大道芸人とアリシアさんと戦争
無事、特集記事も焼き鳥も完売し、俺たちは全員揃って今エルドォワ祭り見物に出かけている。当初は仕事が忙しくて、自分が見回ることなんてできないと思っていたが、想像以上に短時間で完売しため、こうしてゆっくり遊んでいられる。商売の神様に感謝だな。
「見て、あっちで大道芸やってるみたいよ。行ってみましょうよ。」
リアの指差す方角を見てみると、一輪車に乗ったピエロの格好をした男が炎のついて松明を4つ同時にジャグリングしていた。さらに額の上には長い棒をのせ、その先にボールがひとつのっている。
「すごい、あれどうやって始めたんだろう?それに、どうやって終わるんだろう?」
ミワ姉がつぶやく。見ると傍らにピエロの助手と思われる黒装束に黒いマスクをまとった人が二人待機している。おそらく、ピエロが一輪車に乗った後、まず棒をピエロに渡し、その後で松明に火をつけ、渡したのだろう。降りるときは松明を助手にまず渡すのだろうか?
しばらくジャグリングを続けた後、予想通り、ピエロは助手に松明を投げ渡し、今度はマリオネットを受け取った。まさか、あの体制でマリオネットを操るのか?
だが、ピエロがマリオネットを動かそうとするとマリオネットの糸が一輪車の車輪に絡まり、ピエロが派手にこける。皆心配そうにピエロを見るが、ピエロは人差し指をたて、口にてをあてて、そして空の方角を指す。ピエロの指先の先には先ほど絡まったはずのマリオネットが空中で踊っていた。なんだあれ?手品か?どうやらマリオネットには仕掛けがしてあり、ピエロが動かしていた糸はよく見ると人形とは直接結びついておらず、人形は別のワイヤーによって操作できる仕組みらしいかった。目をこらしてみて見るとピエロではなく、助手がマリオネットを操作しているのがわかった。だが、よほど注意深く観察しない限り、一回見ただけでは、まず気づかないだろう。
皆が仕組みに気づき始めたとき、あたりから一斉に拍手が起こる。ピエロは深々と頭をさげ、そのさげた頭をマリオネットの人形がこづく。ピエロは今度は人形に向かって一礼すると、人形はピエロの方に肘をのせてほおづえをつくポーズをとった。あたりから笑いが起こる。ここまで全部仕込みだったのだろう。たいしたものだ。俺も皆と一緒に心からの拍手をおくった。
その後もピエロの芸はしばらく続いた。単に玉乗りなどだけではなく、パントハイムを使って貧しいながらも幸せに生きる親子の物語や、獣人と人間の戦いを演じた寸劇、ヨーヨーを使ったミュージカル形式のパフォーマンスなど、どれも見る者を飽きさせないすばらしいものだった。ピエロの芸が終盤に差し掛かろうかという頃、ピエロは俺たちの方を見て手招きした。
「おい、なんか呼んでるみたいだぜ。どうするよ?」
カルロスがピエロの手招きを見て、俺たちに尋ねる。
「多分、手品かなんかの手伝いしろってことだろ。面白そうじゃん。行こうぜ。」
俺たちは揃って、ピエロの元へ行くと、歌舞伎がかった声で訪ねる。
「おお、これはこれは、聡明そうな紳士淑女の皆様。本日は私めの芸をご覧頂き誠に有り難うございます。出来ればどなたか一人、これから最後に行う演目のお手伝いをお願いしたいのですが、宜しいかな?」
どうやら手伝いをするのは一人でいいらしい。俺たちは互いに誰にするか相談した後、リッチマンがいくことに決まった。
「えっと、宜しくお願いします。」
「さぁさぁ、皆様お立ち会い。ここにいる勇猛かつ聡明な青年、えっと・・名前を教えてくれるかな?」
「リッチマンと言います。」
「リッチマン、お金持ちそうな名前でいいねぇ。さて、リッチマン、早速で悪いんだが、ここにあるBoxの中に入ってくれるかな?入ったら、外から鍵をかけて、火をつけるからね。」
「え・・嫌ですよ。死んじゃうじゃないですか。でも、何か仕掛けがあるんですよね?」
「もちろん。いや、今のは嘘。種も仕掛けもありませんよ、皆様。」
「じゃ、断ります。」
「だから、本当は仕掛けあるんだって・・だぁもう、堂々巡りになっちゃうじゃないか。わかった。わかりましたよ。仕掛けあります。でもそれ言ったら、手品にならないじゃないですかぁ。さ、ここまで恥をかいて言ったんだから、リッチマン君、お願いします。」
仕方ないなぁとため息をつき、リッチマンはBoxの中に入る。黒子の助手二人がBoxに鎖を巻き付け、外から南京錠をかけた。脱出マジックか。TVで見た事はあるけど、こうして生で見ると迫力あるな。
「さぁ、皆様。準備は宜しいですか?今から火をつけます。中に閉じ込めた勇気ある青年リッチマンはどうなってしまうのか?本当に火つけちゃいますよ。いいですね?」
