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クエスト『坑道に入り込んだコボルドを駆逐せよ!』

 鉱山都市リルデウム。俺とアリサはその工房の多い鍛冶地区を歩いていた。コボルドリーダーの身に付けていた胸当(ブレストプレート)の打ち直しを頼んでおいたのだ。その胸当(ブレストプレート)は傷も少ない良品だった。サイズも俺に手頃でこいつを使わない手は無いと思えたから、俺はそれを再利用する事にしたのだ。


「アリサ、俺のために金を遣わせて悪いな」

「いえ、構いません。クエストの報酬も入りましたから」


 コボルドリーダーとの死闘が思い出される。そうだ、あの時はアリサの魔法が俺の頭を掠めて……。


「アリサ、あのときの<<気弾(フォース)>>は俺の顔を掠めて……流石の俺もヒヤッとしたかも」

「大丈夫ですよ。私、<<魔法誘導>>のスキルを持ってますので」


 アリサの黒髪が揺れる。夕焼けに染まるアリサの姿が赤に染まっていた。

 なるほど。だから躊躇い無くコボルドリーダーの顔面に<<気弾(フォース)>>をぶち込んでくれたのか。

確実に命中させる自身があったから出来た技なんだ。納得すると共に安心した。確か、この前のゴブリン戦の時の<<気弾(フォース)>>も俺に隣接していたしな。


「ありがとう。気を使わせる」


 アリサの笑顔の手前、心からそう言える。俺はそれがとても嬉しかった。


「いいえ。私も説明不足でした。お互い命を張っていますのに、ごめんなさい」


 アリサは良い娘だ。さすがは俺の相棒。やがて夕霧の赤い風が過ぎる。そろそろ打ち直しを頼んでおいた店が見えるはずだ。




◇ ◇ ◇




 うーん、この胸当(ブレストプレート)はそれにしても実に良い仕上がりだ。中古とはいえ、良い品を拾ったものだ。いや、ここはむしろ三つ編み髭にピンクリボンの親父、ドワーフ鍛冶師の腕が思いのほか良かったと言うべきか。さすがドワーフ、いい仕事をしてくれる。


「金貨三枚で良いのか? 五枚と聞いていたのに」

「構わんともヒューマン。殆ど手を加えてないのでな。とはいえ、革紐は全て新品に取り替えておいたぞ?」

「ありがとう」


 ドワーフ親父は髭をゴシゴシ擦りながら俺に告げた。

 中々どうして。人の良いドワーフ親父だ。


「アリサ、支払いを頼む」

「判りましたセネシェ」


 ちょっとした出費には違いないが、中々に良心的だ。今時分(いまじぶん)どこもかしこもブラックで、貧乏人から金を巻き上げるしか能の無い詐欺師が横行していると言うのに。ああ、本当に素晴らしい優しさに満ちた世界だ。俺は知らずの内に涙してたね。

 たいした出費では無かった。この分だとアリサに鎖帷子(チェインメイル)を買い与える日も近いだろう。時にはアリサも前衛に立つ。今のままの硬質革鎧(ハードレザーアーマー)では抑えきれない日がきっと来る。その日のためにアリサに金属鎧を用意してあげないと。それに何より、鎖帷子(チェインメイル)の方が体の線が浮き出て可愛いく映えるはずなんだ。アリサはチッパイではないからな。……そこ、なにげに重要だろ?


「わしの手がけた防具を見ていくかね?」

「あ、ああ。見せてくれるか?」


 俺の目を引いたのは海賊めいた角突兜(ホーンドヘルム)と金貨七十六枚とタグのついた鎖帷子(チェインメイル)。どちらも良い仕事の品の品だった。今の貯蓄が金貨五十枚程度。もう少しで手が届く。もっとも、冒険の途中で状態の良い鎖帷子(チェインメイル)を拾って仕立て直してもらうのが一番の早道ではあるけれど。


