再会
新しい生活が俺を待っていた。
雨の日も風の日も、俺は微動だにせず、ただそこに居た。
そこは村の外れで、一日に七人前後の旅人が俺の前を通っていく。
俺を拝む人や素通りしていく人、反応は様々だった。
数か月が経ったある日、俺は、ふと思った。今頃、あの与吉はどうしているのだろうか、と。
あぁ、またあいつと一緒にお風呂に入りたいなと、柄にもない思いがよぎる。
いかんいかん、何を考えているんだ、俺は。
「よう、弥勒っ! どうしてた? 元気してたか?」
突然、やたらと馴れ馴れしい音声が頭に入る。聞き覚えのあるあの声だ。
「なんでぇなんでぇ、せっかくこれを持って来てやったのに、相変わらずの仏頂面かぃ」
与吉は、おにぎりを俺の前に置いた。そして、手を合わせて拝む。
「……」
俺の心が弾む。嬉しいのか、俺は……。しかしだ、今までどこで何やってたんだ、このおっさんは、とも思う。
「あぁ、仕事が忙しくてな。……それにここだけの話……なんと! おいにも嫁ができてな」
少し照れくさそうな、明るい声で与吉は言う。
「……」
そいつはめでてぇな。良かったじゃないか。俺は、心からそう思い、祝ってやりたいとも思った。
「今では、これもそれも、全部、弥勒、おまいのご利益だと思うんだ。ありがとよっ」
与吉は俺のつるつるの冷たい頭を、撫でる。
「……」
お前の実力だよ、せいぜい頑張んな。と俺は思った。
「今回は、報告だけだが、また嫁さん連れて来てやるよ。今日もこれから仕事でぃ」
「……」
仕事にも精が出るな、気を付けろよ。俺は細長い目で見つめた。