パニック状況での、警察や先生の役立たずっぷりは何なのか?
「スズハラ! 無事だったか?」
「う、うん……こっちこそ助けられてばかりで……ねえ、そんなことより背中、大丈夫なの?」
「ああ、思ったより大したこと無い」
「本当に、保健室行かなくていいの?」
「前にいった通りだ。リスクが高すぎる」
「でも……」
「気にするな……タイムアウトまで、後一時間も無い。
―――治療は、それからで良い」
目が、目がぁ~! とまでは行かないが、鼻とか口とか色んな所に入った泡に苦しむ女生徒を後目に、オレたちはその場から離れ、近くにあった誰かのカバンから取り出したタオルで泡を拭き取りながら向かい合った。
絶体絶命の窮地からオレを救ったのは、消火器だった。
廊下の隅に安置されていたソレに気づき盾として凶刃を弾いた後、ピンを抜き、食欲魔神に容赦なくぶっ放したのだ。
もちろん、中身の消化液をであって、消火器自体を投げつけたわけではない。
慌てていたためか、近すぎたせいか、噴射にオレも巻き込まれたのは遺憾だったが……仕方がない。
おかげで背の傷に泡が入り悶絶するハメには成ったが……殺されるよりましだろう。
それに思ったより傷も浅かった。
学生服は思いの外、頑丈だったらしい。冬服で厚着をしていたのも大きな理由だろう。これが夏だったらヤバかったかもしれない……。
「さて……予想通りだと良いが……」
なんだかんだあったが、なんとか武道館に辿り着いた。
ここからなら、剣道部などの部室練は直ぐソコのはずなのだが、予想に反し誰か居るようだ。
「あ、タチカワ先生! 良かった!!」
「まて、スズハラ! まだ味方と決まったわけじゃ…‥!?」
部室棟を巡回するように歩いていたのは、現国のタチカワ先生だった。
オレは馴染み薄いが、生徒。特に女生徒に人気があるらしい。
背を向けていたので、やり過ごしたかったが……スズハラが駆け出し、声を掛けてしまった……。
「ん、ああ、スズハラか!
どうした? ここいらに他の生徒はいないぞ?
―――ポイントを稼ぐなら、北校舎の方に行くと良い」
「せ、先生……?
そ、そんなことより! どうして止めないんですか!!」
「何を言っているか分からないな?
……サボりは良くないぞ? はははっ!!」
「先生……!?」
「……スズハラ。諦めろ、話すだけ無駄っぽい」
「そんな! でも……!?」
「……アズミヤか?
ちょっと待ちなさい……どうして帰宅部と茶道部が一緒にいるのだね?」
信じていた先生が役立たずだったことで困惑しているスズハラに声をかけ、場所を移そうと考えていたが……先生の雰囲気が変わった。
どこか虚空を見る目つきだったのが……目が座り。あからさまに敵意を向けてきた。
「そうか……違反者なんだね?
本来は風紀委員会と生活指導のスドウ先生の領分なのだが……致し方ないね」
「せ、先生……?
―――いや、離して!?」
「スズハラ!?」
雰囲気の変化を感じ取り、距離を取ろうとしたスズハラの腕をタチカワ先生が掴んだ。
どうみても、どう考えてもヤバイ!?
とっさにオレは体当たりして、先生を突き飛ばした! ……つもりだった。
「ぐはっ!?」
「校内暴力は良くないぞ?
それに先生は合気道の段持ちだ。喧嘩は相手を見てするべきだと、先生は思うぞ」
「アズミヤ君!?
―――お願い、先生! 手を離してください!?」
どうなったかわからないが、天上が見えてることで床に倒れてるのは確実だ。
立ち上がろうにも、衝撃と痛みで動けない。
なんとかうつ伏せになり、スズハラを引っ張って連行しようとしてる先生を睨みつける。
「……アズミヤ。君も来なさい
指導室でスドウ先生に叱ってもらうから、大人しくするように……」
「くっ……!?」
「アズミヤ君……ごめんね。私のせいで……」
謝られても遅いし、だからと言って見捨てるわけにもいかない。
くっ……仕方ないか?
いやまてよ? むしろコレはチャンスかもしれない!
説教を食らうのは残念だが……逆に言えば説教程度で済むなら御の字だ!
想定外の結果だが、結果オーライかもしれない。
こうして、オレたちは先生に引きつられ生活指導室に向かった。
―――
――
―
「おお! タチカワ先生!!
―――ソイツラも違反者ですか?」
「ええ、そうなんですよ。では、後はおねがいします」
「はい、任されました……さあ、覚悟はいいな!!」
「……うそ! そんなー!?」
「……最悪だ」
連れられて来た先の指導室は……処刑室だった。
ずらりと並ぶ、人人人。
指導室の中は、首吊り死体の山だ……。
「さあ、その台に上り……輪に頭を通すんだ!」
「ふざけるな! 殺す気かよ!!」
「何を言っている?
最近は体罰一つでPTAやマスコミがうるさいから、仕方ないだろ」
「体罰……って!? 死んじゃってます!」
「何を大げさな……ほれ、この程度の罰で済ませてやってるんだ、早くしろ!」
「……だめだ! 話にならない!?」
「うう、こんなの絶対おかしいよっ!!」
「出来ないのならしょうがない……手伝ってやろう」
「いや!ー? は、離してー!?」
「クッソ!! スズハラを離しやがれッ!!」
先生は、スズハラを後ろから抱きかかえるように抑えこんでいる。
そして、そのまま持ち上げて台に登らせようとしているようだ……。
まった、させるか!
台に使われてる椅子を引き抜き、持ち上げる。
振り上げたそれを、先生の背中に全力で叩きつけたっ!
「グハッ!? ……おい、これは洒落じゃ済まんぞ!!」
「洒落じゃすまないのはソッチだ!! スズハラ! 来い!」
「アズミヤ君ッ! うしろー!?」
「……え?」
「うおおおおおおぉー!!」
振り返ったオレの目に写ったのは……大柄な大人が叫びながら、こっちに走ってくる姿だった……。
子供が主役の物語で、頼れる大人は貴重種。
―――はっきりわかんだね。