魔王と青年~魔王side~
魔王を父に持ってして生まれた少女。
少女は大層美しく、気高い魔族だった。
魔王side 〜死に際の呪い〜
「父様、今回の人間への謁見は私が行きますわ」
「しかし、あの国は危険だ。」
「大丈夫、私は父様の娘よ? それに、弟だっていますもの、必ず帰ります」
人間と魔族とで開かれる会合、それに魔王の娘が向かうと言い出した。
今に思い出せばこの時の少女は何時もよりも表情が硬かったかもしれない、もしかしたら自身の行く末を分かっていたのかもしれない。
解っていて尚、明るく振舞っていたのならば、彼女は真に気高い魔族だっただろう。それこそ魔族の未来を背負えるような――
少女を人間の国へやってから数日。数日で、だ……傷付き、涙で面影もなくなった顔の少女の死体と共に人間が現れたのは。
「……辛かったな、もう大丈夫だ。」
父の前でも泣いたことがなかった少女の、涙に濡れた頬へと口付ければ魔王はその硬直した体を抱きしめる。
人間を睨むことも確りと忘れずに。
それから暫くのあいだ魔王は少女が弟と形容した人間の青年のことも憎くて仕方がなかった。
しかし一緒に暮らしてきた思い出の品をみて涙し、憎さ半分と愛しさ半分で殺すことは思いとどめられた。
「何故、人間の国を襲うと申されるのですか!?」
「何故? お前も知っているだろう、娘が死したこと、死に際に助けを求めていたこと、人間だれもがそんな娘を虐げたこと!!」
「っ……ですが」
「あの子が死んだ、って」
家臣と言い合っていて気付かなかった。
青い顔をした青年をみると人間の形状、どうしても憎しみが蘇る。
「そうだ、娘は殺された。人間の手によって」
言い終えた時、魔王はハッとした、目の前の家臣も驚いた様子でいる。
「にんげん……」
「おれ……もう、ここには居られない?」
青い顔がその色を越えて白くなり、声はか細く消えてしまいそう。
青年は弱い、それこそ人間を代表できるのでは、と思うほどに。そんな青年を壊すことが、魔王にはできなかった。
「!……そんなことはない、人間とは言ったがお前は息子も同然だ。ここに居てくれ」
偽りも込められた本心からの言葉、それを飲み込んでくれた青年をみて安心する魔王
しかし、偽りに気づいているのは魔王も解っていながら――。
それからと言うもの、正すのは時間がかかるのに狂い始めれば直ぐで、戦争は始まった。
初めは魔族が有利だった、力の差も魔力の差も歴然だったから、しかし勇者と呼ばれる者が召喚されてから人間が有利になり、魔王は追い詰められた。
追い詰められ、倒される直前、魔王は思ってしまった
『同じ異世界人なのに何故、青年には力がないのか』
すぐに首を振り、邪念を払ったが死する直前の力がMAXになる瞬間に思ったその思いは消えず、青年を悩ませることになる。