ミス研メンバー歓迎会
リアの誤解が解けた後、勧誘活動に出かけていた他のミス研の連中が戻ってきて、カシワとお互いに自己紹介をした。ミス研の連中はリアを含め総勢5人。カシワが入ったことで6名になったが、まだまだ部員数は足りず、引き続き人財募集中である。
武器の扱いのエキスパートを目指し戦士系コースを歩んでるケンタウロス族のカルロス。頭脳派で、ほとんど全属性の魔法を一通り使うことが出来るネクロマンサー族のリッチマン。戦闘はあまり得意ではないが、ビジネス交渉に長けており、ミス研の会計もまかされているヒューマンのニーナ。何を考えているのかよくわからないが、知的美人ということで皆から好感を得ている翼人族のランシア。ランシアは弓の扱いに長けている他、闇属性と邪属性の魔法に精通しており、この2つだけはリッチマンも及ばない。
「リアは早とちりなところ、けっこうあるからな。でも、今回は仕方ないかもな。俺だって自分が受付しているときにいきなり異世界からきましたなんてやつが入ってきたら疑う。もっとも一人でも部員が欲しいときにわざわざ訪ねてきた人を”お帰りください”なんて間違っても言わないだろうがな。」
自己紹介が終わった後、開口一番にカルロスがリアに突っ込む。
「だから、それは・・もういいってば。」
「そうそう。リアちゃん、喜怒哀楽激しいから最初びっくりするよね。でも悪い子じゃないから、仲良くしてあげてね。」
フォローに入ったニーナだが、微妙にフォローになってない。
「もう・・みんなして」
「しかし、本当に異世界があるなんて今でも信じられません。これは大収穫ですよ。どうです?今夜は新入部員の歓迎会も含めて、居酒屋権兵衛で一杯やっていきませんか?」
リッチマンの提案に皆賛成する。カシワとしても、どうせまだ列車が復旧するまで時間かかるだろうし、異存はない。只、権兵衛ってずいぶん親父臭い場所で飲むんだなという一念だけがひっかかるが。いや、ちょっとまて。その前に自分はまだ高校生だ。日本の法律じゃ酒は20歳からだ。国によってはもっと早い年齢から許されてるところもあるが、この場合は異世界の住人としてなのだからいいのだろうか。まぁ別にウーロン茶とかにしとけばいいか。
「それじゃ我がミス研に新たな一員が加わったこと。さらに、異世界の存在が明らかになったことを祝して、乾杯〜」
カルロスが音頭をとり、皆それぞれグラスを合わせる。とりあえず鹿肉鍋と高野豆腐、ほうれん草のバター炒めと鮭のアルミ焼きを注文し、あとは各自で欲しいものがあったら随時追加にすることで皆賛成した。
「トレッビアン!」
鹿肉をつつきながら、カルロスが大げさに叫ぶ。だが確かに旨い。鹿肉にこの地でとれる薬草と酒が染み込ませてあり、この肉を大葉で包みこんで食べるのが今流行っている。元々この世界の食材は、もちろん独自のものもあるが、元の世界と共通して存在しているものも、けっこうあり、カシワが食生活で苦労したことは、幸いにして今のところ無い。やっぱり人間食事がうまいとそれだけで幸せになれる。そうだよね、ゴロウさん。
「まぁお前が元の世界にすぐに帰るってのは難しいだろうけどさ。今はこうしてともにお前のいた世界を調べてくれる仲間がいる。これってかなりの進歩じゃん?」
カルロスが鍋のおかわりを注文しながら、愉快そうに話しかけてくる。
「ええ、皆さん有り難うございます。これからお世話になります。至らない点は多々あるかとは思いますが、どうぞ宜しくお願いします。」
「そういう堅苦しいのはいいって。敬称も私じゃなくて俺でいいよ。それよか、お前のいた世界のこと、もっと教えてくれよ。鹿肉鍋はあるのか?」
「んじゃ了解。実は鹿肉鍋は俺も初めて食べるんだけど、多分元の世界にもあると思う。俺のいた日本って国の飯田橋ってところじゃ、肉って言えばだいたい牛肉か豚肉、鶏肉が多いけどな。」
まぁ飯田橋じゃなくても日本だったら多分牛、豚、鳥だろう。地方によっては馬肉とかクジラ肉なんてのも売ってるところあるかもしれない。鹿肉もあるだろうし、他にもあるかな。
「豚?豚ってどういう動物だ?旨いのか?」
そっか。この世界じゃ豚はいないのか。豚肉の生姜焼き食えないのはちょっと残念だ。
「旨いよ。焼いてもゆでてもいいし、いろんな料理に使われる。ビタミンB1が豊富で栄養価も高い。こっちで食えないのはちょっと残念だな。」
「へぇ。じゃあその豚肉を使った鍋とかもある?」
ニーナが鍋奉行にまわりながら、聞いてくる。よく見てみるとニーナは野菜生活の食生活を送ってるみたいだ。健康的だな。俺も見習わなくちゃ。
