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蒼き蝶に赤き花  作者: 織星伊吹
第2章 北海道物語
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第48話 大好きな君を探しに


 ようやくして、リフトは再び動き出した。

 そして、降りたそこに広がるのは、一面の銀世界。


 天気が荒れるとは聞いてたが、まさかここまでとは……。

 天災というのは本当に怖い。突発的な気象変化や地震などに、抗う術を人間は持っていないからだろう。

 俺の身体を容赦なく吹雪が殴打してくる。

 じきに、スキー体験も中止になることだろう。


 俺は装着していたゴーグルを取り外して、一面真っ白の下り坂に目をやった。


「うぉ……流石に凄いな」


 独りでに声を上げてしまうくらいに綺麗な雪景色。ゴーグル無しだと数十メートル先さえ見えない。


 ――大丈夫かな、花。


 早く花と酒井を探そう。

 ゴーグルをがっちりと装着して、俺は二人の姿を探しながら入念に坂道を下って行く。


 着実に人の数が少なくなってきている。

 滑っていて最初に感じたのはそれだった。数人のスキーヤーとすれ違ったが、ウチの生徒とは出会わなかった。

 腕にえげつなくダサい高校指定の腕章をつけているから、見つけるのは容易なんだけどな……。


 ――みんな、もう降りたのかな。そしたら花と酒井もそうだよな。

 そんなことを思い少しだけほっとしていると、視界の中で大きく手を振る人物。

 ウチの腕章を着けた教師らしかった。


「君、うちの生徒だね」


「はい」


「わかってるとは思うが、今日のスキー体験は猛吹雪で中止だ。そこのリフトを使ってすぐにホテルへ向かいなさい」


 先生が指差す方に、リフト乗り場。

 ここへ上ってくるときに乗車するものだが、反対に下ることも可能だ。


「みんなもう戻ってるんですか?」


「いや、まだ見つからない生徒がいる、だからこうして先生総員で探してるんだ」


「そうですか」


 ――ホテルか。とりあえず、行ってみるしかないらしい。

 俺は何やらぐちぐち言っている先生を横切って、すーっと坂を下っていく。


「こら! リフトを使えって言っただろうが! おい君!! 聞いてるのか!!」


「大丈夫でーす!」


 リフトをより滑って行ったほうが早いに決まってる。

 俺は視界の悪い雪山を培ってきたスキーテクニックで乗り越え、ホテル前に

到着した。


 エントランスまで小走りで駆けると、全身に雪を被ったウチの生徒たちが密集していた。生徒たちはどうやら班ごとに別れて座っているらしい。

 ペンを走らせる先生が、生徒の確認をしていた。


「あ、蒼希!」


 誰かの声が俺を引き留めた。踵を返し、俺は藤川の元へ走った。

 そこには、班のメンバーが集まっていた。


「赤希は……一緒じゃ無いんだね」


 藤川が不安そうな表情で言った。


「……花は? 酒井、一緒だったよな」


「花ちゃんとは途中で逸れちゃって……ああ、わたしのせいだ……」


 酒井が両手で顔を覆い隠し、膝を折った。


「そんなことないよ。きっと今頃先生が探してるって。大丈夫、夕ちゃんのせいじゃないから、安心して」


 姉御肌の佐藤が、酒井を優しく包み込んで、慰めた。


「携帯は?」


「だめ、繋がんない」


 すると、先生が俺たちの方へ寄ってきた。


「2組2班、名前呼ぶぞー」


 赤希花がこの場に居ないことを確認すると、先生は記録を取って業務チックに次の班へと移っていく。


 ――もしかして……まだあの雪嵐の中に居るっていうのか……? 独りで?


