―4.野次馬(3)―
「いてぇー」
「ったく、昶のせいだぞ!図書館で怒られたの」
正しくは受け付けの人に軽く注意されただけだが、あの図書館をよく利用する僕と麗にとってはとても効くものだった。
僕たちはこれ以上図書館にいるともっと迷惑がかかると判断し、滅多に人がいることがない公園にいた。
「んなこと言ったってー。信じられるかよ。こんな美人で男だなんて」
「その気持ちはわかるけどなぁ」
「男が胸を触られたくらいで殴るかよフツー」
「それはごめんなさい。どうしてか反射的に、その、手が出たというか……」
困ったように麗は昶に謝る。
「……麗は悪くないよ。昶が突然変な行為に及ぶからいけないんだって」
「へぇ。彼、麗って名前なんだ」
「ん?なんで知ってるの?」
「なんでって、いましがたおまえが喋ったばっかじゃん」
「……またやってしまった………」
「ばーか。おまえが嘘や隠し事するのは無理だって」
「うるさい。馬鹿はよけ……」
「馬鹿。昶の言う通りよ。名前を勝手にしゃべるなんて!」
「……ごめんなさい」
「あと、昶は、私のことについて絶対に漏らさないこと」
「んなこと言ったって、情報屋って言われているとおり、相手の知りたいことを売るってのが俺のやり方だし」
麗は、人が周りにいないことを確認し、
…チャキ…
どこから出したのか、一瞬の間に昶の喉元にナイフを突き付けていた。
「もし他人事にしたらあなたの命がないものだと思って。その情報を知った者も全員同じだから」
昶は最初冗談か何かと思ったが、冷徹そのものに徹していた麗の目を見て、本気だと悟った。この状況に驚いた淳はオロオロしている。
「………わかったよ」
「ふふっ。いい子ね」
「いい子ね、つったってどうみても俺達と同じくらいの年齢にしか見えないが?」
「それもそうね。私は17だけど、あなたたちは?」
このやり取りで安心した淳が先に答える。
「僕17」
「俺18…ってことは俺のほうが年上じゃねぇか!」
「でも、どうせ数カ月の差でしょ?そんなに私と変わらないじゃない」
「だからおかしいんだって!…ぁー、突っ込むの疲れてきた」
「じゃあ、やめれば?」
「…………あぁ。そうする」
「私、そろそろ帰るね」
「オーケー。じゃ、俺も帰る」
「僕も。じゃあ、また明日」
そう言って、三人はベンチを立った。
∽
「おはよう。昶」
「あー、おはよぅ」
朝、登校してくる生徒でいっぱいの玄関で、淳と昶の二人はいた。そのまま一緒に教室に向かって行く。
「昨日の話、どうするんだ?どうやって昨日の騒ぎを鎮める?」
「あぁ、あれか。任せとけ。簡単だ」
教室に着き、朝のホームルームが始まるまでの間、数人、二人の前に昨日の話について聞きに来た人がいたが、昶が、後ほど重大発表するから次の休み時間にまとまって来い、とだけ言ってみんなを追い返した。
「重大発表ってなんだよ。なんか不安になってくるじゃないか」
「任せとけって」
昶が宣言した影響で朝に聞きに来た人の他にも沢山の生徒が集まった。
「諸君。よく集まってくれた。昨日の〈淳に彼女がいる〉疑惑についてだが………この件はなかったことにしてくれ」
集まったみんなは期待していた言葉を聞けず、それどころか、この件を忘れてくれ、との宣言に疑問と落胆の発言が多く挙がった。それに答えるように昶がまた喋りだした。
「理由は言えないが、これから俺と淳のどちらにもその話をしないこと。噂もしない。尾行もしない。この件に対する一切の行動を禁止する。もしそのようなことを行った場合には……」
その場にいる全員が息を飲む。
「そいつの秘密を赤裸々に公表してやろう。おっと、ここに、自分の秘密を知られているはずがない、とか、自分には秘密などない、などと高をくくっているやつは後々痛い目見るぜ」
直後、そこで話を聞いていた生徒は全員、この件への関与を一切しないと心に決めた。そして、そそくさと立ち去っていった。
「任せとけって、こういうことだったのね」
「これでよかったろ?もうこの話は闇に屠られたのとおんなじだ」
昶は得意げに、ニッと笑ってみせた。




