第54話 使者
「ゼノン様、アデレア国からの使者がやってまいりました」
「ほう、随分と早かったな」
我の部屋にユルグが入ってきて、使者の来訪を伝えてくる。我がアデレア国へ書状を送った数日後、アデレア国からの使者がもう街へやってきたようだ。
「使者の人数は4人で護衛も最小限の人数ということで、戦闘の意思はないかと思われます。それに使者の者はどことなく怯えていた様子ですね」
「おそらくあの場にいた兵士を使者として送ってきたのでしょうね。ルシアスを打ち破ったゼノン様を恐れ敬ってのことでしょう」
「初めからそれくらいの態度で来ればよかったのにですね」
もしかすると先日の戦いに参加していた敵の指揮官かもしれぬな。大方責任を取って話をまとめてこいとでも言われたのだろう。ユルグに聞いたところ、使者にすら手をかけるような国もあるそうだ。……確かに血気盛んな魔族もいるが、それよりも人族は遥かに野蛮であるな。
「それと使者とは別に小さな子供たちも連れてきているようです。ゼノン様が仰っていたアルテリア様とその孤児院の者たちでしょう」
「ほう、そちらも共に来たのか。用意しておいた屋敷へと案内して食事などもとらせてやってくれ」
「承知しました」
アルテリアたちが希望すればという形で書状に記載しておいたのだが、この状況では選択の余地なく同行させられたのだろう。
この街にも孤児院はあるがすでに使用されているので、それとは別に屋敷を用意してあるのでしばらくはそこで生活をしてもらう。元々は我に反発した貴族の屋敷だ。金目のものは回収してあるが、屋敷だけはそのまま残っているので、仮住まいの場所にはちょうどいい。
アルテリアたちとは後ほど話をするとして、まずは使者たちと話すとしよう。
「遠路はるばるご苦労であったな。面を上げるがよい」
ユルグには我が直接話す必要はないと言われたが、この者たちごときでは我をどうすることもできないため、そのまま我の部屋へと出迎えた。我の両隣にはミラとセレネがおり、その横にはユルグが控えている。
使者のうちのひとりは先日の戦場におり、ユリアスが敗れた際に降参を申し出てきた指揮官であった。当然我ら3人の力をその目で直に見ているため、その目には恐怖の色が浮かんでいる。
「み、身に余るお言葉、恐悦至極に存じております。この度はカルヴァドス=ゼノン様より直々にお言葉を賜り、光栄の至りに――」
「前置きは不要だ。そしてたとえアデレア国が我の意に添わぬ返答を出したとしても、そなたたちに害を加えるつもりはないゆえ、普通に話すといい」
「か、かしこまりました」
そう言いながら指揮官とその使者たちは顔を上げる。
……よっぽど我らを恐れているようだ。確かにバシバル草原では攻めてきた軍を容赦なく殲滅したが、あれはそちらが攻めてきたからであって、そのあとの降伏にはすぐに応じたというのにな。
「……ふむ、全面的にこちらの要求はのむということであるな」
「は、はい……」
使者たちが持参したアデレア国からの書状には我らが要求した魔族の保護や有事の際はカルヴァドス領に協力する旨の返答が記載されていた。
「そしてこちらと正式に協定を結びたいというわけか」
「は、はい! ぜひともゼノン様が統治されますカルヴァドス領と共に成長していければと考えております!」
「そのためにも先日の件はこのように説明してほしいということか。随分とそちらに都合の良い話であるな?」
「「「………………」」」
使者たちの顔が強張る。ただでさえこちらからアデレア国に都合の良い条件を提案してやったにも関わらず、あちらはもうひとつ提案を付け足してきた。
我が魔王の生まれ変わりで聖女であるミラを洗脳していたということは撤回するが、代わりに別の者が魔王の生まれ変わりで陰からミラを洗脳しており、カルヴァドス領の領主である我と協力して多くの犠牲を払いながらもその者を討ち滅ぼし、カルヴァドス領と正式な協定を結んだことにしてほしいといういう内容である。
確かにこの内容であるならアデレア国側にも大義があり、正式に協定を結ぶことによりミラと聖剣がこちらにあることにも拙いながらも説明が付く。よくもまあそういった都合の良い嘘を考えるものだ。
実際に我と戦った兵士たちがいるためこんな嘘はすぐにばれてしまいそうだが、魔族との戦争の際も人族から攻めてきたことは隠されていたことだし、そういった隠蔽は人族の得意とすることなのだろう。使者たちが怯えているのは我が恐ろしいだけでなく、こんな提案をのむわけがないと思っているのかもしれぬな。




