魔王と青年~人間side~
魔族への憎しみ、抑えられなかった憎悪。
後の後悔、消えた日常。
人間side 〜幸せの終わり、終わらぬ連鎖〜
人間と魔族は均等を保っていた、そう、表向きには。
しかし人間にも魔族にも悪いヤツは居るもので、人間の中には優しき魔王では抑えきれなかった魔族の手によって家族を殺され、魔族に憎しみを抱いている者も少なくはなかった
「今回来るのは魔王の娘で、殺してしまおうって話になってるらしいぜ」
村人の耳に届いた悲しい現実、しかし魔族に憎しみを抱いている一人であった村人はその情報を嬉々として他の村人たちに伝えた。
それが間違いとも知らずに――。
少女の謁見風景は気品あふれるもので、決して人々が恨んでいる魔族とは思えなかった
だが、恨みをぶつけなければ済まない。楽になれないからと人々は少女を殺した。
その後、遠足気分で少女の死体を持っていった騎士たちが命からがら村に逃げ込んできた。
宣戦布告の言葉とともに。
騎士に魔王が涙していたことも聞いたその時、村人たちは思ったはずだ。
『これでは憎い魔族と同じじゃないか』と。けれどもう遅い、引き返せないのだ。
その果実を選んで食べたのは人間。
甘い果実を齧れば楽園を追われるのは昔からの決まりごと。
勇者を召喚し、魔王に勝ったのちも平和ボケしていた村人達は戦争中の地獄絵図に耐えられなかった様で幻聴や吐き気に襲われ不眠を患う者も少なくはない。
人間とさして変わらない魔王を倒した勇者は精神的に滅入ってしまい元の世界など忘れて酒に溺れているとか。
そして魔王が倒され、魔族を虐げて喜んでいる者たちにも……幸せの終わる足音が忍び寄っていた。