第35話 反逆罪
「愚かな貴様にもわかるようしっかりと見せてやる。これがこの地を治めるジルト伯爵からの命である」
「ば、馬鹿な! ダスクレア領が剥奪されるだと!?」
我が開いた書状をランベルへ見せる。もちろんこれは捏造したわけでもなく、正真正銘ジルト伯爵とやらから受けた書状だ。
「貴様たちダスクレア領の領地はすべて剥奪する。その代わりに我、ゼノン=カルヴァドスがこの地を統治する。要約するとそういうことだ」
「そ、そんなことが認められるか! ……理由は不正および謀反を起こす危険性があるだと。いったいなんの話だ!」
「前領主であるザイラス=ダスクレアはジルト伯爵へ納めるはずの税を不当に懐に入れ、私腹を肥やしていた。そしてその金を使って、ジルト伯爵家に謀反を起こす可能性があると報告させてもらった」
「なんだと!」
ザイラスから搾り取った情報の中に、ダスクレア領で行ってきた数々の不正行為についての情報があった。詳細な情報や証拠についてはすぐに調べることができた。……というよりも、不当な行為が多すぎたぞ。どちらかというと不正をしていた要職に就いている者の情報が後々役立つと思っていたが、ランベルの告発をすることに役立つとはな。
不正に金を横領していたのは事実だが、謀反についてはでたらめである。とはいえ不正をしていた証拠はあり、それに近そうな武器などを購入した記録を見せればそのように疑われてしまっても仕方がないということだ。
それに加えて我がダスクレア領をカルヴァドス領と共に統治する代わりにダスクレア家が得ていた財産を回収してジルト伯爵へすべて献上すると伝えたところ、すぐに了承の返事が来たぞ。ザイラスやダスクレア領の要人が生死不明となったこの状況でその命に逆らう者は少ないと判断したのかもしれない。
結局のところ、ザイラスと同じでより益のある相手を選ぶというだけのようだ。……どいつもこいつも本当に腐っているな。
「馬鹿な、そんな虚偽が認められるはずはない! これは何かの間違いだ!」
「見苦しいな。ジルト伯爵も貴様と同じように、より益のある相手と組んだだけということだ」
「ぐぬぬぬ……こんなものは無効だ! おい、貴様ら、こいつらはカルヴァドス領主を語る偽物だ! 皆殺しにしてその書状を奪い取れ!」
ランベルが逆上し、無茶苦茶なことを言う。たとえここで我らを殺して書状を奪い取ったとしても、その決定が覆ることはないというのにな。まあ、逃げる時間くらいは稼げるかもしれんが。
「で、ですが、その……」
「さ、さすがにそれはまずいのでは……」
直近の護衛といえど、伯爵家からの正当な書状を持ってきた隣の領主に対して刃を向けるつもりはないようだ。どう考えても反逆罪として捕らえられるだけだろうからな。
「くそっ、どいつもこいつも私に逆らいおって! こうなれば……!」
「うぐっ、頭が……!」
「ああああああ!?」
ランベル身に着けていた首飾りを手に取り護衛の者たちへ掲げると、護衛たちが身に付けている腕輪が怪しく光り、頭を押さえて苦しみ始めた。
そして虚ろな目をしながら、我らの前に立ちはだかってくる。
「あ、あれは所持が禁止されている従属の腕輪! ゼノン様、お気を付けください、あの腕輪を身に着けた者は対となる首飾りの持ち主の命令に絶対服従するという禁忌の魔道具です!」
どうやら副団長はその魔道具の効果を知っているようだ。
ふむ、このレベルの護衛の者を意のままに操るとはなかなかに凶悪な魔道具だな。さすがにこれほどの魔道具は量産できるような代物ではなく、勇者が持っていた聖剣と同様にいつ誰がどのように作ったかもわからない遺物であろう。
……やれやれ、ダレアスは人質をとって周囲の者を従えていたし、こいつは非常時のために護衛にこんなものを仕込んでいるとは本当にロクでもないやつらであるな。
「ががががががが!」
「あああああああ!」
虚ろな目をしながら、ランベルの護衛の者が我に向かって襲ってきた。




