ミス研メンバー活動開始
「それでは、連続で獲得した新入部員とカシワ、リアの幸せを祝して、かんぱ〜い」
何度目の乾杯だよ・・すでに飲み放題で払う料金の倍の分ぐらいは、グラスを空けている。ミワ姉もかなり酒に強いらしく、今は魔界清酒に挑戦している。魔界清酒はアルコール度数96%ある、カシワのいた世界のスピリタスのような酒だ。それをおちょこなどではなく、普通のコップでロックで飲んでいる。
「それで、フィアー先生のことなんだけどさ。副理事長とのトラブルがなんか関係してるらしいんだよな。俺は副理事長なんてよく知らないけど誰か知ってる人いる?」
俺は皆にさっきのフィアー先生とのやりとりを話し、副理事長が怪しいらしいことを告げた。
「私もよく知らない。普通の学生にしてみれば、理事関係の人達なんてあんまり興味ないわよね。」
相づちを返したニーナは、相変わらず野菜の生春巻きに、大根の煮付けとルッコラとサーモンの和え物という野菜中心の食事をとっている。
「だよな。直接話すことなんてまず無いよな。触れ合う接点がないしな。」
カルロスは対照的に肉中心の食生活のようだ。鶏肉の炒め物ののった大皿をほぼ一人で平らげている。
「ねぇ、カシワ。それに皆。私はフィアー先生のこと、あまり知らないけど先生の悩みはよくわかるの。私も小悪魔族ってことでずいぶん酷い目にもあってきたから・・今はカシワや皆がいてくれて、すごく幸せだけど・・お願い。先生の力になってあげて。」
リアが真剣な表情で皆を見る。手に持っている食器が少し小刻みに震えている。リアが感情の浮き沈みが激しいのも、種族差別のトラウマに起因しているのかもしれない。
「リア。大丈夫。リアにはもう俺・・俺たちがついてるからさ。それに、リアに言われたからとかじゃなく、俺もリッチマンもランシアも先生が解雇されることには納得いってないんだ。だから出来る限りのことはするつもりだよ。」
リアの手をそっとつかんで、慰める。リアも落ち着いたように頭を俺の方にあずけてくる。
「はいはい、そこまで。仲いいのはいいけど、人前であんまりやると、余計な殺意をもたれることになるわよ。」
ニーナの小言をうけ、それでもリアは離れようとはしなかった。
「でもどうする?副理事長にいきなり話を聞きにいっても、ただの学生じゃ相手にしてくれないだろうし、かといって、生徒達に聞き込みしても、俺らみたいに理事関係のやつらのことなんて知ってるやつ、ほとんどいないよな・・」
「教師に聞き込みってのも、そんな効果があるとも思えんしなぁ。いきなりの告知だったし、事情を知ってるやつなんて、ほとんどいないんじゃねぇの?」
リッチマンもカルロスもいいアイディアは出ないようだ。何か事件が会った場合、周囲からの聞き込みが常套手段だが、聞き込み対象となる人物がいないとなると、他にどんな手があるだろう・・
「そうだ、ランシア。この前行ってた混合魔法ってやつでさ、何か探偵向きの能力っていうか、盗聴とかできるような魔法ってないのか?」
俺はこの前ランシアに混合魔法の話を聞いたことを思い出した。知らない魔法があるなら、俺の知らないような便利な能力を持つ魔法もあるかもしれない。
「盗聴は立派な犯罪よ。探偵向きの能力とイコールで結びつけないでくれる?でもそうね・・うん、無いわね。」
「ちょっと含みのある期待の持たせ方しといてそりゃないだろ。」
「何よ。そんな都合のいい魔法、あるわけないでしょ。世の中甘くないのよ。」
はぁ。ため息が出る。ま、そりゃそうか。何でもかんでも魔法で片付けられるんなら誰も苦労しないわな。
「ねぇ、カシワ。皆も聞いて。聞き込みは意味ない。魔法も盗聴するのに都合のいい者は無い。だけど、変装はできるじゃない。副理事長が警戒しない人、あるいは頭が上がらないひとに変装して事情を聞き出してみたらどうかしら?もしくは・・」
