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『寄生虫』と蔑まれた令嬢、髪の毛一本で国を滅ぼす〜隣国の冷徹王太子は、私の危険な愛(スキル)に溺れたいそうです〜

掲載日:2026/11/01

 「エレナ・フォン・シルフィード! 貴様との婚約を破棄し、この国から追放する!」


 きらびやかな夜会の席上、婚約者である第一王子・カイルの怒声が響き渡る。


 彼の腕には、私の義妹であるミーナがしなだれかかっていた。


 この国では、神から授けられた「ギフト(スキル)」で聖女を見極める習わしがあります。ミーナが授かったのは、まばゆい光で人々を癒やす王道スキル『天界の癒やし』。

 対する私が授かったのは――『パラサイト』という、おぞましく忌むべき外れスキルでした。


「髪の毛が寄生虫に変わるだと!? そんな不吉でおぞましいスキルを持つ女など、聖女どころか人間ですらない! 今すぐ消え失せろ!」


 私は「化け物」と罵られ、ドレスのまま嵐が吹き荒れる隣国との国境へと放り出されたのです。


 ◇


 行き倒れかけた私を救ってくれたのは、冷徹無比と恐れられる隣国の王太子、レオンハルト殿下でした。


「我が国へようこそ、美しき寄生虫の女王」


 城へ運ばれた私を待っていたのは、冷酷という噂とは真逆の、底なしの優しさと、ゾクゾクするような熱い眼差しです。


 その日のうちに私は彼のものになりました。


 実は、私のスキル『寄生虫』は、使い方次第で「生態系すら支配する神の権能」だったのです。

 • 『髪の毛の寄生』:私の意思で、黒髪の一部を極小の糸状虫へと変化させ、対象の脳に感染させる。

 • 『精神誘導(捕食行動)』:感染した者は私の命令に逆らえず、自ら進んで「魔物に食べられるよう」に狂ったように動き出す。

 • 『宿主殺し(ハリガネムシの怪)』:感染者を食べた魔物は、脳を書き換えられ、自ら水辺へと向かい、水死(溺死)する。水辺が見当たらなければ高い場所に登りミイラ化する。


 つまり、どれほど強大な魔物であっても、私の髪の毛一本を動物(おとり)に仕込むだけで、食べたら死なせることができる、魔獣に対して一騎当千の暗黒スキルだったのでした。


 レオンハルト殿下は、私のその破壊的で美しい本質を、占い師の助言で知り、国境の荒野で私が追放されるのを、ひと月待ち続けたのです。


「エレナ、今までよく耐えたね。君の価値がわからないあの国は滅びて当然だ。これからは俺の隣で、その美しい髪をなびかせておくれ」


 彼は毎日のように私に極上のドレスや宝石を贈り、公務の合間には必ず私を抱き寄せ、私の「黒髪」に愛おしそうに何度も口づけを落としました。


 私の黒髪は毎日手入れされ毛先は綺麗に整えられます。そして切られた毛先を私はパンに仕込み、下水道に捨てました。

 パンを食べたネズミだけでなく、ネズミから血を吸ったダニやノミを媒介して他のネズミにも寄生虫は感染します。


 そして仕上げにネズミたちを私は森へと誘導します。森にはゴブリン、コボルト、オークの群れが無数に湧いて出るからです。


 感染したモンスターたちは水死に、木のてっぺんに登りミイラ化と、次々と死にました。


 ひと月もしたころ、隣国にはあれほどいたドブネズミもモンスターもすっかり見かけなくなり、かつてないぐらい平和になりました。


「君の髪なら、俺の脳に寄生してくれても構わない。いや、むしろ寄生して、俺のすべてを君の支配下に置いてほしい……」

 冷徹と言われた男が、私にだけ見せる退廃的でとろけるような溺愛。私はあっという間に、彼の深い愛に溺れていきました。


 ◇


 それから数ヶ月後。私を追放した祖国から、一通の悲鳴のような親書が届きます。


 我が国との国境に、史上最悪の災厄と呼ばれる超巨大魔獣の群れが迫っているというのです。

 ミーナの『天界の癒やし』では、魔獣の圧倒的な暴力の前には何の役にも立ちません。国は崩壊寸前でした。


 カイル王子とミーナが、泥まみれになりながら我が国の謁見の間に転がり込んできました。


「エレナ! 頼むから戻ってきてくれ! お前のあのスキルで、魔獣を止めてくれ!」

「お姉様、お願いよぉ! 私を助けて!」

 床にひれ伏し、涙と鼻水で顔を汚しながら懇願する二人。かつて私を化け物扱いした高慢な面影はどこにもありません。


 私は、隣に座るレオンハルト殿下の腕にそっと身を委ねながら、自分の黒髪を指先で弄び、冷ややかな視線を二人に向けました。


「お断りいたします。私は不吉な化け物として追放された身。ですが……そんなに助けてほしいなら、私の『髪の毛』を一本、どちらかに植え付けて差し上げましょうか? そうすれば、自ら進んで魔獣の口へ飛び込み、その魔獣ごと湖に身を投げて、国を救う英雄になれますわよ?」


「ひっ……!? あ、ああああ!」

「嫌ぁぁ! お姉様の髪が動いてるぅぅ!」

 私の指先で、ゆらりと生き物のようにもがいた黒髪を見て、二人は恐怖のあまり失禁し、狂ったように叫び声を上げました。


 レオンハルト殿下が、私の腰を引き寄せ、二人に冷酷な笑みを向けます。

「我が最愛の婚約者をこれ以上怯えさせるな(まぁ、怯えているのは貴様らだが)。その薄汚い顔をエレナに見せるな。つまみ出せ」


「そんな、エレナァァァ!」

「嫌よ、助けてぇ!」

 近衛兵に引きずられていく二人を見送った後、殿下は私を優しくお姫様抱きしました。


「さあ、エレナ。愚か者たちのことは忘れて、今日のデートの続きをしよう。……今夜は君のその美しい髪で、俺の心を完全に縛り付けておくれ」


「はい、レオン様。ふふ、どこへも逃がしませんわ」

 私を裏切った者たちは自業自得の破滅を迎え、私は世界で一番優しい、そして少し狂った旦那様の腕の中で、一生消えない幸せに包まれるのでした。

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