第51話 聖剣
聖剣――いつ誰が作ったのかさえもわからぬ古代の遺物。その能力は魔族や闇魔法に対する絶対的な力である。闇の力を両断するその剣は魔族や闇魔法の天敵と言っても良いだろう。
勇者なきあとはアデレア国で保管されていたのか。我が闇魔法の使い手ということで、わざわざ持ってきたのだろう。あの白銀色の鎧にも闇魔法に対する高い耐性があるに違いない。一応は闇魔法に対する対策も取ってきたようだな。
「いざ!」
「むっ」
ルシアスが聖剣を構え、こちらに切りこんできたのでとっさに距離を取る。先ほど魂の収奪で兵士たちの力を奪っていなければ危なかったかもしれぬ。さすがは国一番の剣士といったところか。
「今のを避けるとは……。先ほどの魔法といい、やはりただの子供ではないようだ」
「貴様こそなかなかの速さであるな。先ほどの戦いの中で我の不意を討てばよかったものを」
「そのような卑怯な真似などできるわけがない。正々堂々正面から戦わなくてどうするというのだ」
「………………」
どうやらこのルシアスという男、馬鹿正直な性格をしているらしい。声から察するに年頃は20~30代といったところだろう。
剣の腕はあるようだが、魔族と人族の戦争のような大きな争いを経験していないに違いない。下らない騎士道精神などあってもなんの役にも立たぬというのにな。
「ゼノン様。この者の祝福は『剣聖』です。微力ではございますが、私も助力いたします」
「私も戦います!」
「必要ない。2人は下がっていろ」
ミラとセレネを下がらせる。今の一閃でこの男の剣技が凄まじいことはわかったが、今の我ならば問題ない。
「ゆくぞ!」
「暗黒の縛鎖、虚無の幻獄」
「無駄だ!」
地面から顕現して身体中に巻き付いた鎖を容易く引きちぎり、闇魔法に耐性のある鎧に包まれているためか我が見せた幻影に囚われる様子もない。
そのまま我との距離を詰めようとするルシアス。
「呪詛の弾丸、葬送の黒焔、暗黒の槍」
「まだそんな力を有していたか!」
前後左右、大小さまざまな闇魔法がルシアスを襲う。
しかし、それらの闇魔法を常人離れした反射速度と剣戟によってすべて防ぐルシアス。背後からの攻撃すらも聖剣によって弾いていった。
「……くっ、まだ続くのか!」
絶え間なく放ち続ける我の攻撃を防ぎ続けるユリアスだが、防御に精一杯で反撃まで手が回らない。
「確かに貴様の剣技は見事であるな。もしかすれば、かの勇者の剣技を超えているかもしれぬぞ」
「ぐぬぬぬ!」
そう、確かに剣技だけで見るのならば、この者の剣はあの勇者以上かもしれない。だが、真正面から一直線に突っ込んでくるだけならばいくらでも防ぎようがある。これまでよっぽど素直な相手としか戦ってこなかったのだろう。
そして我を倒した勇者にはかの者を支える仲間がそこにいた。回復と支援を得意とした聖女、巨大な盾を持ち我の強大な攻撃を受け止めた騎士、様々な属性の魔法を放ち続ける賢者。その者たちが互いにかばい合い高め合い、我を倒すまで至ったのだ。それはたったひとりの剣技のみでは到底辿り着くことができない極地である。
まだ前世の力をすべて取り戻したわけではないが、それでもこの者ひとりの力であれば今の我には遠く及ばない。
「フハハハ、どうした。貴様の力はこんなものか?」
「ぐっ、なめるなよ! 聖華七閃!」
「ほう」
目にもとまらぬ高速の剣戟がルシアスの周囲に迫っていた闇魔法をすべて切り裂いた。
闇魔法を斬れる聖剣とは相変わらず厄介なものだな。だが、それでも我を討った勇者たちの方が遥かに強かったぞ。
「ふむ、それではこいつはどうだ? 終焉の回帰!」
「なっ!?」
我の右手に小さな漆黒の球体が現れた。そしてそれはどんどん膨らんでいき、10メートルほどの巨大な球となった。
ダスクレア領での公開処刑の際に吞み込んだ者どもはよっぼど悪事を重ねていたようだ。おかげでこれほどの強大な闇魔法を使えるまで力が戻ってきたぞ。
「さあ、貴様に防げるかな?」
周囲のものすべてを虚無へと還す闇魔法をルシアスに向けて放つ。
「うおおおおお!」
巨大な闇の球体に対して聖剣を構えて真っ向から立ち向かうルシアス。
普通の剣や盾であれば終焉の回帰によってそれごと朽ち果てるのだが、聖剣は押されつつもその原型を保ち、闇の球体を押し返そうとしていた。
「はあ!」
そしてついにルシアスは闇の球体を両断する。
その余波により、ルシアスの周囲にあった草木が一瞬で朽ち果てたが、その中心でルシアスだけはそれほどダメージを負っていなかった。これも聖剣と鎧の力であろう。
「はあ、はあ……。どうだ、これで私の――」
ルシアスの言葉がそこで止まる。
今ルシアスが防いだばかりの漆黒の球体が、新たに3つ宙に浮かんでいたのを見たからだ。
「さて、我の方はまだ余力があるが、そちらはいつまでもつかな?」
「まっ、待――」
次の瞬間、3つの闇の球体がルシアスの前で爆ぜ、視界がすべて黒色に染まった。




