クエスト『酒樽貯蔵庫に潜むジャイアントスパイダーを倒せ!』
ドワーフに必要不可欠な、時には命より重いとされる火酒の貯蔵庫に、あろう事か化物級の大蜘蛛が住み着いたと言う。今回の仕事はその退治依頼だ。何よりお酒が大好きなドワーフにとっては一大事なのだろう。
「皆さん糸でぐるぐる巻きにされてぶら下がってますね」
「よくこうなるまで放っておいたよな?」
哀れな犠牲者が白い糸に包まって天井から吊り下がっている。それも何体ものドワーフの亡骸が。
「ですよね……あの犠牲者、ドワーフですね」
「ああ」
見事なビヤ樽腹も、体液を吸われたらしく干からびていた。合掌。危険を顧みず、命より大事な酒を取りに突貫しては果てる。それはそれで幸せな、ドワーフ名利に尽きる一生なのかもしれない。
「そうだな。命より酒のほうが大事だったんだろ」
「ドワーフですしね」
「そうだな」
俺にはそんなドワーフの気持ちは理解できないが、終ったら酒でも手向けてやろう。俺はそう心に誓った。それにしても、餌を保存する習性……いや、少しは知恵の回る相手なのかもしれない。舐めて掛かると思わぬ痛手を被りそうだ。
アリサが俺の意見に素直に賛成するくらい、ドワーフと酒は切り離せないものらしい。まぁ、今の俺達が拠点としている街、鉱山都市リルデウムは石を投げれば必ずドワーフに命中すると言われるほどのドワーフのドワーフによるドワーフのための髭……じゃなかった髭面ドワーフ満載の都市なんだ。
だけど、こんな危険な場所に酒を求めてやって来るとは……ドワーフの酒に対する愛、このセネシェが確かに受け取った。でも、さっさと蜘蛛を焼き払って宿に帰りたい気がしないでもない。ああ、火酒か。きっとアルコール度数が高いんだ。火気は厳禁だよね……静電気もやばいかも。と、なるとおのずと戦法も限られてくる……。
って!
しゅるる、そんな音がした。
「きゃっ」
「アリサ!」
こいつ、素早い! チェインメイルがジャリッと金属質な音をさせ、アリサにエロく糸が巻きつく。胸の双丘が強調されて……糸の元には大蜘蛛だ! 蜘蛛ごときにしては、お約束をわかっているじゃないか!
畜生、アリサの<<魔法>>に期待していたのに!
「俺のアリサに何てことしやがるこの変態! 食らえ<<魔法矢>>!」
光の矢は大蜘蛛の腹に突き刺さり、大蜘蛛が悲鳴を上げる。
「Garaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
そして俺は驚いたね。何とこの大蜘蛛! 顔が……頭部が人間の老人のそれなんだ!
「ぬかったわ小僧……」
恨みがましい掠れ声が聞こえた。もちろん発声源は大蜘蛛の顔だった。
「死んで経験値になれ化物!」
俺は繰り出される糸を楯でかわし、キモく動く八本の足をかいくぐって大蜘蛛の腹を薙ぎ払う。簡単簡単、こんな大蜘蛛の動きなんて止まって見える。返す刀で俺が長剣を突き立てると、切り裂くような金切り声と共に大蜘蛛は更に呪詛を吐く。
「Garaaaaaaaaaa! 貴様小僧、許さんぞ!?」
どう許さないのか。今や攻守逆転、俺は長剣でまたも大蜘蛛の腹を突き刺し、切り上げ断ち切った。三度上がる悲鳴と呪詛の声。
「の、呪いを、汝死すべき定めの者!」
「うるせぇ、俺はとっくに死んでるんだよ!」
何が呪いだ馬鹿馬鹿しい。呪いなんて存在したならそもそも異世界転生なんてしていないっつーの! 喧しいんだよこの野郎。俺は怒りに任せて大蜘蛛の首を刎ねたんだ。そう、無慈悲に刎ねた。これで一件落着、クエストも終了だ!
俺はアリサを助けに入る。
「セネシェ、すみません。私お役に立てなくて……」
なんのなんの。それにしてもアリサ? 今のお前は目のやり場に困るって。縛られた糸で二つの双丘が強調されて、こう、なんと申しますか。正直申しますと、何だか糸を解くのがもったいない……いやいや、俺はあくまで紳士だから!? だけどこいつ、意外と胸あるのな……。
登場人物紹介
セネシェ Hum-N-Sam 肉体年齢15歳 男性 ソードマスターLv.3
アリサ Hum-G-Pri 肉体年齢15歳 女性 ハイプリーステスLv.3