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クエスト『郊外の共同墓地に徘徊するアンデッドを浄化せよ!』

 青く輝く月明かりに照らされた、闇夜には遠い草木も眠る(うし)三つ時。そんな時間に鉱山都市リルデウム郊外に位置する共同墓地へ俺とアリサは来ていた。何もこんな時間を選ばなくとも、とも思ったが、アリサが言うにはこの時間が一番良いらしい。なんでも闇の瘴気が最も濃くなる時間だと言う事だった。


「<<光よ、主の御許(ターンアンデッド)へ>>!」


 黒髪を風に(なび)かせ、墓地にアリサが聖句を放つとそれは前方の死者(ゾンビ)骸骨(スケルトン)集団の中央から光が溢れ出し、やがて静かにそれら数十体を光の粒へと変えてゆく。効果範囲を広げたそれは、墓地全体を飲み込んで発動していた。


「やったか?」

「かなり討ち()らしがあります。すみません、凶暴化した個体もいるようです」


 凶暴化(バーサーク)!?


 アリサの言葉を確認する暇も無く、窪んだ眼窩に赤い光を讃えた骸骨(スケルトン)がわらわらと俺達に襲い掛かってくる。人の生気に縋り寄る死者。切っては捨て、砕いては放り、突いては粉砕する。

 ああ、こんなときは鉄槌(メイス)が欲しい! 俺は長剣(ロングソード)の腹でガンガン殴る。骸骨(スケルトン)一体一体は本当に雑魚でも、こうも数が多くてはとても手間なんだ。スケルトンの剣撃など瞬時に見切り、鎖骨をバキバキに砕いて捨てる。切っても切っても骸骨(スケルトン)ばかり。それになぁ……。


「う~」「あ~」


 何を言っているのかわからない死者(ゾンビ)の呻き声。未だ肉の付いている死者(ゾンビ)だ。

 見ればアリサも連接棍(フレイル)を振り回し、一体、また一体と確実に屠っていた。アリサは中々上手くやっている。それにそのアリサの姿、実に凛々しくみえた。俺も負けていられるかっての!


 剣の腹で叩く、潰す、砕く! そうなんだ。<<火球(ファイヤーボール)>>で墓を壊すわけにもいかないし? いい加減息が切れそうになったとき、動くモノが他に居ない事に俺ははたと気付いた。


「セネシェ、もうお仕舞いです」

「あ、ああ」


 俺は無我夢中で剣を振っていたらしい。アリサに指摘されるまで気付かないなんて……俺もまだまだだな。そう思う。そしてそんなアリサも肩で息をしていた。幸い怪我は無いようだ。死者(ゾンビ)骸骨(スケルトン)。こんな雑魚相手に苦戦するだなんて……。仕事は選んだほうが良いのかもしれない。相性と言うものがあるはずなんだ。

 鎖帷子(チェインメイル)を買ってあげたい。その一心で受けた依頼だったけれど、今夜の仕事はアリサにもの凄く負担をかけた。特に今日のような戦闘を繰り返すならば鎖帷子(チェインメイル)は必須だろう。それまでは小銭を稼いで……我慢だ。我慢。魔王は逃げはしない。俺達が魔王を倒すのだから。焦りは禁物なんだ。


「アリサ、頑張ったな?」

「はい!」


 アリサのはにかんだ顔。今日最高に可愛らしく思えた。

 山の麓が白み始めている。ああ、俺達はそんなに長いこと戦っていたんだ──。




 ◇ ◇ ◇




 オーク、ゴブリン、コボルド、スケルトン。いわゆる雑魚モンスターを叩いては日銭を稼ぐ日々が続く。途中、運よく良い装備を拾うことが出来た日もあれば、一銭も稼げない日だってあった。だけど、この世界の新参者の俺達は次第にこの世界の理について知恵をつけてきた。そんな時、ついに俺はアリサにそれをプレゼントする事ができたんだ。


 そう。実に長かった!


「ヒューマンの小僧、良い面になったなお前」


ドワーフ親父がゴシゴシと髭を擦りながら俺に声をかけてくる。


「では、約束どおり仕立て直しておいたぞ?」


 三つ編み髭の親父が俺の背中をバンバン叩く。

 ここは鍛冶の店。そして金貨七十六枚の──。ついに俺はそれを手に入れた!


「セネシェ、宜しいのですか?」


 驚くアリサの目は丸かった。


「もちろん。今まで頑張ってくれたのはアリサだから」


 ドワーフの職人製の、新品の鎖帷子(チェインメイル)。俺はやっと彼女に報いる事ができたんだ。


「セネシェ、ありがとうございます!」


 アリサ。その彼女の笑顔が弾けた。




 ◇ ◇ ◇




 あぶない扇子を広げたバブリーな豹柄女、カリカーラがしなを作りつつ何か言っていた。


「セネシェちゃん、彼方は次のレベルに上がるまで98の経験が必要よ? ああ、アリサちゃんも一緒ね。あなた達は最初から上級職だから、その辺りが渋いわよね~。でも、頑張って! このカリカーラさんも応援してるからね?」


 中々上がらないレベルの壁。しかし、無理をせず戦ってきた結果の数字でもある。

 無理を重ねていれば、必ずどこかで穴が出来る。死んでしまえばそれまでだ。無理は言っていられない。


「じゃあまた今度ね、セネシェちゃんにアリサちゃん。バイバ~イ」


 ダ女神が今日もダメな話しをして煙と共に消えてゆく。カリカーラの言う事ももっともだ。確かに強い敵を倒せば経験値は多く入る。だが、それに比例して危険度も増す。──当然の事なんだ。俺とアリサはペアの二人組。ここから先は、そろそろ仲間を募る必要があるのかもしれない。


 良い出会いがあれば良いのだが。少なくとも俺は、そう思う。




登場人物紹介

セネシェ  Hum-N-Sam 肉体年齢15歳 男性 ソードマスターLv.3

アリサ   Hum-G-Pri 肉体年齢15歳 女性 ハイプリーステスLv.3

三つ編みドワーフ 鍛冶屋の親父

カリカーラ Goddess 年齢不詳   女性 レベル神

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