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気まぐれ異世界遊戯  作者: yoshi
第二章 ならず者集団ミスティア連合と生意気な少年
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ミス研対ミスティア連合


辺り一面暗闇の中、リカルはミスティア連合の連中に追いかけられていた。男の刃がリカルより2つ小さい少女リディアの胸に向いている。やめろ、俺はおまえらの言う通り、盗みもやったし、金も納めただろ?その子から離れろ。頼む。誰か、助けてくれ。そんなリカルの思いをあざ笑うかのように男の刃がリディアの中に食い込んでいく・・


「やめろー」


目が覚めると、ベッドの上にいた。体の傷に包帯が巻かれている。何かの薬も塗られているようだ。・・ここはどこだ?まだ、夢の中なのか?


「よぉくそガキ。目ぇ覚めたようだな。具合はどうだ?」


でかい筋肉質のケンタウロス族の男がニカッと笑いかけてくる。こいつはミスティア連合の一人か?いや、違う。こいつはさっき、俺を助けてくれたやつだ。カルロスとか言ったか?


「おまえら・・ここは、どこだ?俺は確か・・」


起き上がろうとすると体に痛みが走る。思うように体を動かせない。


「ああ、いいって。無理すんな。そのまま寝てろ。でさ、体つらいとこ悪いんだが、話、聞かせてくれねぇか?俺らはおまえの力になりたいんだ。」


「なんだよ、正義の味方気取りかよ。余計なまねしてんじゃねぇよ。」


「馬鹿野郎!」


カルロスがふいにリカルの胸ぐらをつかみ殴り掛かる。おい、やり過ぎだ、カルロス。俺が止めようとすると、カルロスはリカルの顔に触れる直前で手を止め、リカルにでこぴんした。


「おまえが一人が無理すんなら、それでもいいけどよ。おまえと一緒に暮らしてる奴ら、全部お前一人で守れんのか?このままだと、あのチンピラ連中どんどんエスカレートするぞ。そうなったらハンナさんだっけ?彼女にも迷惑かけてくるかもしれねぇが、いいのか?」


「ハンナ先生に?・・だめだ、そんなこと絶対。リディアにもミヤにもポールにも、ハンナ先生にも、そんなこと、絶対させちゃだめだ。」


「ああ、そのとおり、絶対だめだ。リディアとミヤ、ポールってのは、お前と一緒にハンナ先生のところで暮らしてる奴らか?そいつらのこと守りたいんだろ。だったら、そのために一番お前が一番出来ることを考えてみろ。」


リカルはうつむく。しばらく沈黙した後にゆっくりと顔をあげると、カルロス、リア、そして俺の目を真っすぐに見つめてきた。


「本当に、助けてくれるの?言っておくけどお金とかそんなに持ち合わせてないんだ。だから・・」


「バーカ。誰がガキから金をとるんだ。ミスティア連合の連中と一緒にしてんじゃねぇよ。」


「わかった。俺の知ってること全部話すよ。それと、俺の他にも、連中に無理矢理、盗みとかやらされてるやつらがいるんだ。もし、俺のこと助けてくれるんなら、そいつらのこと先に、助けてほしいんだ。俺は後回しでもいいからさ。」


リカル、ようやく決心してくれたみたいだ。カルロスはそんなリカルの頭をヘッドロックする。


「安心しろ。そいつらのことも、お前のこともまとめて面倒見てやる。ガキのくせに変な心配してんじゃねぇよ。」


リカルはカルロスの言葉にもう一度うなずくと、静かに真相を話しはじめた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミス研の部室では、机の上にクッキーを空けた袋が散乱し、カモミールティーの香りが充満していた。今ここに残っているのはミワとニーナだけだ。リッチマンはランシアの家に行った後、一度は部室に帰ってきたが、カシワたちがまだ帰らないため図書館で勉強している。


「おっそーい。買い出しにいくのにどんだけ時間かかってんのよ?美女二人を待たせておいて気遣いってものはないわけ?」


ニーナが何度目であろうかクッキーの袋をまたあける。カシワたちが酒を買いに言ってから、もう2時間近くたっていた。ランシアも皆が来るのが来るのがあまりに遅いため、一度部室に帰ってきた。リッチマンが図書館にいるのを知ると、


「私も時間は有効活用したいから、図書館に行ってるわ。」


と言って、リッチマンの後を追いかけた。もしかしたら図書館に行くのは勉強のためではなく、リッチマンがいるからなのかもしれない。


「ニーナ食べ過ぎ。後で焼き鳥食べれなくなっちゃうわよ。でも、確かに遅いわね。もしかしたら、何かあったのかしら?ちょっと心配よね。」


そう言いながら、ミワはカモミールティーに口をつける。靴を脱いで椅子に座りながら足をブラブラされており、時折退屈そうにあくびをしていた。カップが空になったのに気づき、もう一杯おかわりしようかと思ったとき、ふいに扉が開いた。カシワたちがようやく帰ってきたようだ。


「皆、遅くなってごめん。なんか色々あってさ。あれ、リッチマンはまだ帰ってないのか?