 脳裏でそんな悪い妄想が蔓延る。

 俺の口から続いて出る言葉は、素直なものだった。


「俺、行く」


「え? もしかして、赤希を捜しに?」


「蝶、辞めとけって。大丈夫だ、ここは先生に任しとこーぜ」


 健治が俺の横で肩を叩いた。俺はその手を振り払った。


「先生が見つけてくれるなんて保証はないだろ」


 吐き捨てて、俺は歩を進めた。


「お前が帰って来れなくなるかも知れないんだぞ!」


 健治が歩き出す俺の肩をもう一度掴みながらに叫んだ。


 いつもテキトーなこいつだが、たまに本気で怒ることがある。

 それはやっぱり俺のことを心配してくれているからなんだろう。こんなときに、真剣な彼の表情は、俺の涙腺に少し良くない。涙が出そうになる。


 瞳の奥が揺れたのを必死に押し隠して、胸ぐらを掴んでくる健治を真っ正面から見つめる。


「この大吹雪の中、花は一人かもしれないんだ」


「ああ……それでもだ。お前が行っちまってそのまま帰ってこねえ可能性だってあるだろ」


「あいつ……寒がりだし、寂しがりやだし、暗いところダメなんだよ。きっと……怖くてしょうがないと思うんだ。…………俺が、俺が行かなきゃ。一緒に隣に居てあげなくちゃ。きっと、寒くて独りで震えてる」


「…………」


 健治が胸ぐらに力を込めながら、俺の瞳を睨み付ける。


 皆の目の前で。

 俺は初めて花に対して隠しようのない正直な気持ちを打ち明けてしまった。

 頭に血が上ってしまったせいもある。みんなもきっとびっくりしただろう。


 すると――途端に掴まれていたウェアが離された。

 健治が大きな溜息と同時に、


「はぁ~あ、ホント、花、花、って赤希のことばっかりだな、お前はよ! 気持ちわりぃったらねーぜ。このまま行く末はストーカーかなんかなわけか?」


「…………その、心配してくれたんだろう、健治は。ありがとうな」


「はぁ!? キメェ! 何言ってんだよお前!」


 健治が途端に顔を真っ赤にして突っかかってくる。


「でも、絶対二人とも無事で帰って来いよな…………待ってるからよ」


「うひゃー……! ねえねえ聞いた? 飛谷今めっちゃクサいこと言わなかった? 『絶対二人とも無事で帰って来いよな…………待ってるからよ』だってぇ!」


 中嶋が、人真似をしながら健治のことを指差し大笑い。


「うっせーよ!! 男の友情を馬鹿にすんじゃねえ!!」


「男の友情頂きましたー! きゃー格好いい」


「これナッチ、あんまり虐めない」


 完全に中嶋のおもちゃである。馬鹿笑いをする中嶋を、佐藤がぽかりと叩いた。


「うん、行ってきなよ! 先生にはなんかそれっぽい理由考えとくからさ」


 ホテルの入り口向かう俺の背中に、そう言葉を投げてきたのは藤川だった。


「ああ、頼んだ、藤川!」


 俺はそう返事を返して、先生の目を盗んでホテルを脱出する。

 外の雪山に刺してあったスキー板を担ぎ直して、リフト場に向かおうとしたときだった。

 何故か、人の気配を感じたのだ。


「……うし、どこから行く、バタフライ。俺の千里眼に任せておけよ」


「いや、ミッチーはいいから……ホテルで待ってて」


 やがて自動ドアが開き、にこにこと笑顔を浮かべた中嶋にミッチーは連行されていった。おまけに、追撃するように背中を運動靴で蹴られる。


「おい蝶、絶対に帰ってくるんだぞ! じゃねーともうAV見せねぇから」


「いやまあ……うん。ありがとうな、健治」


「ふん、バカだよお前は……こーなると聞かねーしな!」


 それだけ行って、健治は踵を返した。


「蒼希……花ちゃん、見つけて来てね! お願いね!」


「蒼希~、ちょいメンからイケメンになるチャンスじゃない! がんばりなさ~い! 先生より早く見つけちゃったらきっと花の好感度アップよ!」


「これはもう鈍感な花だって惚れちゃうかもしれないわね、ラブコメの最終回とかきっとこんなノリよね。ふふふ」


 にやにやと笑みを浮かべた女子陣たちからも声援をもらう。少しこそばゆくも感じたけど、花との関係を応援してくれているのが嬉しかった。


「わかってる! 絶対見つけるから、応援してて!」


 花が好きだっていうことはもう皆にバレてしまっただろう。


 でも、今はそんなことどうだっていい。

 今はただ花に会いたい。会って、ただ一緒に居たい。


 大好きな君と――。



所謂親友キャラポジの奴がクサいこと言うとカッコイイけど、同時に無性に恥ずかしくなりますね、ハイ。


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