第37話 ランベルの後始末
「そんなことがあったのか……」
「まさか、この腕輪にそんな効果が……。ちくしょう、俺たちを脅すだけでなく、こんな物まで!」
ランベルの護衛だった6人が意識を取り戻したようなので、ミラが障壁を解除した。あの従属の腕輪は防御力を上げる魔道具と偽ってランベルが護衛に渡したものだったらしい。そしてこいつらもダレアスと同様に家族や大切な者たちを人質にとられて護衛をしていたようだ。
……本当にこの国にまともな領主はいないようだな。
「おまえたち、ゼノン様に感謝するのだぞ。ゼノン様とミラ様はおまえたちを傷付けないようにランベルと首飾りだけを狙っていた。俺も自身を守るだけで精一杯で、そんなことはできなかったから、腕輪のついた腕ごと斬り落とすつもりだった。おそらくゼノン様はそれを察して、自らの危険を顧みずおまえたちを無傷で救おうとしたのだ!」
「そ、そんな……敵であるはずの私たちにまでそんなご配慮を……」
「ゼノン様、このご恩、一生忘れません!」
「………………」
なにやら盛大に勘違いをしているようだ。ルーカスも戦闘力はあるが、頭を使うことは相変わらず苦手らしい。
「それにしても本当に驚きました。まさか聡明であるだけでなく、あれほどお強いとは。カルヴァドス領の騎士団を拝命されたことを私は誇りに思います!」
「くふふ、ゼノン様の尊さをみな再確認したようですね!」
副団長やミラまでそんなことを言い出す。もう面倒だから放っておこう。
「さて、これでダスクレア領は我が統治することとなった。まずは我がカルヴァドス領からこいつに情報を売って取り入ろうとしたガンドロス子爵家とやらを捕まえて詳しい話を聞くとしよう」
「そうですね。ゼノン様を裏切ろうとした報いはきっちりと受けてもらわねばなりません!」
ダスクレア領を手中にするだけでなく、我に反発をしてここまで逃げてきた貴族どもも処することができて一石二鳥であったな。逃げてきた貴族とやらは複数家いるらしいゆえ、そのガンドロス子爵家の者を尋問して聞き出すとしよう。
「これまでにここを統治をしていた者の多くは行方不明なのであったか。とりあえずカルヴァドス領から人が来るまでの間にいろいろと整理をしておくか」
「はい」
まあ、そいつらは我が奈落の暴食で呑み込んだわけなのだがな。
我らがカルヴァドスの街を出る際に屋敷の者たちと統治に必要な者たちが一時的にこちらへ向かっている。ユルグがいればそれで解決するのだが、我とミラのいない間のカルヴァドス領を任せてあるからな。
しばらくはこちらでダスクレア領の整備をしていかねばなるまい。こちらの領にまともな人材がいるか不安なところではあるが……。
「どうせこの街の騎士団も腐っているのだろう。騎士団の方はおまえたちの力も借りるぞ」
「ええ、もちろんです!」
「私も可能な限りゼノン様のお手伝いをさせていただきます」
こういったことに関してはルーカスにあまり期待はできないが、副団長の方には期待しておくとしよう。
「ほ、本当にこの方は何者なのでしょう……」
「こ、子供とは思えないほど聡明なお方だ……」
我のことを知らぬこの屋敷に仕えている者が言葉を漏らす。こういった視線にももう慣れたものだ。
「ほう、この料理はうまいな、見事である。あとでレシピを用意しておいてくれ」
「さすがゼノン様です! これであちらの屋敷に戻ってもこの料理が楽しめますね」
「そ、そのようなお言葉をかけていただき光栄でございます! すぐにレシピを用意しておきます!」
ランベルの護衛やザイラスの屋敷にいた者たちはそのまま我に仕えることとなった。ランベルが従属の輪を使用していたと証言があり、人質に取られていた者を解放したこともあって、すぐに受け入れられたようだ。脅して支配などしていたら、忠誠心など欠片もないのは当然であろう。
騎士団の者はこの街に宿を取り、明日よりこの領地の騎士団の内情を探る。あと1日か2日ほどすればカルヴァドス領から人材が到着するだろうから、そこから本格的にこの領地の統治を始めるとしよう。
それまではこの街へ逃げてきたガンドロスとやらを処し、同胞である魔族の者たちの情報がないかを調べるとしよう。それが終わったら、セレネを連れてこの領地にいる盗賊を狩ってもいいな。ランベルを呑み込んだ時と同様にまた我の力を取り戻すことができるだろう。
しばらくはやらなければならないことが多そうだ。




