―1.依頼(3)―
山口県のとあるカフェで一人、コーヒーを飲んで誰かを待っている人がいる。この人は長髪で小顔、そして美人である。足を組み、コーヒーを飲む姿は優雅である。男女問わずその姿には目を惹かれてしまう。
そこに一人の男が近づいていく。待ち合わせの相手だろう。男の特徴はまず、身長が大きいところがすぐ目に入る。顔は、少し老けてはいるが、生き生きとしている。どことなく優しそうで、いざというときには頼りになりそうな印象を持つ。
男は待っていた男の前に座り、相手に話しかけた。
「よお。久しぶりだな、郷美」
「うん。久しぶり。弘介さん」
「じゃあ、予定の場所に行こうか」
「わかった」
そして二人は席を立ち、カフェをあとにした。
数時間後、誰もいない、廃墟と化した建物に二人はいた。
「おまえはいちいちめんどくせーよな。たまに任務を共にすると体が変わってるから、そのたびに待ち合わせをしなくちゃならねぇし、偽名も新しく考えなくちゃならねぇ。あの喋り方もぞわぞわする。新兵衛、それ、何人目だ?」
「覚えてねーよ。それより、今回の体もいいだろ?みてくれだけじゃなく、身体能力もそれなりにいいんだぜ」
カフェにいたときの二人とは到底思えない話し方で会話している。
「おまえのコレクションなんかどうでもいいよ。それよりも、今回の任務俺は誰を殺したらいいんだ?うずうずしてんだ、さっきから」
「ちっ、釣れねえ奴だぜ。おまえに殺してもらうのは、元容疑者の笹井の野郎だ。ここに連れて来て脳死させてもらう」
「そいつだけか?しかも殺し方も条件付き。やっぱりそういう展開か。だから、おまえとだけは任務やりたくないんだよ」
「文句言うな。誰のおかげで任務成功率100パーセントなのかわかっているだろう。殺す時に少々いたぶってもいいから我慢しろ」
「はいはい。わかりました」
「あとは情報収集のみだ。ターゲットの日頃の行動パターン、または、スケジュールがつかめれば任務成功は確実だ」
「OK。先に、笹井殺していい?」
「いいぞ。はなからそのつもりだったから、都合がいい」
数日後、彦斎が、さるぐつわを噛ませた笹井を連れて廃墟に帰還。
「捕まえて来たぜー。なんかしたごしらえでもするのか?」
「ああ。そいつに麻薬を打つ」
「はぁ?なんで?」
「そいつはここで死ぬことにはなるが、死体を有効活用させてもらう。そいつの死体にターゲットもう三人を殺させる」
「そういうことか。おまえが得意なあれを使うんだな。んで、そいつが殺された時、犯人が薬物中毒者なら動機不要だからな」
「そういうことだ」
「じゃあ早速麻薬挿入いたしますか」
「末期中毒者に見せるため大量に、また、最低でも二週間以上かけて打っとけよ。あと、殺したらそこにある装置をつけて植物状態にしとけ」
「わーってるよ」
そこには二人の話を聞き、自分の末路を知ってしまった哀れな笹井がいた。顔が青ざめている。
「これから俺との地獄の時間がまってるぜ」
これからやろうとしていることに気持ちの高揚を抑え切れず、彦斎は知らず知らずのうちに笑みを零す。その顔が恐ろしく綺麗で、それ以上に不気味だった。
「下ごしらえ完了」
「よし、俺は第二の脳の調整にかかる。完成するまでの間に、ターゲットの行動パターンとスケジュールを調べておけ」
「OK。これが済んだら俺はもう任務完了ってことかな?情報収集終わったら帰っていいか?興ざめしちまった」
「いいだろう」
そう言って、新兵衛はもう目覚めることのない笹井へ近づいていく。そして以蔵は、頭に切り込みを入れ、小さな機械らしき物を入れた。傷を縫合したうえで、さらに、細く、長い針のようなものを頭から、機械、そして、首の中枢神経に通るように刺した。
「さて、ここからが腕の見せ所だな」
新兵衛の手には、リモコンのようなものが握られていた。
十月三日午後11:00〇〇アパート1102室平野浩二宅
……ピンポーン……
「だれかな?こんな時間に客とは」
テレビを見るのをやめ、ドアに向かい、覗き穴から外を見る。が、誰も見当たらない。
(私がここに来るのが遅かったせいで帰ったのかな?)
そう思い、一応確認しようとドアお開けた瞬間、
ザクッ…
心臓にナイフが深く刺さり、平野浩二は倒れた。
即死だった。
同日午後11:50△△ホテルパーティー会場
「今日はありがとう。久しぶりに羽を伸ばすことができたよ」
「俺もおまえと話ができて楽しかったよ、進。帰るのか?」
「ああ。また明日も仕事があるんだ。もう少しここに居たかったんだが、悪いね」
「仕事ならしょうがないさ。家まで送るよ」
「ありがとう。じゃあ頼むよ」
十月四日午前0:00駐車場
「あれが自慢の俺の車だ。1000万したんだ」
「流石だな。社長の御曹子ともなると。高級外車か………?」
「どうした?」
「奥のほうで人がうずくまってないか?」
「確かに。…早く助けてあげよう」
「大丈夫ですか?」
「む…胸が…苦しい…」
「カズ、携帯で救急車を」
「わかった」
一清は二人に背を向けて携帯をで電話をかける。
「もうすぐ助けがくるから大丈夫ですよ」
プルルル…プルルル…
「早く出てくれよ……」
――ぐっ―――
一清はそのうめき声に反応して後をみた。
「どうした?苦しいか?」
…ドサッ…
進が倒れるのと消防署が電話にでるのは同時だった。
「進っ!」
『もしもし、こちら□□消防署ですがなにかありましたか?』
「あっ、あの、△△ホテル私有の駐車場まで救急車をお願いします。警察も呼んで下さい」
要件を言い、電話をきり、警戒体制にはいる。
進は倒れたまま動かない。それに対しさっきまでうずくまっていた奴は、血に染まったナイフを片手に立ち上がった。
「畜生!よくも進を!」
一清は笹井に殴り掛かった。しかし、あっさり受け流され、ナイフを肩に突き立てられる。その瞬間、一清はナイフを笹井から奪い取った。
(ナイフさえなければ殺させる可能性はグンと低くなる。あとは警察が来るまで辛抱すればいい)
一清はこう考えた。しかし、それは甘かった。
「ぐあっ!」
いつのまにか隠し持っていたナイフが両足に刺さっていた。そのまま一清は倒れ、その隙に隠し持っていた四本目のナイフで頸動脈を切られ、息を引き取った。
同日午前1:30笹井卓夫宅
家にガソリンをばらまき火をつけ、笹井は焼身自殺を決行。
任務完了




