第36話 従属の腕輪
「ゼノン様、危ない! ここは私が!」
「あああああ……」
我が闇魔法を発動しようとしたところ、同行していたルーカスが剣を抜いて我の前に出る。
「くっ、なんという力だ!」
「団長、従属の腕輪を付けた者は自身の身体が傷付くことを厭わずに攻撃をしてきます!」
なるほど。元々護衛の者はかなりの力を有していたが、それが自身の防御を考えずに襲ってくるのだから面倒だ。
「団長、どうしました!?」
「こ、これはいったい!? ランベル様……?」
部屋の外に待機していた騎士団の残りの者とランベルの残りの護衛もやって来た。他の護衛は従属の腕輪を身に着けてはいないようだな。むしろあれほど凶悪な魔道具を6つも持っていた方が驚きだが。
「みな、団長の援護を! あれは隷属の腕輪だ。一度発動してしまえば、あの腕輪かランベルの持つ首飾りを破壊するまで彼らはもう止まることができない! 身に着けている腕か腕輪を狙うんだ!」
……ふむ、どうやらあの従属の腕輪とやらは一度発動してしまえば、もう別の者には使えないようだな。
どちらにせよ、我にあんな物は必要ない。従わせたい者がいるならば、力で従わせればよいだけである。
「ルーカス、下がっていろ。あとは我がやる」
「ゼ、ゼノン様、一体何を!?」
「無茶です! お下がりください!」
数も多いし、さすがにルーカスだけでは厳しいだろう。この2人は戦力として連れて来たわけではなく、我とミラだけでは証言に乏しいと思って念のために連れて来ただけだ。この状況をランベルの部下も見ているようだし、ランベルがあの魔道具を使い、その必要もなくなった。
「いいから下がっていろ。葬送の闇鎌、魂の収奪」
「あああああああ!」
「ががががががが!」
「ゼノン様、危ない! ……なっ!?」
「ふむ、問題ないな」
襲ってくるランベルの護衛の剣を葬送の闇鎌で受け止める。二人同時の攻撃であれど、闇鎌はピクリとも動かない。
魂の簒奪の効果により、相手は弱体化をし、我の身体能力は大幅に上がっている。先日の公開処刑で会場に来ていた者たちをすべて呑み込み、また多くの力を取り戻した我にとって、もはやこの者たちレベルでは我をどうにもできないだろう。
会場にいた者は悪人ばかりであったからな。盗賊を狩っていくよりも多くの力を取り戻せたぞ。
「馬鹿な! 貴様はいったいなんなのだ!?」
護衛二人に守られているランベルが驚愕の表情を受けべる。ルーカスや副団長も我が実際に戦うところを初めて見て驚いているようだ。
さて、どうせこいつらを呑み込んでも我の力は取り戻せない。我がこの領地を治める際には我の所有物となるわけだから、殺さずにおいてやるか。
「ミラ、そいつらを押さえつけておけ」
「承知しました、ゼノン様」
「な、なんだと!?」
「あああああああ……」
我が護衛どもを部屋の両端に弾き飛ばす。そこへミラが護衛どもを聖魔法の障壁によって閉じ込めた。さらに襲ってくる護衛二人も同様にミラの障壁によって無力化する。
これで残りはランベルとそれを守っている二人の護衛のみとなった。
「その障壁はまさか……。き、貴様、私を嵌めおったな!」
「さて、なんのことだかな?」
ミラの聖魔法による障壁の強固さを見て、ようやくランベルが先日の公開処刑の際に襲撃をした者が我らだと気付いたようだな。強固な障壁が処刑会場を覆っていたことくらいはさすがにこいつらも報告を受けていただろう。
人族からすれば、聖女であるはずのミラが魔族を助けるとは理外のことだったのかもしれない。そして我も別にこいつを嵌めようとしたわけではなく、たまたまセレネを助けたことが今回のことに繋がっただけだ。
「もう貴様は用済みだ。さっさと死んで、そのすべてを我によこすがいい」
「くそっ、こんなことが許されるわけがない! 絶対にお前たちは――」
ザンッ。
これ以上はうるさいだけなので、残りの護衛を弾き飛ばしつつ、葬送の闇鎌によって首飾りごとランベルを両断した。
ランベル自身は本当になんの力もない雑魚であったな。
「……あれ、俺はいったい?」
「むっ、ここはどこだ……?」
「おお! ゼノン様、他の者が意識を取り戻したようです!」
「すごい、さすがゼノン様です!」
ランベルの首飾りの魔道具を両断したことにより、従属の腕輪の腕輪が割れ、それを身に着けていた護衛たちが意識を取り戻したようだ。
ふん、あのような悪趣味な魔道具など我には必要ない。




