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―1.依頼(2)―

「お帰り、麗」

「ただいま、お父様」

 家の中では『私』は本名で呼ばれる。ちなみに、苗字は(ひいらぎ)である。もう一人の私は河上彦斎という名前を持っている。つまり、私は二重人格であ

り、二人共個々に名前を持っている。呼ぶほうとしてはかなりややこしいものがあるらしい。お父様である(つとむ)以外は必ず一度は間違える。呼ばれるほうとしてもしょっちゅう間違えられるので、正直苦労している。(とは言っても本名を知ってる人は限られているんだけど)

「今回の依頼は?」

「ターゲットは、いずれも山口県在住。一人は経歴優秀、人望も厚く、正義感の強い佐柳進。国会議員志望で、日本のアメリカからの独立を最終目標にしている。優れた人材ではるが、これからの政界にこの思想が邪魔な存在になりかねないとのこと。二人目はある会社社長の息子、谷川一清。佐柳と親友との情報があり、こちらも政界の邪魔と判断。最後の二人は、金目的で五人を殺害した容疑で逮捕されたのだが、証拠不足を理由に釈放された元被告笹井卓夫と、こちらも金目的でで証拠品を裏で工作し、笹井に手を貸した平野浩二検事。以上四人の殺害です」

「山口で四人か…時間にして一、二ヶ月ってところかな?毎回証拠を残さずやってのけるのは大変だろう」

「いいえ。そうでもありません。実行するのは私じゃありませんから」

「ハハハハ。確かにね。それじゃあ、もうそろそろ彦斎を呼び出そうか」

「お父様、ちょっと待ってください。彦斎を呼ぶ前に仕事の支度をしてしまわないと。あいつのことですから準備をめんどくさがってやらない可能性があります。あと、シャワーも浴びたいですし」

「そうだった。おまえの言う通りだな。支度をしてしまってから呼び出すことにしよう」



 数十分後、支度を終え、シャワーもすまし、準備を全て終えた麗はある密室に移動し、そこにある椅子に座っていた。

「よし、始めるぞ」

「はい」

 そう言うと、部屋の明かりが急に消え、その後、赤色の照明が点く。そしてさらに、鉄臭い臭いと一緒に白い煙りが充満してきた。

「おまえは――にいる――人殺し――が居場所――」

 どうやら催眠術のようなものをかけている。

 それに対し、麗は首に力がなくなったように、頭が前に垂れている。孜はそのまま言葉を続ける。

「―が娯楽で――鮮血が雨のように―――」

 数分後、麗は突然立ち上がり、目を開けた。いや、麗ではなく、他の人格が目を覚ましていた。

「おはようございます。彦斎」

「ああ、おはよう。親父」

 彦斎は背伸びをしながら言った。

「ふう。やっと自分の体に戻れたぜ」

「次の仕事の内容はわかってますね?」

「ああ。山口県で四人殺害だろ?わかってるよ」

「くれぐれも内密に」

「いちいちうるせえな。今までもちゃんとやってきただろ?信用しろって。俺だって嬉しいんだぜ、人殺しがやれるんだ。正直、もっと沢山殺したいって思っているけどよ」

「だから毎回注意するんです。一応それ防止の手はうってありますが」

「はー…それがなければ俺は自由なんだけどな。関係ないやつを殺したり、任務を終了し2時間たったりしたら麗の奴とすぐ交代しなければならないようになってるからな。俺が任務を放棄して時間を作っても、人を殺せなきゃいみがねえし、不便な体だぜ」

「私にとっては便利な体ですけどね。君の操作が簡単だ」

「ちっ。もし、俺が自由になるようなことがあったら、おまえを1番に殺してやる」

「どうぞ。その時は好きになさい」

 孜は笑みを浮かべながら答えた。

「ちっ、不気味な野郎だぜ。そういえば、今回の任務には誰か来るのか?」

「ええ。田中新兵衛が一緒にやることになってます」

「げっ、新兵衛が来んのか?これじゃあ余り殺しが楽しめそうにないな。厄仕事だ」

「まぁまぁ、そう言わないで。じゃあ、仕事頑張って来て下さい」

 そう言って、孜は準備した荷物を渡す。

「おっ、サンキュ。気が利くじゃん」

「お礼なら今君のなかに眠っている麗に言って下さい」

「あいつか。道理で気が利いてる。あいつが髪に気を使っているおかげで長い髪も邪魔にならねぇし」

「どういうことですか?」

「髪が傷んでないおかげで髪の処理が簡単なんだよ。結い上げるときとかな」

「なるほど。でも、君のことだから結い上げるのもめんどくさいのでは?いっそ、ショートまで切ってしまってはどうかと思うんだが」

「いや、切ることに関しては俺も麗も反対だ。気に入ってるんでな。結い上げるのをめんどくさいとは思わないんだ、これだけは」

「ほう、珍しいこともあるんですね」

「いちいちやかましい!カンに障ることばかり言いやがって。しまいに本当に殺すぞ!」

「ククク。それじゃあ行ってらっしゃい」

「ああ。行ってくる」

 彦斎は家を出た。





「…ククク。おまえが私を殺すことは叶わんよ。何せ、おまえが自由になるのは私が死んでからだからな。それにその時、彦斎と麗。どっちの人格が残っているかもわからんしな。クククク…」

 月が分厚い雲に覆われ、外は漆黒の闇へと変わった。

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