ヲタはきけん なめたら しぬで?
要所要所にネタを仕込むのは、作者の生理的な仕様です……ご了承願います。
「ああ? このオタクどもが生意気なんだよ!!」
「おっとアブね!? ……オカ研ナメんなっ! 除霊用ソルトスプラッシュっ!!」
「ぐぅっ!? 目、目がぁ~!?」
「……」
「……」
「よし逝け! オオタ! マスダ! 丑の刻参りダイレクトATTACKを掛けるぞッ!!」
「一重積んでは父のため~!二重積んでは母のため~! 三重積んでは故郷の兄弟わが身と回向して~」
「エロイム・エッサイムっ! エロイム・エッサイムっ! フルガティウィ・エト・アッペラウィ!!」
「……」
「……」
「ぎゃあああぁああっ!?」
「……」
「……」
「こっちは、ダメだな……」
「うん……」
2Fの渡り廊下の真ん中で、不良とオカルト研究会が争っていた。
不良の繰り出した木刀を躱し、塩で目潰しを決める。
そして怯んだところに、藁人形の付いた釘を“直接”、胸と背中に二人がかりで打ち込んだようだ……なんなんだ、この黒い三連撃は?
大方の予想を裏切り、オカ研側が優勢のようだが……オレたちにはどうでも良い。
どっちが勝とうと“敵”であることは変わらない。
敵……か、なんでこうなったのか?
怯えるスズハラの手を引いて、彼らに見つからないようにゆっくりとその場から離れながらオレは考える。
スズハラと最初に出会った時と、今の彼女では印象が違いすぎる。
和解してからの受け答えもチグハグな部分があった。
初めはメンヘラ的な意味で、頭がオカシイ奴だと疑ったが……それを言うならこの状況自体がオカシイ。
彼女が狂ったと言うよりも……彼女も含めた皆が“狂わされた”と考えるべきだろう……。
集団ヒステリー……だっけ? そんな感じが、この状況なのだろうか?
だが、スズハラは正気に戻った……。
ならば他の奴らも、正気の戻せるかもしれない!
―――だけど有効な方法が思いつかない。
たんに衝撃を与えるだけで正気に成るほど単純ではなさそうだ。
なぜなら、周りじゅうが殴りあってるような状況で、負傷者だらけにも関わらず、正気に戻った生徒がいる様子は無い。
スズハラが正気に成れたのは偶然だ。よほど打ちどころか良かったのだろう……。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
「武道館の方だ……剣道部が全滅したって話を聞いた。
だったらその部室は無人なはず……」
「空手部や柔道部も全滅したみたいだから……今なら武道館は安全ってこと?」
「強豪がひしめく場所に、わざわざ向かうような無謀な奴はめったにいない。
全滅後ならば逆に安全なはずだと思う。多分、きっと……」
「……」
この手のバトルロイヤルは、目立つ奴や勇敢な奴から負けていくのがお約束だ。
そう考えると、運動部。それも武道系の連中から脱落していくのは当然の結果だろう。
それと理屈はさっぱり分からないが……“ルール”は重要らしい。
現にこれまで見てきた生徒全て、部活に関係するモノしか使ってない。
そもそもオレがスズハラに不意打ちされたにも関わらず無傷だったのも、スズハラが律儀にも茶道のアレ……スズハラ曰く“茶筅”と言うらしい……ソレを武器にしてたからだ。
>撃破=殺害。手段や方法は問わないが、使える凶器は、所属する部活動の“備品”のみ。
これが順守されるなら、竹刀や防具などを奪うためにハイエナが来る可能性も低い。
残り時間は、1時間と少し……。
そこまでたどり着ければ、足手まといと一緒に籠城しても、十分に生き残ることが出来るはずだ……。
よし、廊下の端にある階段に辿り着いた。
スズハラを手で制し、単独でそーっと階下を覗きこむ。
……誰も居ないようだ。
2Fの渡り廊下が使えないなら、1Fの連絡通路を使うしか無い。
懸念は屋上にいる弓道部からの狙撃だ。
2F渡り廊下なら、窓や壁が遮蔽物として使えたが……1Fの連絡通路は、どうだっただろうか?
