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―4.野次馬(2)―

「イテテテ」

 図書館に行くまでの間、ずっと腰をさすりながら歩く。正面から見ると若々しい高校生であるが、後ろから見ていると老いた爺さんに見える。

「なんであそこで転ぶかな〜」

 自分がドジであることは重々承知している。だが、やっぱり直せない。だからドジなんだろうけど…。

「イテッ!」

 俯いたまま歩いていたため電柱に気付かずにぶつかってしまった。今度は額をさすりながら歩く。

「俺かっこわり〜」

 そんなことを言いながら顔を上げる。いつの間にか図書館に着いていたようだ。


……ギィィィ……


 入口から顔を出し、麗がいるか確認する。

(今日も来ていないな)

 麗は、一ヶ月半前から全然来ていない。

「私が二日連続で図書館に来ないようなことが続いたら、しばらくここに来ることはないから」って聞いていたからあまり心配はしていない。心配はするべきであると思うのだが、どこか抜けている淳はそこまで深く考えていなかった。

「雄呂血の続きを読もうかな」

分厚い一冊の文庫をスクールバックから取り出す。上下巻に別れているのもあるが、淳のは一冊にまとめられているバージョンだ。余り有名でないと思う作品ではあるが、お気に入りの一冊だ。

 ふと、ガラスごしに外を見る。


「…!!」


 男子Bがすぐそこに迫っていた。なんつー神経してるんだろうと思いながらそいつにそいつに一瞥をくれてやる。それに対し男子Bは勝ち誇ったような表情を浮かべながら図書館に入って来た。

「カッカッカッ!先手必勝ってやつだわな。もう逃げ場はねぇぞ!淳!」

「先手必勝もなにも、今日は彼は来ないよ」

「………はあ?」

「今日だけじゃなく、多分もうしばらく来ない」

「かーっ、これじゃあ骨折り損のくたびれ儲けだな。もう少し情報集めてから実行するんだった」

「ご苦労さん」

「……まぁ、そのことが本当ならな」

「……はぁ。なんで信じてくれないんですか?」

「しょうがないだろう?おまえが口をわらない限り俺は諦めないし、それに対しおまえは自分に都合がよくなるように嘘を言う可能性は必ず出てくる」

「だけど僕が言ったことが本当だったとしたら?」

「今日は来ないにしろ、これからの数日間おまえに彼女がここに来る可能性はあるわけだ。実際、俺に彼女がここに来ない、って言った時おまえ自身“多分”ってつけて言ったからな」

「多分君、探偵業や情報屋がむいてると思うよ」

「お褒めの言葉ありがとうございます」

「んで、君は何してるの?待ってる間。僕は当然ながら読書だけど」

「俺も読書するよ。場所も場所だしな」

「へー、本読むんだー。知らなかったよー」

「なんだその言い方。喧嘩売ってんのか?」

「別にー。つい本音が出ただけだよー」

「それが喧嘩売ってるって言ってるんだ!」

「あまり大声だすと周りに迷惑だよ。ここ図書館だしね」

「………」



……ギィィィ……



 二人とも音のした方向を見る。…麗が入ってきた。

「来たじゃん!この嘘つき!いやー、粘った甲斐があった」

「嘘はついてないよ。素で来ないと思っていたもん」

「淳……この人……誰?」

「こいつは……」

「俺っ、石嶋昶〈イシジマアキラ〉って言うっす。こいつのクラスメートです」

「兼、命知らずの情報屋」

「……ふーん。だから昶君は淳についてきたって訳なんだ」

「質問!なんで俺が勝手についてきたってわかった?」

「淳の顔を見れば一目瞭然でしょう」

「そういうことか。納得納得」

「さっき淳が言ってたけど、命知らずってどういうこと?」

「まぁ、そうなのかもね。知りたい、と思ったことにはどんな危険を省みず突き進むところがあるってことは自覚してるし」

「こいつの言ってることは本当だよ。犯罪まがいのこともしてるしね」

「私の秘密を知りたいのならそれ相応の覚悟が必要だけど?情報屋で無理矢理淳についてきたってことは私についてでしょう。まぁ、聞きたいことにもよるけどね」

「じゃあ、単刀直入に。あなたは淳の彼女ですよね!」

麗は目を少し大きく開き、驚いたような顔をした。

「私は男です。淳から聞きませんでしたか?」

「ぬなっ!?あなたまでそんなこと言うんですか?」

「だから言ったじゃん」

「ええいっ!こうなったら強引に確認だー!」


ガシッ


「えっ?」


バコッ


「グオッ!」

「あー……綺麗に入ったなー」


ドサッ


 昶が麗の胸をわしづかみにし、麗が昶の顔を掌打し、それを淳が実況し、昶は見事にノックダウンした。

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