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リア充VS非リア充

 

 連絡通路は拍子抜けするほどアッサリと通過できた。

 

 思っていたよりも遮蔽物が多かった事と、屋上の弓道部の連中が取り込み中だったからだ。

 

 どうやら校舎の外側から強引に登ってきたワンゲル部ともみ合いになってるらしい。

 

 「ロッククライミングで鍛えた俺らに登れない山はない!」

 「クッ! 近づけさせるな! 射って打って撃ちまくれっ!!」

 

 ピッケルを振り回すワンゲル部と、近づかれたら負けだとばかりに弾幕を張る弓道部。

 弓矢の残弾が尽きる前に、ワンゲル部を全滅させれるかどうかが勝負の分かれ目だろう……どっちが勝とうと知ったことではないが、ワンゲル部が勝てば狙撃がなくなるので移動は楽になる。

 

 ―――楽になる? 人が死ぬんだぞ……? オレは何を考えて……。

 

 「……」

 

 「……どうしたの?」

 

 「いや、なんでもない。

  それより急ごう……目的地はもうすぐだ!」

 

 いまさらだが、皆、狂っている。

 

 そしてどうやらオレも、例外では無いらしい……。

 

 チラリとわずかに振り返り、通り過ぎた廊下の隅で、壁に持たれるようにして倒れている女生徒を一瞥する。

 

 カシマヨウコ……だったかな? オレの斜め前の席に座っていたクラスメートだ。

 

 鈍器のようなもので殴られたらしく、出血は少なく息もあるようだが……倒れたまま動く様子はない。

 

 すぐ近くに保健室があるので、普段なら慌てて保険医を呼びに行くところだが……今のオレは違う。

 

 現状を考えれば保健室に向かうこと自体が無謀であり、我が身もヤバイのだから当たり前といえばそうだろう。

 

 だが、それでも何か……“自分の思考”に違和感がある。

 

 なぜか、救命しようという気が全く起きないのだ……。

 

 オレはそこまで薄情だったのか?

 

 いや違う。それならスズハラを見捨てて学校から逃げ出してるはずだ。

 

 そもそもオレはなんでこんなに冷静でいられる?

 

 あまりにも非現実的な状況に感覚が麻痺してるのか?

 

 ―――スズハラはどうだ?

 

 見た限り取り乱す様子はないが……あからさまに顔色が悪く、ごちゃごちゃと考えている余裕が無いだけだと見て取れる。

 パニックを起こしてないのは、恐らく保護者(オレ)がいるからだろう。

 

 ならば逆にオレはどうだ?

 

 一人だったら、カッコつける必要もない。なりふり構わず、こんな場所から逃げ出せば良いだけだ……。

 

 なら、しないのはなぜだ?


 ―――スズハラがいるからだ。

 

 そうか、守るべきものがいるから……オレより不安を抱えている人がいるから……オレは冷静でいられるのかもしれない。

 

 ならばオレはオレのために、彼女を助ける必要がある。

 

 だから、物陰から飛び出してきた襲撃者から庇うために身を投げだしたのも仕方がないことだったんだ……。

 

 「えいっ!」

 「なろうっ! ヤラせるかよっ!!」


 「アズミヤくんッ!?」


 「痛ぅ……油断しちまった……」

 

 「家庭科部の未来の為に! 3時のおやつ確保の為に! おとなしくリタイアしてっ!!」

 

 「冗談じゃねえ、そんな理由で死ねるか!!」

  ―――スズハラ! 目的地は…すぐ……そこだ……ぐぐ……先に行け!!」

 

 振りかざしてきた包丁を振り向きざまにモップで受け止める。

 十字に交差したモップと包丁。お互いに両手でソレを支え、相手は包丁を押しこみ押し切ろうと、オレはソレを押し返そうと凌ぎ合う。

 

 本来なら力負けするなんてことは有り得ない。

 

 いくらオレが細身だろうと貧弱な訳ではないし……ふとましいとは言え相手は女生徒だ。

 

 バンダム級とヘビー級……は言いすぎか、バンダム級VSミドル級の3階級差は厳しいかもしれないが、それ以上に男女差は大きい。

 

 少なくとも拮抗状態には持っていけるはずだったが……現実は厳しく明らかにオレが押されている。

 

 上から押されるのを、下から押し返すしかない体勢の拙さもあるが、最初の一撃がヤバすぎた。

 

 咄嗟の判断だったので、無防備に背中を切られたのは二重の意味で痛い。

 

 アドレナリンのお陰で痛みは感じないが……だんだんと力が抜けていくのが分かる。このままだと確実に押し切られるだろう……。

 