拙いな……さすがに転校してきたばかりなんで、校舎の構造もうろ覚えだ……。
「なあ、1Fの連絡通路。遮蔽物はあるか?」
「え? ……そうね、トタン屋根とプラスチックの仕切りがあったと思うけど……」
「そうか、ある程度は大丈夫そうだな……とにかく行くだけ行ってみるか……」
小声で二、三、言葉を交わし階段を降りていく。
1Fの踊り場の壁に張り付き、廊下の様子をそっと伺う。
下手に顔を出したら見つかるかもしれないので、覗きこむのを躊躇していたら、スズハラが手鏡を差し出してきた。
軽く顎を引いて会釈して、受け取った手鏡を使って廊下を覗いてみると……。
「チッ……誰か居る。3人だ」
「……どうするの?」
鏡越しに見えるのは、女子二人に男子一人の組み合わせだ。
男の方はエレキギター。女はマイクスタンドとドラムスティックを持っている。
吹奏楽部……いや、軽音部か?
運動部相手よりはマシだろうが……実質3対1じゃ勝ち目は無い。
それに傷つくのも傷つけるのもゴメンだ。ヘタレ臭いが……嫌なものは嫌だ。
様子をうかがっていると、どうやら一戦やらかした後のようだ。
「……たか?」
「………っち、めんどうな……」
エレキギターは半壊。マイクスタンドは少し曲がり。ドラムスティックは真っ赤に染まっている……。
オカ研もそうだが、文化部頑張りすぎだろ!?
「ね、ねぇ! 上から誰か来るよ!?」
「……マジか!?」
どうやら背後を警戒してくれていたスズハラが、慌てながらも小声で警告を飛ばしてきた。
―――最悪だ。
廊下の連中はまだ気づいていないようだが……廊下に出れば確実に見つかる。
だからと言ってここでとどまっても、降りてきた連中と鉢合わせになるだけだ……やばい! 詰んだか?!
いっそ強行突破するか?
武器は一応ある……喧嘩なんてロクにしたことがないが、それは向こうも似たようなものだろう。
1対3でも、内二人は女だ。
自己犠牲なんて柄じゃないが……スズハラ一人逃すくらいは出来るはず!
それにスズハラを逃したあとで、オレも続いて逃げれば良いだけだろ?
何も勝たなきゃいけないワケじゃない。
逃して逃げるくらいなら、なんとかなる! ……と良いな。
「アズミヤくん! こっち!!」
「……え?」
そんな感じで覚悟を決めようとして、決めきれずグダグダしてたオレを見かねたのか、スズハラが動いた。
オレの手を引いて、階段の下にあったロッカーを開け。自分諸共、中に押し込んだのだった……。
―――
――
―
「………」
「………」
「……行ったみたいだな」
「……うん」
スズハラの機転によって窮地は脱した。
ただ、非情に気まずい雰囲気だ……。
正直、気恥ずかしくて、スズハラの顔をマトモに見れない。
今オレは自分が赤面している自信がある。
見てないが、スズハラも似たような感じだろう……。
まあ、これで平然としてたらソレはソレで居たたまれなくなるわけだが……まあいい。
気を取り直して考えよう……。
廊下掃除用具を挿れていたロッカーは狭い。隠れたところで、一人で限界のはずだったが……。
オレが比較的細身であることと、スズハラが小柄だったことが幸いして二人とも無事に隠れること出来た。
誰かが武器にするために掃除用具を持ちだしたらしく、ロッカーが空っぽだったのも大きな理由だろう……。
だがしかし、問題は隠れた後にあった。
男女二人で満員電車並みのすし詰め状態で、狭い暗所で息を殺して隠れると言ったシチュエーションは刺激的すぎた……。
具体的な感想は控えるが……ご褒美だったとだけ言っておこう。
……って、違う!? 今考えるべきことはソレじゃない!!
今なら廊下は誰も居ない。
正確に言えば、軽音部の三人が倒れているが……動く様子はないので障害としてカウントする必要はない。
上から降りてきた連中が何者だったか不明だが、この場にいないならどうでも良い。
「……と、とにかく今の内に行こう!」
「え、ええ、そうね!」
やや上ずった不自然なイントネーションでの会話となったが、気にしてはいけない。
考えたら負けだと自分に言い聞かせ、スズハラの手を取り……って、さっきの今で触れるか!?
伸ばした手をそのままクイクイっと動かし、手招きして誤魔化す。
気づいてないのか、黙殺してくれたのか、それは分からないが……スズハラは黙って付いて着てくれるようだ。
廊下を抜け、そこの角を曲がれば連絡通路がある。
さあ、今度こそ気を取り直して行こう。
そこで倒れてる連中の仲間入りはゴメンだからな……。
ラッキースケベは主人公特権です。
……リア充爆発汁!