【プロローグ】
BEST NINE
柏木 槇紅
【プロローグ】
私立篠川高等学校。東京にあり、都内では偏差値が高い方の高校。
さらに、全国でも有名な高校野球の古豪でもある。
甲子園出場回数は都内最多の二十一回。
今も篠高出身のプロ野球選手も多数いる。
だが、篠高野球部が強かったのも数年前の話。
名将であった名倉嘉樹が他界するまでは全国に名を轟かせる名門校であった。
それが、亡くなって監督が代わってからは成績が振るわず、有望な選手が集まることがなくなった。
篠川高校にとって、彼の存在は絶大なものであった。
二十年間の監督経験の中で、十三回も選手たちを甲子園に導いた実績がある。
だが、その大切な命が癌によって消えてしまった。
「じいちゃん、じいちゃん・・・。」
と、小さく泣き呟いているのは孫の名倉拓人。
息子の名倉太一は放心状態であった。
妻の幸子は嘉樹と同じ癌で三年前に他界。
病室に来た身内の数は拓人と太一の二人だけだった。
しかし、後日行われたお通夜では名倉監督の教え子から、球界の著名人まで集まった。
お墓は近所の山奥のひっそりとした所につくった。
孫の拓人はもう、進学先が決定した中学三年生だ。
「じいちゃんの高校で、野球をするのだ。」
と言い張って難関の篠川高校を普通科で受けることを志願した。
しかし、拓人の父、太一は反対していた。
それには、しっかりとした理由があった。
拓人は名将の血を受け継いでいるにも関わらず、野球のレベルが素人並みである。
「お前の野球技術で通用するはずがない。」
と口癖のように拓人に言っていた。
しかし、嘉樹は大いに賛成した。
「おお、こいこい。じっちゃんがしごいてやるぞ。野球はセンスだけじゃない。」
結局この言葉が励みとなり、見事難関篠川高校を合格した。