エスケープに失敗シマシタ。もう俺はダメです……。
雨が降りだした時、信じていた親友は、許せ、もう耐えられない、と彼の腕を振り払い宵闇に消えた。
笑う彼女へと突き飛ばされた彼は、スケープゴートにされたのだ。
何とか此処まで逃げ延びたが、もう脚が限界だ。
雨に叩かれながら、彼は拳を握り、唇を噛む。
「捕まえた」
嬉しそうな女の声に戦慄し、バッ、と振り返る。
彼の腕を掴む彼女の、グロスのキラキラ光るつり上がった口端が雷に浮かび上がる。もう逃げられないという絶望に、ブラウスに透けるピンクのレースにもときめけない。心臓が狂った様に鳴る。
「赤点採るなんて……先生、泣いちゃうぞ?」
イイ笑顔で補習授業へと彼を引きずって行く。
「い、イヤだ、家に帰るんだ! あんなの、人間の言語じゃない!」
「ハイハイ、因数分解は中学で習ったんだもの、大丈夫、解る様になるから」
「ムリだ!」
それでも解る様になるわ、と数学教師はにっこり笑った。
「叩き込むから」
阿鼻叫喚なスパルタ授業が幕を開けた。