第45話 孤児院
「……やはり数人が私たちのあとをつけているようですね」
アデレア国の国王との謁見が終わったあと、我らが白を出て歩いていると少し離れた場所で我らを監視している者がいた。
あれだけ敵対行動をしたのだからそれも当然か。とはいえ少なくともこの国を出るまでは我らに手を出す気はないようだな。人族は国同士で様々な取り決めがあるらしく面倒だ。
「私がなんとかしましょうか?」
「ふむ、これから勇者の子孫のところへ行くのだが、それが知られると面倒だ。幻影で適当にあしらうから問題ない」
「さすがゼノン様です」
宿へ戻ってグリフォンに乗ってラドム国へ帰る前にこの国にいるという勇者の子孫へ会いに行く。その前に我らを尾行する者をさっさと撒くとしよう。
セレネに任せると大事になりそうなので我が闇魔法を使った方がよさそうだ。
「……本当にここに勇者の子孫がいるのか?」
「はい。少なくとも私がこの国を出るまではここにいたはずです」
「すごくぼろっちぃです……」
ミラの案内で勇者の子孫がいるという場所へ行くとそこは人族の子供を預かるという施設である孤児院であった。それもただの孤児院ではなく、見るからにボロボロで誰も住んでなそうな建物であった。ゴミなども敷地内に散乱している。
勇者の子孫どころか、本当に人が住んでいるのだろうか?
「あ、あのう、なにかご用でしょうか?」
建物の中へ入ろうとすると、建物の中から紺色の服を着た50代の女性が姿を現した。ミラから聞いていた勇者の子孫とは年齢が異なるので、この者ではないだろう。おそらくこの孤児院の管理者である修道女といったところか。
「う、うちには何にもねえぞ!」
「な、なんで貴族の人が来るの……」
そしてその女の後ろには小さな子供がいる。修道女と同じく怯えているのは我が人族の貴族のような服を着ているからだろう。
子供たちはこの建物と同様に随分とボロボロの服を着ている。
「ここにアルテリアという者がいるか?」
アルテリア――それがミラから聞いた、かの勇者の孫の名前だ。我が死んでから50年。すでに勇者の子は死んで、今ではその孫が勇者の唯一の血族らしい。
「い、今出かけております。もうすぐ帰ってくると思うのですが、彼女になんのご用でしょう……?」
「特に用があるというわけではないが、彼女の祖父と少し縁があってな。話がしたいだけだ」
縁と言えば縁だが、さすがに前世で殺された間柄とは言えぬ。
ユルグにも言った通り、勇者の孫に会って何をするということではないが、話をしてみたいだけである。
「そうですか、ご両親か祖父母が勇者様にお世話になった方なのですね! 本当に何もないところですが、どうぞ中でお待ちになってください」
「う、うむ」
勇者に縁があると言っただけで、勘違いされてしまったようだな。それだけあの者が多くの者を救ってきた証なのだろう。今の勇者の孫は犯罪者扱いされていると言っていたが、もしかすると勇者に救われたという者がここを訪れたりするのかもしれない。
「えっ、まさか、聖女のミラ様ですか!?」
中へ案内されている途中で修道女がミラに気付いたらしい。この国を歩いている時にも多くの者に見られていたし、ミラはだいぶ有名なようだ。
「た、確か教会がミラ様の行方を捜索していると……」
「すでに教会の者に会ってきたので大丈夫ですよ。皆様にはご迷惑をお掛けしてしまいました。いろいろあったところをこちらのゼノン様に助けられたのです」
「そうなのですね。本当によかったです!」
ミラが咄嗟に話を合わす。さすがであるな。
「なにもなくてすみませんが、こちらをどうぞ」
大きな部屋へ案内されたのだが、孤児院の中は外側と同様にボロボロであった。
ただ、出されたお茶はある程度ちゃんとしたものだ。それにこの孤児院の子供はそれほど飢えている様子は見受けられない。
「相変わらずあの者は街中から疎まれているようですね。石やゴミなどを投げ込まれているのもそのせいですか?」
「……アルテリアは本当に優しい子です。決して彼女のせいではありませんよ」
ミラの問いに修道女が答える。
そういうことか。勇者は反逆者として処刑され、その家族は犯罪者扱いされていると聞いたが、孫に対してまで嫌がらせをしているのだろう。彼女が住んでいる孤児院にまで石やゴミを投げ入れるとは人族は本当に醜いものだ。
「お姉ちゃんは悪い事なんてしてないもん!」
「そうだ! 姉ちゃんのおかげで俺たちはお腹いっぱい食べられているんだぞ!」
「こら! す、すみません、どうかお許しを!」
「構わぬ」
子供たちが我らに向かって叫ぶと、修道女がそれをたしなめる。子供の言葉に怒るほど我は狭量でない。
なるほど、アルテリアが魔物などを狩っているおかげで食料には困っていないようだな。