「あるよ。代表的なのはキムチ鍋とかかな。キムチってのは白菜っていう野菜を唐辛子につけ込んで味付けした料理なんだけど、このキムチと豚肉の相性が抜群なんだ。豚肉と野菜を鰹の出汁で味付けして、大根をおろして食べることもあるし、他にも自分が知らない料理方法とかもいっぱいあると思う。」
「鍋にはやっぱり、この米から作った酒が合うよな。すいません、もう一杯お願いします。」
リッチマンの方をみると、既にジョッキ10杯分の酒を空にしていた。しかも米から造った酒って要するに日本酒だよな。ネクロマンサー族は見かけによらず大酒飲みなのだろうか。ドワーフが酒に強いって話はよく聞くが。ランシアもリッチマンに負けず劣らず相当強いみたいだ。こちらはカクテルだけだが黙々と7杯目に突入している。とりあえず皆いいやつらみたいで安心した。ふと、ミワ姉のことを思い出す。交通の便が途絶えたため仕方ないとはいえ、満腹亭の仕事を休むことになった埋め合わせは今度しよう。最近は客数が減ってるとはいえ、やっぱりこの時間は忙しいもんな。
「ラストオーダーになります。追加注文のある方は今のうちにお願いします。」
店員の声がかかる。そっか、もうそんな時間か。そろそろ列車の方は運行復旧しただろうか。締めにうどんと卵を頼んで、鹿肉鍋に入れる。今日は久しぶりにけっこう食ったな。腹もふくれ、頭がぼぉーっとしてきた頃、ランシアが突如自分の隣に座ってきた。
「あなた面白い属性をもってるわね。もしかしたら、混合魔法の素質があるかもしれない。あなたの得意な属性って何?」
俺の得意な属性か。火、土、闇魔法。武術では剣と弓だ。他に絵画も得意だが、戦闘とは関係ないだろう。
「火、土、闇魔法です。絵も得意ですが関係ないですよね。」
「そう。ちょっとこのコップ持って、アースの魔法を唱えて見てくれる?」
アースは、持っているものを土にする魔法だ。勝手にお店の備品を土にしちゃまずいだろ。
「いや、それはちょっと・・他のじゃ駄目ですか?」
「このコップは店のじゃなくて、ミス研から持ってきたものだから大丈夫。実はコップにさっき、シャドウの魔法をかけておいたの。シャドウは影を実在化する魔法よ。生物にかければ生物の影が第二の分身となって戦闘などに参加できる。でも物にかけた場合は通常だと何もおこらないわ。」
シャドウは闇属性の魔法だ。まだ未習科目だが名前だけは知っていた。でもそんなことを試して何になるというんだろう。まぁ別に減るもんでもないし、お店の備品でないのなら気にすることも無いか。
「わかりました。じゃ、アースかけてみます。」
他の連中も興味深そうにこちらを見ている。多分リッチマンは何をさせるつもりなのか分かっているんだろうが、特に何も言わない。
「土に眠る精霊たちよ。我の言葉に耳を傾けたまえ。アース」
?別に想像通りコップが土になっていくだけ・・いや、なんかおかしい。灰色になって固くなっていく。これって石化か?確か石化魔法って相当難しい部類の魔法じゃなかったか?メデューサやバジリスクが得意とする魔法だが、普通は使う機会はそんなにない。そもそも、石化魔法を使える人自体が希少だ。
「やっぱり思った通りだわ。シャドウとアースを組み合わせて石化魔法が出来るって言うのは、魔法理論では前から提唱されてたことなんだけど、実践できる人が今までいなかったのよ。すごいわ、あなた!これで私の研究が進む・・優秀なモルモ・・いえ、研究の助手が手に入ったわ。」
今、モルモットって言わなかったか?聞き違いだよな。聞き違いであってくれ。でもまぁ混合魔法か。そんな力が俺にあったとは驚きだ。だが、だから、どうするってわけでもない。これがダンジョンの奥深くでメンバーがピンチのとき、混合魔法で味方の窮地を救う。ついでにドラゴン倒して囚われの姫も救出なんてシチュエーションでもあれば、相当かっこいいんだろうが、今混合魔法使えますなんて知ったところで、せいぜい、宴会芸になるくらいじゃないだろうか。いや、モルモット扱いならさらにひどい気がする・・
「お客さん、困りますよ。店の備品壊しちゃ。弁償してもらいますからね。」
え・・何のこと?このコップって、ミス研から持ってきたものじゃないの?ランシアの方を見ると当然のようにささやいた。
「ああ言わなきゃ、あなた実験してくれなかったでしょ。だいたい、なんで部室から居酒屋にコップなんてもってくるのよ?ちょっと考えればわかることじゃない。」
・・実験結果、女って怖い。っていうか、他の奴らも気づいてたんなら教えてくれよ。