―5.死に神―
『麗、いつまで奴らとつるむ気だ?』
『なるべくずっとよ』
『気をつけな。最近孜がおまえの異変に気付ていきてる。もうそろそろ、おまえの異変の原因を探り始めるぞ』
『そうね。小動物にも気を配らなきゃ』
『上手くやりすごさねぇと、六年前の繰り返しだぜ』
『………あの時の二の舞は絶対にしない。今は力がある。絶対に淳達を殺させはしない』
『……力になるぜ、ブラザー』
『ありがとう』
∽
「お帰り。麗」
「ただいま。お父様」
いつもと同じやり取りをし、麗は家に入る。すると、孜が唐突に麗に問い掛けてきた。
「麗、あなたは私に隠し事をしているね?」
「……なんのことでしょう」
「最近君の様子がいつもと違う感じがしてね。まさか友達なんて作ってないだろうね」
「……作る訳無いでしょう。私は…あんな思い二度としたくない」
「その言葉が真実であることを願いますよ。……ところで、今回の仕事の内容、聞いていますか?」
「いいえ、お父様」
「それでは私から説明しましょう。最近イギリスに属に死に神と呼ばれている殺人鬼が出没してることを知っていますか?」
「いいえ。読書にばかり打ち込んでいるので最近の世界事情には疎いので。しかし、どうしてそのような呼び名が?」
「武器が身の丈ほどもある大鎌なんですよ。それでもって無差別の殺人を毎夜繰り返しているそうなのですよ」
「ということは、その死に神の抹殺が今回の任務なのですか?」
「依頼にはそう書いておりますが、違いますよ。我々の今回の目的はその死に神を仲間に引き入れること。つまり、あなたの任務は死に神の確保です」
「わかりました」
「これを渡しておきましょう」
そう言って五つ、錠剤を麗に手渡した。いつからか海外の仕事ではこの錠剤を渡されるのが常となっている。
『その薬は飲んだ直後から約5時間彦斎と意識を交換できる薬です』
こんな説明を数年前に聞いた。
「流石に五つは多いかもしれませんが、まぁ、念のためということで」
「はい。わかりました。標的の特徴は?」
「問題はそこです。大きな鎌を扱うとしか情報は来ていないんですよ。実はその情報の提供者はそいつから逃げている最中に電話を警察にかけ、鎌のことを言った直後に殺されたらしいです。ただし、活動時間はほとんどが夜らしいので、夜歩きでもしていたらいずれ会えるでしょう」
「わかりました。武器は?」
「あなたがイギリスに着いたら送ります。では、頼みましたよ」
∽
夏が過ぎ、秋の中頃にいる今日この頃。イギリスの首都ロンドンから少し離れた高原地帯。空気が冷たくなった影響により、大自然の紅葉が繰り広げられている。
……綺麗だなぁ……
石垣の上でそんなことを思いながら紅葉を眺める十五歳から十六歳くらいの女子が一人。髪はショートカットで輝くような金髪。容姿も整っていて美人というよりは可愛い。しかし、何故か日本人似の顔である。そして、なにより特徴的なのは、二色の目を持っていることである。右目が、吸い込まれそうな漆黒に対し、左目は、空のように透き通った青色である。
日が墜ちて来て風景がいっそう赤に染まる。もうすぐ夜になるだろう。するとその少女は立ち上がり、ロンドンに向けて歩きだした。
「今日もマン・ハントしなくちゃ。準備しにかーえろっと」
薄暗い空に白い三日月が昇っていた。




