ランシアの家に向かって出発
市場で鶏肉と串と野菜を買って部室に戻ると、皆トランプで大富豪に熱中していた。何をやってるんだ?特集記事はもう仕上がったのか?っていうか、この世界、トランプはあるんだな。
「よし、革命ね。8切りして、これで次の私の番がくればあがりよ。私の勝ちね。さ、その手元にある焼きプリンよこしなさいな。」
「なんで、ランシアばっかり、勝つのよ・・絶対なんかイカサマしてるでしょ?」
「してないわよ。元々こういうゲームは得意なの。特に圧倒的な不利な状況から逆転するときの快感ったら、最高よね。」
「まったくですね、ランシアさん。じゃあ、逆転させてもらいます。もう一回革命」
「え、嘘、リッチマン、まだそんな手札持ってたの?ちょっと・・パスよ。」
「では、これで僕のあがりです。焼きプリンいただきます。」
どうやら各自で持ち寄った菓子類をかけてたらしい。最終勝者となったリッチマンが黙々と焼きプリンを食べている。
「なにやってんだよ、皆。特集記事は終わったのか?」
「おお、カシワにリア、帰ってきたのか?特集記事ならもうだいたい仕上がってるぜ。ほらよ。」
カルロスが小冊子としてまとめた特集記事を放り投げる。俺は記事を手元に受け取ると、リアと一緒にパラパラと頁をめくった。
「おい、なんだこれ?異世界ではコンピュータなるものがあり、情報の整理に使えます。電子レンジは冷えた食べ物をすぐに温めてくれる便利な道具です。ここまではいい。だが、その後の異世界ではタイムマシンというものがあり時空を気軽に行き来できますってのはなんだ?近年、異世界では秋の連休中にこの時空旅行に家族連れで出かける人が増えており・・デタラメじゃないか。タイムマシンなんてねぇよ。」
「でも理論的には可能性あるんだろ。どうせ誰も異世界のことなんか知らねぇんだからよ。いいじゃねぇか。こういうのは出来るだけ脚色を派手にした方が興味を引くんだよ。」
「理論的にはって、前に権兵衛で話した光より速い速度を持つ粒子が存在したらってやつか?確かにそういう話はあるけど、実際にタイムマシン作った訳じゃないんだって。あくまで理論上の話だ。俺からすればこっちの世界の方が、魔法とかあるし、よっぽどファンタジックなんだけどな。」
「そういえば、カシワのいた世界ってこんなすげぇもん、いっぱい発明されてんのに魔法ないんだよな。俺らからすれば、そっちの方がよっぽどファンタジックなんだけどよ。ところで、焼き鳥の材料は買えたのか?この時期、人混んでるし、売り切れとかなかったのか?ずいぶん、時間がかかったみたいだし。あ、リアと宜しくやってたのか。」
リアが飲んでいたアイスミルクを吹き出し、咳き込む。
「ちょっと、カルロス、何考えてるのよ。まったく、いやらしいわね。遅くなったのにはちゃんと理由があるの。実はね・・」
俺とリアは、市場で遭遇したリカルとハンナさんのことについて、皆に話した。特にあの少年の痣については、何か漠然としないが引っかかるものがあったので、出来るだけ詳細に説明する。
「以前は慕われてた少年が、今じゃ、やさぐれてるか。ま、よくある話よね。でもハンナさんだっけ?彼女の言うことはちゃんと聞くみたいじゃない。」
「そうね。ハンナさんのところにはちゃんと帰ってるんでしょ。つまり家出少年とか身寄りが誰もいないってわけじゃないのよね。」
ニーナとミワ姉が途中で口を挟んで、説明の続きを促す。
「ああ。なにか理由があるんだと思う。どうだろう。フィアー先生の件が片付いたばかりで悪いんだが、また、皆に調査をお願いしたいんだが、だめかな?」
「でも、なんでそんなガキのことなんか気にしてんだ?別に何の関係もない他人だろ?」
カルロスがもっともな疑問を投げかける。確かにそうだ。市場で一悶着あっただけの他人。だが、自分でもうまく説明できないが、何かがひっかかっていた。
