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 光りも見えない闇の中に、遠くの方でフクロウの鳴き声がかすかに聞こえる。辺りは不気味に生暖かく、シトシトと小雨が降っていた。


「……おじちゃん……心が泣いてるよ……」

 無口な少女が囁いた……りんごのようなほんのり紅い頬っぺがわずかに動く。

 俺を覗き込んでくるその少女の顔は、まるで初雪のように白い肌、真丸な目、艶やかな黒い前髪はぱっつんだった。

 彼女は、少し悲しそうな表情で俺を見下げる。


 年端も行かぬ、こんな少女に俺も何が分かるってんだ。俺は悲しくなんてないさ。ただ少し、わびしいだけで……

「お嬢ちゃん、どこの子だい? こんな夜更けに。お母ちゃんとお父ちゃんはどうしたんだい?」


「……」

 返事はない。


「答えたくないのかい。ほら、濡れてるじゃねぇか。風邪をひいちまう」

 俺は、少女の身を案じた。手も足も動かぬこの体じゃあ、案じることしかできやしないが。


「……おじちゃんも……」

 無口な少女は囁いた。

 そして、俺の頭に手を伸ばす。

 少女は自分着ている赤いちゃんちゃんこの袖で、ごしごしと俺の丸いざらざらな頭を拭ってくれた。


「……でも、もう大丈夫……」

 小雨が地面に落ちる音にかき消されそうなほどのか細い声だ。

 そう言って少女は、すぅっと消えていった。


「なんでぇ、ありゃあ」

 俺は、棒のように細長い目を微動だにせず、驚いた。

 一体、あの少女はなんだったのか、何が大丈夫なのか、俺にはさっぱり分からなかった。

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