いとこ
ちょっとこれから更新がんばりたい。切実。
叔母さんは家への道中、母さんのことについて俺に色々と聞いてきた。
母さんは離婚が決まってからすぐに職を探した。
ブランクの割には早く決まったと思う。
バイト代でケーキを買って帰って2人で食べたのを覚えている。
「会社の人達もいい人ばかりだって言ってました。母さんには頑張ってもらってます。」
「へぇー姉さんすごいなー。」
「ん?あれ、叔母さんの家じゃないですか?なんだかぼんやり覚えてます。」
「当たりー本当よく覚えてたね。空夜くん、入座瀬には一度来たことがあるだけだと思ったけど。」
「その通りですよ、季咲に来たのはこれが二回目です。叔母さんの家、外装は記憶が曖昧でしたけど、中ならもっとよく覚えてますよ。」
俺が当時入座瀬を訪れた時のことを思い出しながら皮肉を言うと、叔母さんは苦笑いした。
「ああーそうだったね。そうだった。」
苦笑いしながらも、叔母さんはどこか遠くを見て別のことを考えて言っているようだった。
俺が怪訝な顔をすると、今度はニヤっと笑ってこう言った。
「じゃあさ、そのとき一緒に遊んだ女の子のこと覚えてる?」
俺はあのときの記憶をたどる。
確かに年の近い子が数人、毎日叔母さんの家を訪ねてきたので一緒に遊んだ記憶があって、その中に女の子もいた。
日によって違う子が来たりしたのでどの子のことを言っているのか分からない。
俺がありのままに答えると、叔母さんはさらにニヤニヤした。
「気持ちわるいですよ。」
「ごめんごめん。果たしてこれは空夜くんにとって幸か不幸か・・・。」
「はい?」
「さっそく再会ってこと。」
話をしていたら丁度いいタイミングで叔母さんの家に到着した。
叔母さんはそう言って玄関の扉に手をかけた。
俺だってそれがどういう意味かくらい想像できる。
そんなことは母さんから聞いてない。
「聞いてないです!」
「様子からしてそうだと思った~。」
「笑い事じゃないんですけど!!え?!叔母さんの娘さんか何かですか?」
「そうだよ、朝姫ちゃーん!」
「わあああああ待って呼ばないでください!!っていうか娘さんには俺のこと言ってあるんですか?!」
「まぁぼんやりとね。」
「絶対言ってないよこの人!!!」
俺達が口論していると、玄関からのびる薄明かりのついた長い廊下から足音がした。
「お母さん?おかえりー。」
まだ少し遠い所から声がする。
俺は反射的に後ろを向いて逃げようとしたが叔母さんに首根っこをとらえられてしまった。
「逃げない逃げない。」
「無茶言わないでください!」
「私と2人で暮らすのは平気みたいだったのにねーふーん。それに今逃げると後が辛いよ~。」
「うう・・・。」
確かに今逃げた所で寒いし暗いしどうしようもない。
一度逃げようとしたかっこわるい俺だけど、覚悟を決めて前に向き直る。
前下がりに揃えられたショートヘアに大き目の瞳、現在の気温に合った適当な服装をして怪訝な顔をした従姉妹の姿があった。
想像はしていたけど、同い年くらいで強気な印象だ。
「誰?」
「やっぱり言ってないんじゃないですか・・・。」
俺が叔母さんを睨むと叔母さんは目をそらした。俺からも、この子からも。
「ってこの人、入座瀬の人じゃないでしょ?お母さんどういうこと?」
「そこは大丈夫、安心して。それより朝姫ちゃんも良く覚えてない感じなのかな?」
「どういうこと?」
「小さい頃はあんなに仲が良かったのになー。」
叔母さんがニヤニヤしながら俺と自分の娘を交互に見る。
俺達が黙っていると叔母さんはため息をついた。
「はぁーだめだこりゃ。はい、空夜くん、自己紹介。」
「え?!あ、えーと、俺は朝日奈空夜。多分小さい頃会ってると思うんだけど、叔母さんの姉の朝日奈朝深の息子です。従姉妹ってことでいいのかな。」
「朝日奈朝深・・・ふーん。」
「母さんがどうかした?」
「ううん、朝深さんは知ってるなーって。私は朝日奈朝姫。確かに、小さい頃会ったことあるのかも。」
小さい頃のことは何も覚えていないけれど、2回目の対面ではなんだか馴染みやすいいい子だと感じた。
ただ、これから同じ家で暮らすことを考えるとこの挨拶もなんだか照れくさい。
この子はまだ知らないのだろうから、早く叔母さん言ってくれないかな・・・。
すごい罪悪感だ。
「で、お母さん空夜さんはどうしたの?」
きた!!
やばい苦笑いするしかない。
俺は叔母さんのを横目で見て促す。
「あー・・・ごほん、朝姫ちゃん。」
「・・・嫌な予感。」
「あーははは・・・流石朝姫ちゃん。言うの忘れてたんだけどね、今日から空夜くん、家に居候。」
「な・・・!」
居候が決まったのは大分前のことなのに、なんで言ってなかったのか・・・。
この数時間で叔母さんのことが大体分かってしまったような気がする。
あんまり、母さんとは似てないんだな、そう思った。
それより、朝姫ちゃんが心配だ。
しばらく目を泳がせていた俺だけど、恐る恐る朝姫ちゃんの方に目を向けると朝姫ちゃんは思いっきり朝絵さんを睨んでいた。
そして
「ばか!お母さんっていっつもそう!!」
と叫んで廊下を駆け抜け、どこかの部屋に入ってしまった。
「・・・どうするんですか?」
「うん、これは大丈夫なパターン!」
「ついていけないっす。すごく不安なんですけど。」
「大丈夫大丈夫、もうすぐ戻ってくるよ。」
叔母さんが自分の娘が消えた方向を見て自信たっぷりに言うので俺も少し信用して廊下を見つめる。
朝姫ちゃんをまつ間、肌寒いから家に入るかと叔母さんに促されたけどこのまま上がってしまっては
駄目な気がして断った。
それから数分ばかり、叔母さんと適当な会話をしながら玄関先で待っていると、廊下の先の方で
ピシャリとドアを思い切り閉める音が聞こえて少し汗を掻いた朝姫ちゃんが帰ってきた。
息切れしながら叔母さんを睨んでいる。当たり前だ。
「ほらねー。」
「本当だ・・・でも叔母さんは黙ってた方がいいんじゃないですか?」
「ごめんて。」
「あーもう!お母さん、終わったから、部屋!」
「ありがとーごめんね、朝姫ちゃん。」
「もう・・・何をもって言わなかったのか分からなくもないけど、こういうことはちゃんと言ってよね!」
心が広い・・・。
でもまあ確かに、朝姫ちゃんが前から知っていて色んな準備をしていたとしたら、曖昧な再会はここまで上手くいかなかったかもしれない。
お互い、照れくさくて。
とりあえず朝姫ちゃんが半分許しているのなら、俺もこのことについては叔母さんをこれ以上言及すまいと決めた。
これでやっと家にお邪魔できるかと思い、些細な確認のためにも朝姫ちゃんの方を見ると、
それに気づいた朝姫ちゃんは、ためらいがちに手をだして「どうぞ」と俺を中へ導いてくれた。