クエスト『森の廃墟に潜むゴブリンどもを駆逐せよ!』
つたない文章ですが、よろしくお願いします。
「食らえ<<火球>>』!」
拳大の火の玉が俺の右手に握られた長剣の剣先から飛び出す。
その火の玉は真っ直ぐにやつらの中央近く……ゴブリン集団の真ん中に辿りつくなり赤い花を咲かせた。
続く轟音と共にゴブリンどもが纏めて吹き飛んだ。何だか遺跡内が揺れた気もするがきっと気のせいだろう。
「セネシェ! ど、どうしてそんな危険なまねをするんですかぁ! 遺跡が崩れたら私達も唯ではすまな──」
「どうしても何も、雑魚モンスターや盗賊ども相手にとりあえず『火球』は定石だろ?」
「違います、私が言いたいのは彼方はソードマスターで魔法なんて──ひっ」
俺の伸びた手の先、つまり剣先はゴブリンの喉笛に突き刺さっていた。
うーん。中々じゃないか? このドワーフ謹製のロングソード。さすが新品の切れ味は違うねぇ。
「危ないから下がってろよアリサ。ゴブリン相手だからって油断するとコレだぞ?」
俺はアリサに向って喉を横切る合図をする。いわゆる首ちょんぱって奴だ。アリサは首をがくがくと縦に振っている。なんだよ、根性ない奴だな。
「そうそう、そんな素直に──?」
ん? 右手……生き残りか!?
「危ない! <<気弾>>』!」
それはアリサの声だった。突き出されたフレイルの先から音速の圧縮空気が飛び出す。
──グシャ……ドサリ。
俺の真横でゴブが胸部を潰され飛び果てる。
アリサがフレイルを片手にニヤニヤと笑っている。鎖の音が耳障りだが、今はそんなアリサが少しだけ眩しい。
ま、今はアイツに花を持たせてやるか。俺の油断でもあったことだし?
「へへへ、これでお相子ですね、セネシェ」
「そう言うことにしておいてやるよ」
「ふふん。セネシェ? 『慢心』ですね。もっとお礼を言ってもらってもかまいませんよ?」
「はいはい」
俺は鼻の下を掻く。ちょっと恥ずかしいところを見せちまったな。
俺達が何をしているって? 見ればわかるだろう? 古代魔法王国時代の遺跡に──廃墟だが──に住み着いたゴブリンを掃討している所だ。
そう。たった二人で。
<<火球>>の威力は絶大だ。専門職の芸当には少々劣るが、俺の魔力なら充分いける。なにぶん初めてだったので着弾点の誘導に少し迷った程度だ。FPSより難しいんだよ! まぁ、誘導弾と思ってくれれば良い。
ぇ? あんたはソードマスターだろうって? ま、ちょっとそれは違うんだな。ああ、良く言う魔法剣士って奴だ。詳しい話はまた後で──。
森の中の遺跡。天井は初めから無かった。
ここは探索もし尽くされた所謂『枯れた遺跡』って奴なんだ。そこにゴブリンどもか住み着いて悪さを……って筋書きになっている。
俺はアリサ共に、まだ息のあったゴブリンに止めを刺して回る。よし依頼も完了か?
「セネシェ、彼方は『俺最強』と口にする割には隙が大きいですのね?」
──いや、俺は最強だから。だって今は無きあの爺様がそう言っていたからな。
『魔王を斃すべく呼び寄せた最強の可能性』、それが俺だそうだから。うん。
享年三十八歳。剣道のスポーツ優待で入った高校で故障しインターハイには出られず飼い殺し。就職しても場末のブラックな工場で日銭を稼ぐ日々だった。そんなこんなで脂の乗り切った人生も下り坂って奴。ところがある日、機械に挟まれ俺の体はもう滅茶苦茶で。だが今の俺は、肌に張りも艶もある十五歳の健康な肉体……。どんな冗談なんだか。しかも、今の俺の相棒は──。
「そりゃ、俺の次に優秀な神官戦士様が俺の相棒だからな」
「なっ」
顔を赤らめたアリサの黒髪が揺れる。ロングストレート。それにその可愛らしい顔も俺の好みバッチしだ。しいて言えば、もう少し胸が欲しかったかな。
そんなアリサはハイプリーステス。初めから上級職って奴なんだ。ああ、そう言う俺もソードマスターだから、アリサと一緒か。
「俺も人間だ。……油断くらいするさ? ありがとよ。正直助かった。」
「……」
アリサは今にも湯気を噴出しそうだ。これがヤカンなら汽笛を鳴らしているはずだろう。
「そうだろアリサ?」
「……知りません」
ぷいっと視線を逸らす仕草も様になっている。やはり美形は得だねぇ。どんな仕草でも可愛く見えるからな。
アリサもあの爺様に召喚されて救い出された口だ。俺と同じで見た目よりも精神年齢が高いかもしれないが、そんなそぶりは無い。純情な乙女そのものな所を見ると、元は本当に若かったのかもしれない。美人薄命と言うからな。ま、人生そんな事もあるさ。外見の年のころは十五、六と言ったところだろう。
うん。
そんな美人と二人旅のチートじみたセカンドライフ。良いねぇ、この世界は。
「アリサ、戦利品は?」
「数枚の銀貨と銅貨、それに牙……そして錆びた武器防具と言ったところでしょうか」
武器防具……俺の『火球』で粉々になった品もある。強すぎるのも考え物かもしれない。そんな中で、比較的無事な楯を二枚見つけた。このバックラーは俺とアリサで貰っておくとして、その他は……そうだな……。
「錆びた道具類も金に換えようか。一応持てるだけ持って帰ってドワーフ親父どもにくれてやろう」
錆びた短剣でも鉄は鉄。髭親父どもも喜ぶだろう。小銭稼ぎにもなるからな。
それより、アリサとの夕飯が楽しみだ。早めに街に戻るのも良いだろう。
「ですね。ならば、今日はもう退散しましょうかセネシェ」
「だな。アリサ、怪我は無いよな?」
俺はアリサを気遣う。当然だろう。こんな美人の肌に傷がついちゃ、もったいないって物だ。
「ありません。セネシェもありませんよね?」
ああ。無いね。
「ああ。ゴブリン相手に怪我なんてするかよ」
「あら。油断大敵ですのに」
「そうだったな」
俺はアリサに助けられた事を思い出す。
「ありがとよ。あの時は助かった」
「……っ!」
耳を赤くしたその顔は良く見えない。アリサはまた顔を伏せていた。
「わ、私こそ……ありがとうございます」
「いいって事よ。お互い様だろ?」
俺のとりあえずの目標。
縁もゆかりもない魔王を倒す前に、アリサを落とす事。
俺は今は無き爺様へ感謝すると共に、そう誓ったね。
登場人物紹介
セネシェ Hum-N-Sam 肉体年齢15歳 男性 ソードマスターLv.1
アリサ Hum-G-Pri 肉体年齢15歳 女性 ハイプリーステスLv.1
爺様 Hum-N-Mag 享年85歳 男性 故人 ウォーロックLv.不明