しばらくの沈黙の後、ピエロはBoxの外から火をつける。Boxはあっという間に紅蓮の炎につつまれ、跡形も無く消え去る。しばらく間を置いた後、側に居た黒子の一人がマスクをとった。中からリッチマンの顔が姿を表す。いつの間にか助手とすり替わっていたらしい。全く気づかなかった・・リッチマンが元気な姿を皆の前に見せると、あたりから一斉に拍手がおこった。
「いかがでしたでしょうか?もし、お楽しみいただけたのでしたら、お気持ちだけでもいいので、今から助手が帽子を持って、皆様の元にいきますので、楽しんでいただけた分の思いをお金に換えて、渡してやってください。一応私たちの生活がかかっているので、多ければ多いほど助かります。それでは、本日はありがとうございました。」
最後にピエロと助手が頭をさげ、助手が観客のまわりにやってくる。俺も財布から小銭を取り出し、帽子の中に入れてあげた。リッチマンも俺たちの元に戻ってくる。お疲れと声をかけたが、返事が無い。どうも様子がおかしい。
「おい、リッチマン、どうした?もしかして、なんか失敗して怪我でもしたのか?」
だが、やはり返事が返ってこない。しばらく見てるとリッチマンの顔がまるで知らない別人の顔に変わっていく・・
「皆様、申し訳ありません。実は私はリッチマンではありません。先ほどの芸をしていたピエロの助手です。もちろん本物のリッチマンは無事です。別の場所で待機してもらっています。後で申し訳ないのですが、あそこに見える待機所のテントの方に来ていただけないでしょうか?」
どういうことだ?Boxマジックの後リッチマンは結局助手とすり替わったのではなかったってことか?俺たちは互いに顔を見合わせ、ピエロの助手達の料金集めが終わった後、待機所テントに向かった。中に入ると今度こそ本物と思われるリッチマンが誰かと一緒に優雅に茶を飲んでくつろいでいた。もう一人は・・あれは魔獣使いのアリシアさん?なんでこんなところにいるんだ?確か王都の牢獄の中にいるんじゃなかったのか??
「おい、どうなってやがるんだよ?ちゃんと説明しろ。いや、その前にお前は本物のリッチマンなんだよな?」
カルロスが茶を飲んでたリッチマンに問いつめ、肩をつかむ。
「痛いって、カルロス。それにカシワにランシアに皆も、落ち着けって。俺は正真正銘本物のリッチマンだよ。そして、こちらにいるのが魔獣使いのアリシアさん。」
「なんで、アリシアさんがここにいるの?今牢獄の中にいるはずよね。さっきみたいにまた、アリシアさんの偽物ってこと?」
「いや、アリシアさんも本物だよ。全てはピエロ・・本名はジェンキンスさんっていうらしいんだけど、ジェンキンスさんが帰ってきたら、アリシアさんの方から話してくれるってさ。」
俺はアリシアさんの方を見る。彼女は俺たちに向かって深く頭をさげた。
「皆様、ミスティア連合の件では大変お世話になりました。あの一件での皆様の活躍を見込んでぜひ御願いしたい事がございます。どうか、お力添えをお願いできないでしょうか?」
いきなりの事で少々混乱している。アリシアさんがここにいるのも謎だし、お願いと言われても何のことかわからないんじゃ、引き受けるかどうかの判断ができない。
「すいません、アリシアさん。ちょっと色々と整理させてください。まず何故、アリシアさんはここにいるんですか?それと、お願いの内容を教えてもらえますか?」
俺はアリシアさんにまず、情報の整理をお願いする。
「ごめんなさい。いきなり言われても何の事かわかりませんよね。わかりました。順を追って説明いたします。まず、私が王都の牢獄にいたことは皆様ご存知ですよね?」
「ええ。ミスティア連合の件で、強要されてたとはいえ、子供達にモンスターを取り憑かせ、操っていたこと、それと”大罪”を犯したという話を聞きました。」
「本当に申し訳ないことをしたと思っています。ミスティア連合が解散したときに子供達は全員モンスターから解放しましたが、どんなに誤っても許してはもらえないでしょう。皆様にも多大なご迷惑をおかけしました。」
アリシアさんはもう一度頭をさげた。彼女はここ数日でどのくらいの謝罪をしてきたのだろう・・
「俺たちの事は気にしないでください。あの事件はアリシアさんの本意でなかったってことは了解しています。何かミスティア連合の連中に弱みを握られていたんですよね?」
「ええ、私の犯した大罪を世間にばらすと脅されていました。私自身はどのような刑に処されてもよかったのですが、妹に被害が及ぶ事だけは避けたかった・・全ては私の責任です。」
「大罪っていったい何をしたんですか?」
アリシアさんのいう大罪がどんな罪なのか今のところ全く検討がついてない。確か、犯罪の類いではないという話だったが、それがばれたら家族にまで迷惑がかかるような罪。アリシアさんは今その内容を話してくれようとしている。
「今私たちのいるエルドォワ王国とリンガイア王国が戦争になるための火種をまいたんです。」