第33話 策略
ユルグから報告が入り、いつものように我の部屋で、ミラとセレネと共に状況を共有する。
「……ふむ、すべて問題ないな。これでダスクレア領を我が手にする準備が整ったようだ」
「さすがゼノン様です!」
「す、すごいです!」
ミラとセレネが我を称賛するが、おそらくセレネの方はまだ理解ができてないのだろう。これまで人族の社会の仕組みなどに関わってこなかったから、それも当然だが。
「ユルグ、騎士団に連絡をしろ。すぐにダスクレア領へ行くぞ」
「承知しました。それにしても本当に驚きました。協力者様のおかげというのもありますが、まさか皆様がここまで先を読んで動かれていたとは……」
「ゼノン様のことですから、至極当然のことです」
「………………」
いや、さすがに我もそこまで深く考えて動いていたわけではないぞ。同胞たちを救ったことと、たまたまザイラスから搾り取った情報によって、運よくここまでできただけである。
そしてユルグには我が魔王であることは話しておらず、魔族に協力者がいると思っていたので、それを肯定しておいた。どちらかというと、そちらの方が我も動きやすい。
「しばらく屋敷のことは任せるぞ。騎士団の者も一部連れて行くので、街の治安が荒れるかもしれぬが、その時はユルグの裁量にゆだねよう」
「……承知しました。私のような者にそのような大任を拝してくれましたゼノン様のご期待に沿えるよう尽力いたします」
大袈裟に頭を下げるユルグ。
我らはこれからしばらくの間ここを離れる。騎士団長なども連れて行くため、その間はすべてユルグや街に残った者へ任せるとしよう。
「すまないが、セレネは里の方で留守番をしていてくれ」
「……はい、わかりました。ゼノン様、どうかお気を付けくださいませ!」
「うむ。」
ダスクレア領へセレネは連れて行かない。公開処刑場にいた者はすべて殺したが、あの場にいなかった者の中には捕らえられたセレネを見ていた者がいてもおかしくはない。
そうなると少し面倒なことになってしまうので、セレネにはその間だけ例の森の拠点で留守番していてもらう。この屋敷に残っていても構わないが、さすがに人族の街に我とミラなしに残すのは少し不安であるからな。
「ミラ、行くぞ」
「承知しました」
さあ、ダスクレア領のすべてを奪いに行くとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ようやくゾルティックの街が見えてきたな」
「キィ!」
エリオンの背に乗り飛び続けること3日目、ようやくダスクレア領の中心地であるゾルティックの街が見えてきた。
前回の公開処刑を止めるために来た時ほど急ぎではなかく、しっかりと休息をとりつつここまで飛んできたこともあって、3日かかって到着した。
「時間はかかってしまったがミラは大丈夫か?」
「問題ございません! むしろ今まで以上に力がみなぎっています! くふふふ……」
「ふむ? 問題ないようならばなによりだ」
我の後ろにはミラが座っている。長時間の移動だが、ミラも問題ないようだ。
エリオンには我ら2人が乗っており、ガルオンには騎士団の者が5人乗っている。野営なども基本的には我とミラ、残りの騎士団の者に分かれて行動をしていたのだが、なぜかミラはこれまで以上に生き生きとしてきた。まあ、元気がなくなるよりは全然良いがな。
前回この街へ来た時は上空から虚無の幻獄によって姿を隠しながら街へ入ったが、今回は正式に街の門から入った。そしてエリオンとガルオンを預かることが可能な街の高級な宿を取り、ザイラスの叔父であるランベルへ面会の申請を行った。
我がカルヴァドス領の領主ということもあって、翌日の朝に最優先で面会が行われることになり、迎えの豪華な馬車が宿まで迎えに来る。
「それにしてもグリフォンの速度はすばらしいですね。ぜひとも騎士団にも導入させていただければと思います」
「ああ、空を駆けることがあれほど気持ちがいいとは思わなかったぞ! 何か起こった際にもすぐに現場へ向かうこともできるな。 ゼノン様、どうか騎士団にも導入をご検討ください」
「ふむ、いいだろう。領地に戻ってから検討するとしよう」
馬車の中で騎士団副団長とルーカスがそんな提案をする。ルーカスもこの3日間で多少なりとも我と話すことに慣れたらしい。
これまでは騎士団がグリフォンを持つことをダレアスが禁止していたようだ。……おそらく、謀反や暗殺などを恐れてのことだろう。まったく、本当にそういった保身だけは得意な男であったな。
我にとってはなんの不都合もないので、領地に戻ったあと検討するとしよう。騎士団の者も我を信用しているようで、今はそれほど緊張はしていないらしい。この者たちがいなくとも問題はないが、我らだけよりも後々好都合になるからな。
「ランベルの屋敷に着いたようだな、それでは行くぞ」
「「「はい!」」」
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