 初撃で切られず、刺されていたら終わっていた。

 普段から包丁を使い慣れていた事で、刺すと言った使い方に至らなかったのが幸いしたようだが……状況の拙さは変わらない。

 

 「で、でもアズミヤくんが……」

 「いいから行け! 邪魔だっ!!」

 

 「……!?」

 

 余裕もなく、苛烈な言葉でスズハラ追い払う。

 先行させることに不安はあるが……ここに留まらせるよりはマシだろう。

 

 「…………………………このリア充が……さっさとリタイアしなさいよぉーッ!!」

 「誰がリア充だよ! ぐぐっ、このデブ女が……!」

 

 「誰がピザでブスで馬鹿力で彼氏いない歴15年の根暗女よ! 許さないッ!!」

 「ソコまで言ってねーよ!? うぐぐっ」

 

 口は災いの元って本当なんだな……激高した女生徒が圧力を増してきた。モップの柄がギシギシと音を立て始めた。


 拙い……折れる?!

 

 折れる前に! と、オレは片手を離し柄を斜めに傾ける。

 

 力の方向性をズラされ、体制を崩し伸し掛かるように倒れてきた相手を廊下を転がるようにして避けた。

 

 モップは手放したが……武器はまだある。

 腰に差していたヌンチャクを取り出すが……あることに気がつき愕然となった。

 

 ……しまった。コイツじゃ手加減できない!?

 

 ヌンチャクはその特性上。遠心力を使うため威力は高いが、扱いが難しく手加減できるような構造をしていない。

 

 持った手から伝わる感触は、モップのような柔らかさを感じない。

 金属とまでは言わないが、硬質な……武器であることを強調するように重厚な感覚がヒシヒシと伝わってくる。

 

 こんなものを使って攻撃したらタダでは済まない。そう、確信できる。

 

 ―――出来てしまった。

 

 「く、来るな!! 怪我したいのか!!」

 

 「ぅxzdh,zrjckdjっ!!!」

 

 顔を真赤に染めて、激高したまま立ち上がってきた女生徒を牽制するため、ヌンチャクを突き出すようにして振り回す。

 

 拙い拙い拙い……!?

 

 怪我させるのか? 女を? オレが? いや怪我で済むのか? いやいや正当防衛だ! カルネアデスの板だ! オレは悪くない!! だから殺していいと? ……チッ! どうすりゃいいんだ!?

 

 「クソっ! こっちくん……ガッ!?」

 

 「……あははっ! バーカ! 自爆してやんの……かっこ悪―い♪ きゃははっ!」

 

 慌てたせいか、不慣れなせいか、振り回したヌンチャクはオレの脛を強打した……。

 

 痛みでヌンチャクを取り落とし、反射的に膝を抱えるようにして蹲ったオレに、女生徒が駆け寄ってくる。

 

 ああ、終わったな……。


 迫り来る食欲魔神と、振り下ろされんとする凶刃を、オレは他人ごとのように感じていた。

 

 いったいなんだったのだろうか?

 

 どこで間違えた?

 どこで狂った? ……狂わされた?

 

 転校して来て、僅か一ヶ月。

 馴染むには短いが、校風を知るには十分だった。

 

 進学校ではないが、比較的偏差値が高い私立高校のためか何処か硬い雰囲気はあったが、度が過ぎてるわけでもなく。

 真面目な生徒や先生も多く、全体的に雰囲気は良かったと思う。

 

 そりゃ中には、アンドウみたいな性質の悪い不良もいたようだが……少なくともクラスの雰囲気は良く。

 明るい生徒も、バカな生徒もいて、それなりに賑やかだった。

 

 こんなことになるなんて夢にも思わなかった。

 

 学校にテロリストが入ってきて……と言った妄想をしたことはあるが、生徒同士の殺し合いなど考えたこともなかった。

 

 ヒーローに成りたかった中坊の頃とは違う。

 

 こんな状況を望んだ覚えは無い。もはやヒーロー願望も無い。

 

 だがまあ、わずか一人と言え、助けられたのなら良かったと言うべきだ……。

 

 これで少なくとも……犬死にだけは避けられたのだから……。

 

 ああ、だけどやっぱり死にたくないなぁ……バイトもあるし……って、今更バイトを気にしてどうする!? と、苦笑しながら全てを諦め。

 

 面前で凶刃がキラメキ……! 視界の端に赤いモノが映る!

 

 よぉ、カール……と、走馬灯を見え始めた……その瞬間っ!

 

 「……っ!? これでも食ってろ!!」

 「やった! おやつの予算ゲットぉぉお……え? きゃああああ!?」


 ガインと硬質な音が響き、続いてブシューッっと音と共に両者の視界が白く染まったのだった。

 


 ふとましい娘って可愛いですよね?




 明るくて性格が良ければw

 

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