そっか。図書館にいるんだな。ランシアも一緒か。悪いけど先に二人呼んできてから事情を話すよ。皆にも力を貸してほしいんだ。」


俺が立ち上がり、図書館に行こうとすると、カルロスが遮る。


「ああ、いいって。俺が二人を呼んでくる。すぐに連れてくるから、待っててくれ。」


言葉通り、速攻でカルロスはリッチマンとランシアを連れて部室に戻ってきた。皆が集まった後、俺はリカルから聞いた内容を皆に説明しはじめた。


リカルの話は基本的には俺とリア、カルロスが推測していたとおりのものだった。まず皆から人望を集めているが経済的にあまり豊かではない少年少女に、もっと皆を幸せにする方法がある。周りの奴らに腹一杯飯を食わせることも出来ると甘言し、最初は簡単な市場でのおつかいなどを頼んで高額の駄賃を渡す。子供達が慣れてきた頃、一度連合本部に連れて行く。そこで大層な食事を振る舞うが中に睡眠薬が入っており、目を覚ます頃には、例の実体を持たないというモンスターを体の中に入れられている。このモンスターが体内に居る限り、ミスティア連合の連中に少しでも逆らうような振る舞いを見せると、体の内部から傷をつけられていくようだ。


リカルもこのモンスターを体内に入れられ、さらに言う通りにしないとリカルと一緒に住んでる子供達にも同じ目に遭わせるという脅しをかけられていたようだ。もちろん、どんな理由があっても、窃盗などの犯罪行為は許されるものではないが、元凶は子供達に卑劣なまねを働いているミスティア連合とそれを利用しているものにある。さらにリカルと同じ目に遭わされている子供達が他にも何人かいるらしいことも説明に付け加えておく。


俺らが部室に帰る直前ぐらいには、リカルはだいぶ平静を取り戻していた。ただ、まだ熱はあるようなので、酒屋の従業員休憩室でもう少し休ませておくことにした。ハンナさんにも連絡し、今はリカルの側についていてくれているらしい。


俺たちの説明が終わった後、皆は信じられないという素振りでため息をつき、しばらく沈黙が流れた。一番最初に口を開いたのはミワ姉だった。


「許せない・・絶対そんな連中、このまま放っておいていいわけがないわ。王都の警備兵や近衛騎士団には連中のこと、もう伝えてあるの?」


誰にでも優しく、大抵の人とすぐに仲良くなれるミワ姉が怒っていた。思えばミワ姉が本当に怒っているのをみたのは初めてかも知れない。


「ああ、酒屋の店の方にも事情を話し、そのうちの一人が伝えに言ってくれた。もう耳には入っていると思う。」


「もしかしたら、今頃連中、リカルの家に報復に行ってるかもしれないわよ。このままだとまずくないかしら?」


ニーナが心配そうに提言する。だがもう手は打ってある。


「実はここに来る前にフィアー先生にも相談したんだ。今、フィアー先生が研究助手達を連れてハンナ先生のいる教会に向かってくれている。先生たち、相当強いからね。近衛騎士団を数十人連れて行くよりも頼りになると思うよ。」


「そういうことだ。だが、近衛騎士団の連中は、正式な手続きが降りるまで動かないだろう。お役所仕事だから、どうしても時間がかかる。このまま待っていてもいずれは解決してはくれるだろうが、その間にも苦しめられているガキたちが他にもいる。ほっとくことはできねぇ。」


カルロスの言う通りだ。この事件は元々は他人事だった。だが今はもうリカルやハンナさんは他人じゃない。リカルたちを助けることは今や俺たちにとって最優先課題となっていた。


「ミスティア連合か。ならず者の烏合の衆とはいえ、少なくとも50人はいるんだよな。それに謎の魔物使いもいる。加えて連中を裏から操っているやつもいるかもしれないんだろ。ミス研メンバーは総勢7人。7対50以上か・・」


リッチマンの言う通り、数だけで見ると相当不利だ。まともにぶつかるのは得策ではない。だが、ランシアが自信満々に宣言する。


「ふん。そんな連中、7人いれば十分よ。フィアー先生も協力してくれるしね。じゃ、軽く散歩がてらゴミ掃除にでも、行きましょうか。粗大ごみが50個以上か。清掃業者さん大変ねぇ。」