「また今度寄らせてもらう」

「ああ。今回も良い仕事をさせてもらい、感謝するぞヒューマンの若いの」


俺達は鍛冶屋を後にした。




 ◇ ◇ ◇




 <<魔法眼(ウィザーズアイ)>>による索敵でも見つからない。このあたり、コボルドがまだ潜んでいる筈なのだ。

 慎重に坑道を行く俺とアリサ。罠の心配など全く要らな筈だった。そもそも知恵が足りない。コボルドが罠を仕掛ける筈もないからだ。だが、それでも慎重に進む。奴ら妖魔(ようま)は卑怯で姑息(こそく)。卑怯者ほど罠や待ち伏せを好むものだ。中には目端の効く固体が居るかもしれなかった。


 右、左、右……居た。短剣を手にしたコボルドを中心にした一団。昨日の見逃した連中か?


「アリサ、見つけた」

「はい、セネシェ」


 アリサの細い顎がこくんと下がる。黒髪が揺れた。了解の合図だ。俺とアリサが行動を開始使用とした時、急に視界が歪む。何だ? <<魔法眼(ウィザーズアイ)>>に影響を及ぼすほどの何か──。


 ゴゴゴゴ……ん? 地鳴りがする……?


「きゃっ」


 隣で可愛らしい声を聞いた。アリサがもらした悲鳴だった。それもそのはず、巨大な振動、大きな地鳴りと共に壁を突き破って出てきたのは巨大な大地蟲(キャリオン・クロウラー)だったのだ!

 あらら、哀れコボルドはクロウラーや大岩の下敷きになって全滅、むしろ躍り出た俺とアリサがクロウラーの注意を引いていてしまっている!


 この畜生め、この俺のバカバカバカ!

 大地蟲なんて倒しても、経験値の他は得るものなんて無いんだよ! 戦利品も無いのにこんな面倒な奴を相手にする羽目になるとは……ついてない! 実についていない!


「アリサ! こいつ変種だ! 魔法を使え! きっとこいつ、外皮が硬い!」

「はいセネシェ! <<気弾(フォース)>>!!」


 アリサが気合一発、<<気弾(フォース)>>を放ってくれた。続けて俺も、第一位階の魔法を発動する。


「弾けろ、<<魔法矢(マジック・ミサイル)>>!!」


 良くやったアリサ! お前やっぱり最高の相棒だ! 

 圧縮空気の真空を破壊する爆裂音が聞こえたのだ。アリサの奴、魔法威力を強化したのだろう。予想通り、岩のような外皮が大きく(めく)れ、緑の体液がドクドクと溢れ出ていた。同じく別の場所には俺の放った光の矢が深く突き刺さっている。こちらは穴を開けた程度か。

 情けない。勇者たる俺とした事がアリサに後れを取るなんて!


「逃がすなよ!? ドワーフ連中に土産だ、ここでクロウラーを仕留めておく! アリサ、援護を頼む!」

「はい、セネシェ!」


 言うが早いか、オレはアリサの抉ってくれた傷口にロングソードを叩き込む。刺す。刺す。刺す。抉る!


 溶解液が体に掛かるが気にしない。酸の体液かよ、参るぜ全く! せっかくの胸当てが台無しだ。この畜生め。だが俺は刺す。刺す。刺す。抉る!


きっとクロウラーには痛覚と言うものが無いのだろう。

結局オレは、大地蟲(キャリオンクロウラー)が動かなくなるまで<<気弾(フォース)>>に抉られた箇所と体節の節にロングソードを叩き込むは羽目になったんだ。


流石に疲れた。2レベル冒険者の仕事を超えてるぜ、これは。


「セネシェさん、鎧を外しますね……今、治療します。<<小治癒(キュア)>>」


ああ、アリサの声と優しさが俺の体を包み込む。俺は暖かい何かに包まれつつ、少しづつ俺の痛みは消えていったんだ。

 俺はアリサの胸に体を埋めながら、(ほの)かな体温を感じつつ(しば)しの休息を取った。

登場人物紹介

セネシェ  Hum-N-Sam 肉体年齢15歳 男性 ソードマスターLv.2

アリサ   Hum-G-Pri 肉体年齢15歳 女性 ハイプリーステスLv.2

三つ編みドワーフ 鍛冶屋の親父

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