王立図書館
オーガが魔法を使った。ただの能無し原始人ではなかったのだ。
俺は自分の思い込みを正すべく、王立図書館を訪れていた。
酒場でアルコールに当てられた、ろれつの回らない同業者連中から話を聞いてもいいが、それではご自慢の誇張された知識を聞かされ、挙句にそいつの酒代まで持ってやることになりかねない。それにそんなもの、辺境でもなければ時間の無駄だ。
幸いこの都市、王都カッシャームの王様は広く市民に知識を知らしめるべく、こうして流れ者の俺にさえ知識の殿堂、王立図書館への立ち入りを広く開放してくれていたのだ。市民でなくとも、貴族でなくとも俺のような流れの平民でさえ利用できる。それを利用しない手は無かった。
俺が求めるのは酒場で魔法使いから聞きだした『賢者ヴェルの博物誌』。世界をくま無く歩いた魔女の記した旅行記だ。そこには世界の様々な風俗、動植物、気候風土の事がきめ細かに記されていた。
オーガ。この世界のオーガは魔法を使うらしい。ゴブリンだってそうだ。全部の個体が魔法を習得している事は無いそうだが、まれに魔法を使う巫女的個体と遭遇する事があると記してあった。目から鱗とはこのことだ。俺、この世界について舐めていた。この際、しっかり学ばないと……。
◇ ◇ ◇
王都の酒場は今日も繁盛していた。
「ぷはー。今日もエールが美味しいのです! セネシェが図書館が用意なんて、お天道様がびっくりなさっているのです!」
ドワーフっ娘が言い切った。アリサはそれを見て微笑ましく笑うだけだ。いや、少しニヤニヤしているような……ううう、きっと気のせいだ!
「君がセネシェかい? ドラゴンの歌は聞いたことはあるかい? 創世神話に出てくる神殺しの竜の歌さ」
ん? 俺の目の前に細い影が差す。硬質革鎧に短剣姿……誰だ?
「なぁに、君が魔王を斃すべく冒険をしていると受付の者から聞いてね。自分は変人だから、魔王を倒そうなどと狂気の沙汰を公言しているそんな君にちょっとだけ興味を持ったのさ」
俺は息を呑む。え、エルフ……だ。均整の取れた肉体。女性の持つ切れ長の柔らかい視線。美人系のその面影……そして、淡い碧髪……この世のものとは思えない、美しいエルフが俺の目の前に立っていた。
「君は異世界から来たのだろう? 実は自分もそうなのさ。まさか自分がゲートデーモンの罠にかかるとは思わなくてね。もの凄い失敗さ。更に、自分の場合はレベルドレインを酷く食らってね。今のままじゃ元の世界に戻れそうも無い。ま、戻る気も無いけどね。そんなこんなで今の自分はただの女、頼りになる男性の庇護が欲しいのさ。そこで、君に白羽の矢を立てた。君と居ると飽きることもなさそうだからね。きっと毎日が驚きの連続になるだろうと、今からゾクゾクしているよ」
美しい……だけど、その言葉と言い内容と言い、もの凄く不安を掻き立てられる。
「自分は吟遊詩人。音楽はもちろん盗賊の技も、精霊の声もバッチリさ。いざというときには、この短剣で背後からズブリといける。どうだい? 自分を君らの仲間に入れて欲しいのだけど。君自身の英雄譚、奏でて欲しくはないかい? 自分は多芸でね。決して君の邪魔にはならないと思うよ?」
その微笑みは女神そのもの。だけど、何か引っかかる……。
登場人物紹介
セネシェ Hum-N-Sam 肉体年齢15歳 男性 ソードマスターLv.3
アリサ Hum-G-Pri 肉体年齢15歳 女性 ハイプリーステスLv.3
ユーノ Dwa-G-Fig 年齢不詳 女性 ウォーリアLv.4
エルフ Elf-N-Bar 年齢不詳 女性 碧髪の謎のエルフ嬢