ミワ姉から意外な提案がでる。だけど、変装って他人に姿形を変える魔法だろ。高度なやつになると能力や記憶まで再現できるようになるらしいけど、俺らじゃ無理。相当経験を積んだ大魔導士とか、元々そういう魔法を特殊技能として使えるようなモンスターでも無い限り、普通の人間には高度すぎて唱えられない。
「変装魔法はきついよ。いくら混合魔法だからって、そんな都合良くはいかないだろ。」
「何も魔法に頼るだけが解決方法じゃないわよ。要は副理事長が警戒しない容姿にすればいいわけでしょ。ちょっと待って。」
ミワ姉がポーチから何か取り出す。買い物袋の大きさぐらいのパッケージの中に木の実が3,4個入っている。
「これはキエルンの実っていって、服用した者の姿を一時的に消すことができるの。薬学の講義を受けている友達にもらったんだけどね。要はこれを使って、副理事長の話を聞き出そうかってわけ。でも、効果は1時間ほどしか持たないし、副作用で後から10分ぐらい、かゆみと喉の痛みがでるらしいんだけど、いい案だと思わない?」
「だけど、仮にその薬使って透明になって、副理事長に近づいたとして、タイミングよくフィアー先生のことをしゃべってくれないだろ。それだとただ近づいて、何も出来ずに1時間たつだけなんじゃないか?」
リッチマンがもっともな疑問をなげかれる。確かに透明になったからといって、副理事長がフィアー先生のことを話してくれる訳じゃないかぎり意味は無い。
「それについては、ちょっと、考えがあるの。いい?フィアー先生は解雇された後、今まで研究してた資料を、学園の倉庫室に片付けるはず。副理事長がフィアー先生の研究にけちをつけて起きたトラブルが、今回の事件の発端であるなら、副理事長は先生の研究の何かをねたんで、または恐れてたって考えられない?つまり、けっこう高い確率でフィアー先生が片付けた資料を副理事長が何らかの形で盗み出すとか、破棄するような行動をとるんじゃないかって思うの。もちろん確証はないし、今のところただの推測だけどね。でも、その行動を見張るのって面白いと思わない?」
「なるほど、そのときにこの透明になる薬使うわけね。副理事長がちゃんとフィアー先生の片付けた資料を、何か企みがあって後から何かするってのは、可能性としてはそれほど高くはないけど、あり得ない話でもないわね。駄目もとでやってみましょうか。」
しかし、ミワ姉の提案は可能性としてはあるかもしれないが、実際に功を制する可能性は正直低い気がする・・そもそも、本当にフィアー先生の研究をねたむとか恐れるとかが、今回の騒動の原因なのだろうか?副理事長はフィアー先生がダークエルフ族だということで差別意識をもっていたようだ。だとすると、原因はその差別によるものだとも考えられる。
「なあ、ミワ姉の提案も面白いとは思うけどさ。俺は副理事長がフィアー先生に差別意識を持っていたととかも、怪しいと思うんだ。だから、二手に分かれて、ミワ姉たちは学会関連の方を、俺たちは別の方面から、今回の事件の原因をさぐってみたいと思うんだけど、どうかな?」
「そうね。今のところ、確証はなにもない只の推論しかでないものね。もしかしたら、全然違うことが原因なのかもしれないし・・じゃあ、ミワと私とカルロスで、透明薬を使って副理事長を見張る。ランシア、リッチマンはフィアー先生が学会で発表する予定だった研究内容を調査、カシワとリアで何か別方面の動機をさぐるってことでどうかしら?」
ニーナが俺たちの間で話し合った内容をまとめ、提案を加える。
「ああ、それでいいんじゃねぇか。まずは何でもいいから手掛かりを集めねぇとな。」
カルロスに続き、皆もニーナの意見に同意することで、とりあえずの方針が決まった。