういたしましてっ」


 照れながら嬉しそうに花は笑った。

 そのまま彼女は椅子から立ち上がり、部屋の片隅で積まれたままの山に目を付ける。ちょっと前にやって来た中学時代の友達読みっぱなしにしていたマンガや雑誌だった。掃除しようと思いながら、そのまんまだったのだ。


「何コレ汚~い!」


「あっ、これはあとで掃除しようと思ってて……」


「そういうこと言う人って絶対掃除しないよね」


「そう……っすね」


「もう、しょうがないなぁ。わたしがお掃除してあげるよ」


「別にいいからほっときなよ」


 ――ちょっと嫌な予感。しかし、花は山に手を付け始める。

 花の瞳がキラリと光る。


「あ! このマンガ見たかったの。貸して欲しい!」


「ん、あぁ? い、いいよ」


「でもどうして男の子ってお掃除ちゃんとしないんだろうね」


「い、いや……常日頃整理するつもりでっ……てゆーかマジでいいからほっといて!」


 思わず俺も立ち上がり、花の手を止めようとする。しかし、彼女はにこっと笑う。


「そう言われちゃうと余計やりたくなっちゃう! 任せてよ、綺麗にしちゃうから!」


 ああそんな! 気持ちはとんでもなく嬉しいのに、今はある意味逆効果だ!

 花は腰を下ろして本格的な作業に入り始める。

 あれか、他人の本棚が気になる的なヤツだな、これ。


「ふうーん、ファッション誌とかも読むんだね」


「ま、まぁ……安かったから」


 言い訳が良くわからねえ! 何言ってんだよ俺、マジで気が動転し過ぎている。ファッション雑誌見られるのでさえ「あっ……こいつイケメン目指してんだうわー」みたいに思われちゃうと恥ずかしいのに……!


 思春期男子の雑誌なんか絶対に見せたくない――なんてことを思っているとき、どぎついピンク色の端を俺の視界が捕らえた。まったくもって今出現してほしくないエンタメ雑誌である。

 俺はそっと手を伸ばし、花に気が付かれないように素早くそれを背後に隠した。


「ん……? 今、何か取った?」


「……え」


「!」って効果音付きで出てるよ絶対。


「な、何が……?」


 なんとか知らん顔を浮かべながら、しらばっくれる。


「え~、でも絶対何か取ったでしょ? 何隠したの~?」


「……いや、別に」


 悪戯な笑みをしながら、花が俺の背後を覗こうと首を伸ばしてくる。

 そんなことをしたってダメだ! 絶対に見せられない!

 花はこういうの苦手だろうし、きっと気まずくなっちゃうし、軽蔑されるのは必須だ。花に幻滅されたら俺は死ねる。


 以前ちょっとだけ性的な話をしたときは実際にエロコンテンツだとわかるものを前にしながら会話をしたわけでもなかったからアレだったけど、今回はモロだ!


 絶対に、何がなんでも死守すべきである!


 見られたら――絶対に変な空気になるのは必須!


「ねぇ隠さないで見せてよ~!」


「……あ、あのね、花は絶対に見ない方がいいと思うよ」


「え? どうして」


 顔を傾けながらきょとんとする花。純真な花は本当にわからないのかもしれない。ああ、そんな君を汚したくないのだけど……! この葛藤苦しい。


「……そ、それはっ」


「もうじれったいなー! いいから見せてっ!」


「あっ」


 遂に花が強引に隠していた本を奪い取った。


 花の瞬きが、明らかに多くなる。そしてほぼ同タイミング耳の端まで真っ赤にして、石のように固まってしまった。


「…………」


「…………」


 あーあ、やっぱりこうなった。

 もう嫌だ。でも俺だってもう十八歳だし、こういう本を読んでるのは事実なんだ。ここは堂々と、真っ直ぐにぶつかっていくべきなんじゃないか? 戦うべきなんじゃないか?(何と?)


 決意を固めると、俺は花の瞳を見つめる。


「…………引いた?」


「……えっ!? あ、あのっ、その、えっと……」


 わかりやすくあたふたしながら、彼女は俺から視線を外して、真っ赤な頬を押さえた。そんな仕草を見ていると、やっぱり女の子だなあと微笑ましくなる。

 そしてこういうときは、やっぱりお互いの目を見るのが恥ずかしくなってしまう。


「…………」


「…………」


 目の前にはエロ雑誌を持った花が居て、顔が真っ赤であたふたしてて。

 俺の正体……というか、まぁ健全な男子高校生のありのままの姿に初めて触れてしまったわけで。イメージはできるかもしれないけど、あからさまな証拠品を見たのは初めてなんじゃないか。


 チラリと花を一瞥する。彼女は顔を横に向けながら、手のひらをうちわ代わりにして頬の熱を冷まそうとしていた。

 一瞬だけ目が合っても、やっぱり反らされてしまう。


「恥ずかしい」という感情が、やっぱり大部分を占める。だけど、同時に花の反応が少し気になる俺もいた。こういうことについて、花は女の子としてどう思っているのか、中学生頃から気になっていたから。


 花はもう一度雑誌をじっと見つめて、気まず過ぎる空気に耐え切れなくなったのか、遂に口を開いた。


「……あの、こ、これ…………エロ本?」


「……ん? う――ん」


 またもや煮え切らない返事を返す俺氏。

 すると花が小声で言った。


「……よ、読んだり……するんだね」


「…………う、うん」


 あぁ、もうなんだかとんでもなく後ろめたいのだが。なんだろうかこの感情は。……軽蔑されたかな……俺のこと、キモいって思ったのかな。


「…………」


「…………」


 指先がじんじんする。緊張のあまり、いつの間にか足が痺れていたらしい。

 だけど目の前にいる花が気になってしょうがなくて。俺は彼女のことを見つめようと必死だった。

 花の表情が、顔が、もっと見たくって。


 でも、君は俯いているから覗けなくて。


 もどかしいけど、凄く恥ずかしくて……。

 ドキドキしてしまうのだ。



純真無垢な幼馴染にエロ本見せて存分に辱めたい! さあ、皆さんご一緒に!

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