ナナの仕事
しいな ここみ様の『瞬発力企画2』の参加作品です。
今回のお題は『ゲシュタルト崩壊』と『マインドセット』の2つです。
簡単だった。。。(^◇^)
ごめんね、しいなさん。。
鉄壁に見える防御にも、マインドセットによる隙が必ず存在する。
わたしはそれを突く。
= ナナの仕事 = Aju
「総理。C国が侵攻の準備を整えたようです。」
「そうか。」
外務大臣と国防大臣の報告に、二階堂総理はただそう言っただけだった。
「国境の島にはミサイル部隊、その周辺には我が国の亜空母を配置してありますが、敵の動員している戦力は我が国の4倍になります。」
国防大臣はそう報告する。
「外務大臣。この軍事訓練に対する我が国の懸念は伝えたか?」
「もちろん、伝えました。『通常の訓練』という回答です。」
「やる気だな。」
二階堂総理は静かにそう言った。
ここ数週間の動きを見る限り、我が国への軍事侵攻以外の目的は考えられない。
「先制攻撃で敵基地を叩きますか?」
「いや。先制攻撃をすれば向こうに口実を与えることになる。ひと当ては当てさせろ。」
「‥‥‥‥‥‥」
国防大臣は沈黙した。
専守防衛は、「最初の自衛隊員は殺されろ」ということを意味するのではないか?
「島民の避難は済んだか?」
「まだ意地を張って残っている平和主義者がいます。」
「それらも含めて第一波攻撃による死者は出さないように。ひと当てを確認したら、コード7を発動するよう命令する。」
コード7。
いよいよか。
一度も実際には確かめることのできなかった核を超える我が国の機密兵器。
もはや核兵器など前時代の骨董品にしてしまう兵器。
実験ができない以上、ぶっつけ本番でしか使えないのだが、果たしてちゃんと機能してくれるのか?
一抹の不安を覚えながらも、国防大臣はその場から機密回線で国防省の最深部へと命令を伝達する。
暗号化された命令は、ただ一言。
「コード7」
受け取ったのは1人の天才技術者。鬼乃目真悠。
ナナの開発者だ。
AI ナナ。
試行錯誤の末に7番目に完成させたハッキングAI 。
あらゆるシステムに、ひたすらに、しかも隠密に、バックドアを開け続ける。トロイの木馬を潜ませ続ける。ただそれだけを黙々と続けるAI ——。
普段はシステムに何の障害も起きない。ただひたすらに裏口の鍵を開け続けている——いや、気づかれぬように合鍵を作り続けていると言った方がいいかもしれない。
そして、一朝事あればナナはその裏口から一気に侵入して、敵国のあらゆるデジタルシステムを崩壊させる。
崩壊は連鎖反応的に続いてゆくため、後で何が起きたかの検証すらできない。
敵国は一瞬にして現代文明からはじき出されるのである。
現代の兵器でデジタルシステムに依存しない兵器はない。社会インフラも、統治機構も同じだ。
それらを一瞬で無力化できれば、侵略国家は戦争の継続ができなくなる。
人類はいつまでも環境ごと破壊する核の脅威に怯えている必要はない。
それが鬼乃目の考えたことだった。
それを実現する能力を、この天才は持っていた。
通常のAI は収集した膨大な情報データを有意なかたまりへと統合してゆき、ユーザーに有益な答えを導き出す。
鬼乃目はそこにゲシュタルト崩壊のアルゴリズムを混ぜ込んだ。
そのことによりナナは人間のマインドセットに基づく隙を見つける。平たく言えば、平均的ではない答えを見つけるのだ。
そこにつけ込んで気づかれないようにセキュリティを分解してゆく。あたかもセキュリティが有効に機能しているかのように。
分解。 そして偽装統合。 そしてまた分解‥‥。
平時には何も起きないので、紛れ込んだマシン語の1文字、1ルートに誰も気づかない。
そして、今回のような事態が起こった時に、我が国の平和を守るため、鬼乃目は用意してある国別のコードを打ち込むのだ。
『C国を破壊せよ』
C国が第一撃を我が国に与えれば、ナナは文字通りC国の全てを破壊するだろう。
デジタルに依存しない辺境の人々の生活を除いて。
一部病院を除いて、人命を道連れにすることもほとんどなく。
核兵器などナナの前ではおもちゃにすぎない。その発射システムでさえデジタルに依存しているのだから。
戦争は変わる。
だが、この兵器の存在に各国が気づいたとき。もしかしたら、人類はコントロールできないバケモノを生み出すかもしれない‥‥
ということに、なぜか鬼乃目は気がついていなかった。
それもまた鬼乃目のマインドセットと言えるのかもしれない。
了




