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魔王、極悪国家の領主令息に転生す。~闇魔法で人族を支配するつもりが、名君扱いされる~  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第46話 勇者の孫


「……俺に客ってのはどいつだ?」


「あっ、お姉ちゃん!」


 修道女とそんな話をしていると、ひとりの女性がやってきた。


 きらりと輝く金糸のような髪を結い上げ、引き締まった体躯に無駄のない軽装の鎧。腰にはロングソードを携え、その右肩にはシカ型の魔物を担いでいる。


「………………」


 すでに我が討たれてから長い年月が経っているが、我にとっては勇者に討たれたのはほんの数か月前の出来事だ。


 勇者とは背丈や体躯どころか性別すら異なるのだが、今でも覚えている勇者の姿がこの娘の姿と重なる。間違いなくこの者が勇者の子孫であろう。


 ただ、その目だけが勇者の面影とはまったく異なっていた。勇者の目には常にゆるぎない覚悟と情熱が宿っていたのだが、この娘の目はとても暗く、そして淀んでいた。


「お帰り、アルテリア。貴族のゼノン様と聖女のミラ様、それにお付きの可愛らしいお嬢様よ。勇者様にお世話になったそうで、わざわざここまで訪ねてきてくれたのよ」


「じいさんの? ……お貴族様が俺なんかになんの用だよ?」


「こら、アルテリア!」


 我らを前にして不遜な態度をとるアルテリアを嗜める修道女。


 どうやら貴族を敬ったりする気はないようだ。確か勇者は貴族に逆らって処罰されたようだし、それもある意味当然か。


「話を聞いてやるからマーナさんはこいつを頼むぜ。燻製にしておけばしばらくはもつだろ」


「わかったわ。ゼノン様、どうぞごゆっくり」


 そう言い残すと修道女は他の子供と共に部屋を出ていった。彼女なりに気を遣ったのだろう。


「そんで俺に話ってのはなんだ? じいさんに恩があると言っていたが、手土産なんかはねえのかよ?」


「……ふむ」


 勇者の孫は随分とやさぐれている。まあ、それくらいは別に構わぬがな。


「「………………」」


「っ!」


「落ち着け」


 我が軽視されていると思ったのか、両隣にいるミラとセレネが反応する。アルテリアもそれに気付いたのか、剣に手をかけようとしていたので、双方を止める。


 まったく、話をしに来ただけだというのに。


「セレネ、すまぬが市場へ行っていろいろと買ってきてくれ。市場の方で我らを探している者はいないとは思うが、姿は隠していくのだぞ」


「……はい、ゼノン様」


 ミラはこの国では特に目立っているから同行はさせられないので、セレネに任せるとしよう。我らを尾行していた者が市場を探しているとは思わぬが、セレネには頭の角とメイド服を隠してもらう。ないとは思うが、戦闘になりそうならばすぐに逃げるよう言い含めておくか。


「この孤児院にはいろいろと足りていなさそうだ。食料よりも服や資材の方がよさそうであるな。アルテリア、必要な物を教えろ」


「……あ、ああ。すまねえ、助かるぜ」


 我に敵意がないことを察したのか、剣から手を離し、少し驚いた表情をしながら多少姿勢を正すアルテリア。


 我の言葉遣いに驚いたというわけではなく、2人の圧と本当に必要な物を購入してくれるのかと驚いている様子だ。


「魔物の肉や素材なんかはあるんだが、俺や孤児院のやつらが持っていっても買い取ってくれねえんだ。俺から言っといてあれだが、本当に大丈夫なのか? もしも俺や孤児院に関わっていることが知られたら、あんたにも迷惑がかかるかもしれねえぞ」


「問題ない。そもそも我はこの国の者ではないからな」


 どうやらこの街全体でこの者とこの者がいるこの孤児院を虐げているようだ。実にくだらない。


 この者の目が淀んでいるのも子供のころからそういった扱いを受けているというのならば納得である。やさぐれているが、我のことを心配したり、孤児院の子供から慕われているところを見るとそこまで悪い者ではないのかもしれない。


「そうか。じいさんに世話になったみたいだけれど、俺が生まれる前に死んじまったからじいさんのことはほとんど知らねえよ」


 我が死んでから数年後に勇者は処刑された。おそらく我との戦いのあとに子を成し、そして死んだのであろう。孫であるこの者どころか、子供ですら勇者と過ごした時間は思いのほか短かったのかもしれない。


「ああ、そうであろうな。そなたや両親のことについて教えてくれないか?」


「……くだらねえ話だぞ。父さんはじいさんみたいな剣の才能がなくて、勇者の息子として扱われていたから普通の生活にも苦労していた。母さんは俺を産んですぐに死んじまったし、父さんもあとを追うようにしてすぐに死んじまったから俺は子供のころにこの孤児院へ預けられた。幸い剣の腕はあったみたいだから、なんとか飯だけは苦労せずに暮らしている」


「「………………」」


 アルテリアは自虐気味に笑う。街の者に虐げられていただけでなく、両親も不幸に見舞われたようだ。


「そなたの祖父――勇者を恨んでいるのか?」


「そんなわけねえだろ! 他のやつらがなんと言おうとじいさんは魔王を倒した英雄だ! じいさんがいなけりゃ今ごろ人族なんてみんな魔族に食われちまっている」


「……そうだな。まあ魔族は人を食べたりはしないが、勇者が魔王を倒した英雄であることは間違いない」


 勇者とそのパーティがいなければ人族との戦闘は魔族の勝利に終わっていた可能性が高い。そういう意味ではあの者が人族の英雄であろう。


 ただアルテリアやこの国の者がどのような教育を受けてきたのかは知らぬが、魔族は人を食べたりはしないぞ、まったく……。


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