葦は薔薇し屋
ユウタくんとキョーコちゃんは、小さな頃から仲良しでした。お家もご近所同士、遊ぶ時はいつも一緒で、お互いに結婚を約束をし、結婚式ごっこをして遊んだりもしていました。
しかし、少し大きくなると、二人とも幼い時分の口約束、結婚のことなんかはすっかり忘れてしまい、お互いにお友達も増えた為、遊ぶ機会はめっきりと減ってしまいました。それでも二人の友情は続き、毎月、満月の夜にはお家を抜け出して河原で遊ぶのが、二人の決まり事でした。河原では二人で語り合ったり、川へ小石を投げ入れたり、葦笛を吹いたりして楽しく過ごしました。
ある満月の夜、葦笛を吹いていたキョーコちゃんが笛を置き、ユウタくんに言いました。
「あのね、ナイショだよ。わたしね、タケシくんが好きなんだ。」
タケシくんは二人のクラスメートでした。特にユウタくんにとってタケシくんはとっても親しいお友達で、学校ではよくサッカーをして遊んでいました。
「タケシくんはとっても優しい良い人だよ。僕から伝えてあげようか」
ユウタくんが言うのを聞くと、キョーコちゃんは慌てて言います。
「言っちゃダメだよ。ナイショって言ったでしょ」
ユウタくんは納得すると、満月の柔らかな月明かりの下、秘密を誓い合いました。
「わたしたちだけのヒミツだよ」
「うん、誰にもヒミツだね」
真面目なユウタくんは約束通り、他人に話すことは絶対にしませんでした。
しかし、おしゃべりなキョーコちゃんは、自ら秘密としたことを仲の良い女の子に話してしまいました。その女の子もおしゃべりで、いつのまにか、秘密はみんなの知るところになりました。
タケシくんの耳にもそのことは伝わりました。しかし、タケシくんはどうしていいのか分からず、キョーコちゃんとタケシくんはぎこちない、微妙な間柄になってしまいました。
満月の夜、少し落ち込んでいたキョーコちゃんに、ユウタくんは言います。
「どうしてバレてしまったんだろうね」
芝の上で膝を抱えていたキョーコちゃんは、結んだ手に力を込めて言いました。
「友達が、言っちゃったんだって」
ユウタくんは言葉に困り、とにかく前向きな姿勢を見せることにしました。
「気にしちゃダメだよ」
うん、と応えたキョーコちゃんは立ち上がり、川へ石を投げました。
時が経ち、そのような記憶も淡いものとなった頃、満月の夜、いつからかキョーコちゃんは薔薇を持って来るようになりました。二人ともだいぶ背が伸び、タケシくんとのことも、笑い話として受け止められるようになっていました。
キョーコちゃんが薔薇を持って来るようになると、ユウタくんはキョーコちゃんを意識するようになっていました。薔薇を持つ姿やその香りから、今までに無かった大人らしさを感じていたのかもしれません。
そのようになってから幾月か後のある満月の夜。キョーコちゃんは薔薇を見つめながら言いました。
「あのね、私、好きな人が出来たんだ」
ユウタくんには、タケシくんの時のような余裕はありませんでした。自分のキョーコちゃんへの気持ちは、二人の薔薇ンスを崩す。そう思って心の内に秘めていた想いを揺さぶられ、ユウタくんは葛藤していました。
「これ、吹いてみて」
キョーコちゃんはそう言って、二人ともすっかり吹かなくなっていた葦笛を取り出しました。
懐かしい気持ちとともに切なさが込み上げたユウタくんは、黙って葦笛を受け取ると、自分の気持ちを笛に込めるように、激しく吹き鳴らしました。
精一杯の想いを込めて葦笛を鳴らしたユウタくんの気持ちは些かすっきりとしました。清々しい気分で葦笛を返そうとキョーコちゃんの方を振り返ると、キョーコちゃんは照れた笑いを浮かべていました。
「ありがとう」
笛が葦で出来ていたのがいけなかったのでしょう。葦はユウタくんの気持ちをすっかり薔薇してしまっていたのです。
筒抜けであったことをキョーコちゃんから聞いたユウタくんは恥ずかしさから顔を薔薇色にしつつも、その薔薇を嬉しさで咲き誇らせました。
薔薇を眺めていて、薔薇とばらすをかけた駄洒落を思いついて、そのまま書いちゃいました。