第25話 爵位の上げ方
「ユルグ、戻ったぞ」
「ゼ、ゼノン様、ご無事でなによりです!」
エリオンとガルオンを屋敷の者へ預け、我の部屋へ戻ってユルグを呼び出す。
どうやら我のことをだいぶ心配していたらしい。ユルグには魔族と関わりがあると伝え、契約で無理やり縛り付けていたというのに甘いやつだ。
「ダスクレア領についてだが、今のところは問題ない。今回の件について、我が関わったことを誰にも知られてはいないだろう」
「それはよかったです!」
「ゼノン様なら当然の結果です」
ユルグがほっと胸をなでおろす。
おそらくユルグが一番気になっていたことであろう。そして続けてゾルティックでの出来事を話した。
「……なるほど。それでしたら、ルシアルガの森はいかがでしょうか? 現在も強い魔物が多く、立ち入りが禁止されている森で人里からも離れております。立ち入りを禁じるだけでなく、付近の村や街の者にルシアルガの森へ立ち入った者に厳罰を与えるという通達をしておきます」
「ふむ、さすがだ。それでいこう」
すぐに魔族である同胞たちをかくまう場所を提案してくるユルグ。ユルグも魔族の者を別の場所でかくまうという案には賛成している。
魔族は人族よりも身体が屈強なため、多少強い魔物がいる森でも生活が可能だ。セレネたちが元々いた隠れ里もそういった森の中にあったらしい。
「それにしても、ダスクレア領ではそのようなことが行われていたのですね……」
「ああ。魔族だけでなく、領主に逆らった者たちを処刑する様子を貴族どもの見世物にしたり、女を慰み者にして民衆たちの不満を晴らしていたようだな」
ユルグもだいぶ憤慨した様子だ。同じ種族にすらもそこまで残虐な行為ができるのだからな。魔族であった我ですら忌避感しかない。
このカルヴァドス領も隣のダスクレア領も腐りきった統治だ。ミラの言っていた通り、この国は本当に終わっている。
「領主であるザイラスは我がこの手で殺したが、領主が死んだ場合、その座は我のように子へ引き継がれるものなのか?」
「はい、基本的にはそのようになります。確かザイラス卿には子がいなかったので、その親族に引き継がれるかと思います。……ただ、もしかするとゼノン様が排除したという客席の者にその親族がいた可能性もございますね。もしも継承できる者がいない場合は一度国へ返上され、そのあと新しい領主が任命されるはずです」
「……ふむ」
人族は本当に面倒であるな。領地で一番力の強い者が引き継ぐという実力主義にすればよいものを。
「カルヴァドス家は子爵という爵位であったな。この爵位を上げるにはどうすればよい?」
「爵位ですか? 今のゼノン様が爵位に興味をお持ちとは……なるほど、確かにそちらの方が多くの地から情報が集まってきますし、様々な権限も得られますね」
我の目的を察したようだ。相変わらず有能であるな。
同胞の情報を集めるとともに、貴族の権限とやらで魔族の者を殺さないよう厳命し、処刑すると見せかけてその森へかくまうためには領地は広ければ広い方が都合はよい。
「……昔であれば武功を上げたり、より上級の家に嫁いだりすることによって爵位を上げることができました。ですが残念なことに現在は国へ多くの税を納め、多額の賄賂を渡すことによって爵位を上げることが可能となっております」
「「………………」」
ミラと共に絶句してしまう。
領主が腐っていると思ったが、そのさらに上の国も漏れなく腐っているようだ。
しかし賄賂か。無能なこの国に我が得た金を渡すというのは釈然とせぬな。とはいえ、いきなり国の中心部へ攻め入るにはまだ我の力が足りない。さて、どうしたものか。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おおっ、これはすばらしいです!」
「このような場所へ住んでもよろしいのでしょうか!」
「うむ、もちろんである。家の数は足りているはずだが、他に欲しいものがあればすぐに用意するので気軽に言うといい」
カルヴァドス領へ戻ってきた翌日、一時的に避難させていた同胞たちをルシアルガの森へとグリフォンに乗って連れてきた。
昨日のうちに闇影兵の顕現を使い、森の中心部に同胞たちが暮らせる集落を作っておいた。この兵士たちは我の魔力がある限り動き続けるので、夜通し森の木々を使って集落の周りに高い壁を作り、その中に同胞たちが住める家を作った。
水は魔法を使える者がいるので問題ない。後ほど畑を耕し、生活をするための物を用意する予定だ。
「魔王様、本当に感謝しております!」
「気にする必要はない。すぐに新たな同胞を連れてくるゆえ、この場所を頼んだぞ」
このまま同胞たちの捜索も続けていくつもりだ。すぐに新たな仲間を連れてくるとしよう。
「魔王様、ひとつお願いがございます」
「なんだ? 我に可能な限り叶えよう」
この者たちの中で一番年長者である青い肌をしたバルラトが前へ出てくる。そしてなぜかバルラトの横からセレネが前へ出てきた。
「魔王様、どうか私を魔王様に仕えさせてください!」