え?まさか、真正面からいくつもりなのか?カルロスならともかく、ランシアがそんな発言をするとは思わなかった。


「ばかね、カシワ。何、惚けているのよ。解決は速い方がいいんでしょ?正々堂々いきましょ。正々堂々とね・・」


正々堂々。ランシアに最も似合わない言葉だ。絶対何かもう企んでる。だが、ランシアの悪知恵はこういう時、とても頼りがいがある。皆がうなずく中、ニーナが不安そうに声をあげる。


「あの、私ももちろん協力したいんだけど。ちょっと、戦闘とか暴力とかは苦手なの。だから、足手まといになっちゃうかもしれない・・」


「ニーナは足手まといなんかじゃないわよ。それどころか、今回もしかしたら一番働いてもらうかもしれない。ちょっとニーナにやってもらいたいことがあるのよ・・」


ニーナだけじゃなく、皆も揃ってランシアの言葉に耳を傾けた・・



ーーーーーーーーーー


「カシラ、今日のあがりですぜ。あのガキども、なかなかいい仕事しやがる。俺らも楽でいいや。なぁ、アリシア先生よぉ。」


黄色い歯をむき出しにした男が無精髭を動かしながら下品な笑い声をあげる。


「あの、もうこういうことはこれで終わりにしてください。お願いします。子供達を解放してあげてください。」


男のこめかみに青筋がうかぶ。


「あぁ?なんかいいましたか?先生。俺らに逆らうんですかー?先生は俺たちなんか足元にも及ばない極悪人じゃないですか。俺、正義感強いから王都の役人にでも告白しちゃおうかなー。そしたら先生の妹も世間から、きっと素敵な眼差しをうけるんでしょうねぇ」


「やめてください!すいません。私が生意気でした。すいません・・私はもうあなたたちの仲間です。だから、妹には手を出さないで・・」


「へへへ。いや、先生なら分かってくれると思ってましたよ。聡明な魔獣使いのアリシア先生ならね。」


アリシアはただ黙ってうつむくしかなかった。まつげの長い綺麗な瞳からひとしずくの涙が地面に落ちる。


「そんな顔しないでよ。先生。俺ら先生をいじめてるわけじゃないんだからさ。仲良くやろうぜ。ほら、分前だ。これからも宜しくな。先生。」


男は子供達が納めてきたお金の束から、金貨を2、3枚取り出し、アリシアの手に渡す。様子を退屈そうにみていた別の男が、あくびをしながら声をかける。


「ちょっと小便行ってくるわ。」


部屋を出ると、離れにあるトイレに向かう。歩いているとふいに眠気を催してきた。睡魔はどんどん強烈になり、やがて男は意識を失い、その場に倒れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おう、おせぇぞ、おめぇ。小便にどんだけ時間かかってんだよ?」


「いや悪ぃ。悪ぃ。ついでにもうひとつ悪ぃんだけどさ、ちょっとこっち来てくれるか?」


「あ、なんだよ。めんどくせぇやつだな。」


「いや、すぐすむからさ。ちょっと面白いもん見せてやろうかとおもってよ?ほら、どうだ?」


「どうだって・・何もねぇじゃねぇか。何なんだよ、一体。え?・・」


何故か天井が目の前にある。転倒したらしい。一体いつの間に?なんだ?起き上がれない。確か小便から帰ってきた男と話をしていて・・いや?そもそもあんなやつ、うちの組織にいたか?そこまで考えるのが男の限界だった。急激に意識を失い、男はそのまま眠りにつく。


「あなたが、魔獣使いのアリシアさんね。とりあえずここから逃げるわよ。」


あきらかに、組織にいるには不自然な女性がアリシアの目の前にいた。女性はアリシアの手を引っ張り、戸口へと歩いていく。


「あの、あなたは一体?それにあの男は何故、地面に倒れたの?」


「私はミワ。そこにいる”いや、すぐすむからさ”なんて格好つけてたのがカルロス。心配しないで。私たちはアリシアさんの味方よ。」


「味方って・・だめよ。ごめんなさい。助けてくれるのは嬉しいけど、私は連中のいうとおりにするしかないの。そうじゃなきゃ、妹が・・私は大罪人だから覚悟はできてます。でも妹には何の罪も無いの。」


「妹ね。人質にでもとられてんのか?ま、どっちにしろ安心しな。今日でミスティア連合は解散だからよ。」


「解散って・・一体なにがどうなってるの?」


「説明は後だ。とりあえずあんたを連れ出すことがミッション1なんだよ。ミッション2はカシラをつぶすこと。ミッション3で残りの雑魚を蹴散らす。いいからついてきてくれ。」


カルロスはやや強引に魔獣使いアリシアの手を引っ張り、そのまま外にある茂みの中へ逃走した。

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