「ま、確かにその通りなんだけどさ。なんか気になるっていうか、ほっとけないというか。でも俺が個人的にそういう感情を持ってるってだけだから、皆に迷惑がかかるようなら、全然構わないんだけど・・でも、できれば力を貸してほしいと思ってる。」
「別にいいんじゃないんですか?気になること、謎めいたものがあれば何でも調べるってのがミス研の活動なんだし。幸い、カシワの世界の特集記事もだいたい終わったし。」
「そうね。少年の突然の態度の変化と謎めいた傷か・・なかなか、面白そうじゃない。」
リッチマンとニーナがそれぞれ協力を申し出てくれる。特集記事の方は脚色というか大嘘が混じっているので、訂正する必要があると思うが、こうやって頼めば協力してくれる仲間がいるってのはいいもんだ。
「え、いや、あの記事は訂正した方がいいと思うんだが・・まぁそれはそれとして、ありがとう皆。じゃあ、ミス研の第二の調査・・の前にせっかくだから焼き鳥つくってみようか?」
「賛成。といってもここで作るのはまずいから、よかったら、うちにくる?台所貸すわよ?」
意外にもランシアが家に招待してくれることになった。喫茶満腹亭で調理場を借りてもよかったのだが、せっかくだからお言葉に甘えることにする。
「サンキュー、ランシア。じゃあ、材料もってランシアの家に行くか。」
「OK。途中で酒屋によるの忘れないでね。今日は久しぶりに目一杯飲むぞー」
カルロスやミワ姉もランシアの提案に賛成する。でも、ランシアが今まで飲まない日って、あったっけ?別にどうでもいいけどさ。
「ところでランシアの家って、ここからどのくらいかかる?けっこう遠い?」
「そんなに遠くないわよ。ひとっ飛びで10分くらいよ。」
え?今飛ぶっていった?聞き違いか?
「なぁ、ランシアの家って、もしかして飛空挺とかないと行けないようなところなのか?」
「だって、浮遊島だもん。あそこにプカプカ浮いてるやつ。そっか、忘れてた。皆には翼がないんだっけ。どうしようかな。」
「別にいいんじゃねぇか?皆でランシアに摑まっていくってので。落とされたら大変だから、体全体で密着しなきゃな。」
「変態。カルロスはここに残っててもいいわよ?うちの家は下衆禁制だから。」
「冗談だって。でも、真面目な話、飛ぶことなんてできないぞ?どうすんだ?」
確かに飛空挺はちょっと料金が高いし、持ち合わせの金では乗れないだろう。転移装置も同じく料金が高い。飛行系の魔法は残念ながら、まだ俺には使えない。とすると、他にどんな方法をとればいいのだろうか。だが、ここでリッチマンが助け舟をだしてくれた。
「皆を思い描いた場所に移動させる場所なら、僕が使えますよ。ただ、一度行った場所じゃないと風景を思い浮かべることが出来ないんで、この魔法は使えないんですよね。」
「じゃあ、だめじゃん。」
ニーナがすかさず、ツッコミをいれる。
「だからですね。まず僕だけランシアにつかまって、ランシアの家に行きます。その後、一旦、この部室に戻ってきて、皆を連れて、もう一回ランシアの家に行くというのはどうでしょう?あ、もちろん、カルロスと違って、ちゃんと紳士的にランシアにつかまりますから、ご安心ください。それと、私がランシアの家に行ってる間、皆さんは酒を買ってきてもらえますか?」
「リッチマンになら、つかまってもらってもいいわよ?じゃあ、そうしましょうか。でも、リッチマン、あなたの転移魔法って皆を一度に移動させることができるの?それに焼き鳥の材料とか持っていかないと行けないし。」
「平気です。なんならこの部室ごと転移させることも出来ますよ。」
へぇ。やっぱりリッチマンは優秀なんだな。勤勉だし、ネクロマンサー族といっても外見はスマートで、顔立ちも整っている。見た目イケメンで優しいし、頭もいいか。きっと、女性にもてるんだろうな。まぁ俺にもリアやミワ姉がいてくれるから、十分幸せなんだけどな。
「さすがね。リッチマン。じゃあ、つかまって。いくわよ。ハイ。」
ランシアとリッチマンは部室の窓から、飛んでった。部室から出るときくらい扉から出ろよ・・