第24話 相応の子供
セレネはザイラスに捕らえられてこれまで気の休まる暇もなく、ようやく一息つくことができてホッとしたのだろう。
「す、すみません、魔王様……」
「気にする必要はないぞ。そちらで横に寝かせてやるといい」
集落の者が少し離れた場所でセレネを横にさせてやった。
「まだ幼き子供ゆえ、此度のことはこたえたであろうな……」
「すみませぬ……。ザルファード様の孫でもあり、集落を率いてくれた父親の子いうことで、儂らもこの子に集落の長という重荷を背負わせてしまいました……」
「ああ、長いこと人族に見つかることなく平和だったから、俺たちもまだ子供であるセレネに頼っちまった……」
「魔龍族の者の身体能力はとても優れているからな。それにザルファードの孫でもあるがゆえ、そなたたちの気持ちもわかる」
魔龍族は魔族の中でも最上位の身体能力を誇る種族であり、この中で一番幼いセレネでも集落の中で一番の力を持っていると聞いた。それに加えて四天王ザルファードの孫であるから、集落の者たちが長として慕っても仕方がない。
それまでの間隠れ里は平和だったようだし、長として頼るというよりも、里の者たち全員で可愛がっていたという意味合いの方が強かったのだろう。
「皆の者にも苦労をかけたな。今後我の目の届くうちは決してそなたたちに危害を与えはせぬから安心するといい」
「感謝いたします。ですが魔王様は現在人族の領主の身であると伺いました。お立場の方はよろしいのでしょうか……?」
「うむ、今回の件での目撃者はすべて消した。それにたとえ我が魔族をかくまっていることが知られたとしても、我としては同胞であるそなたたちの方が大事である」
「魔王様……」
転生して人族の身となった我であるが、我は魔王で魔族である。そのことだけは変わらぬ。
「今回はたまたま情報が入ったおかげでそなたたちを助けることができたが、やはり根本的なことを変えねば同胞たちは救えぬことを痛感した。この国、いや……この世界すべてを変えねばなるまい」
魔族が排斥されている今世では今回のように我の知らぬところで同胞たちが危機に陥っている。この者たちのように隠れて暮らしている同胞たちが平和に暮らせる世界を作るためにも、人族の世界の仕組みそのものを変えねばならない。
今はカルヴァドス領以外の同胞たちの情報を得て守ることはできないため、その範囲を早急に広げる必要がある。
「さすが魔王様、今度こそ世界を支配するのですね!」
「うむ、そういうことになるな」
まあ、することはミラの言う通りである。今は人族としてであるが、この世界を統べるという目的はあまり変わらない。
多少前世の力が戻ってきたことだし、まずはこの国を支配することにしよう。
「魔王様、我々にも戦わせてください!」
「ええ、私もお手伝いします!」
「気持ちはありがたいが、再びそなたたちを争いに巻き込むつもりはない。その代わりにそなたたちには我がこの先保護した同胞たちが安心して生活できるような場所を作ってほしいのだ」
ここ数十年平和に暮らしていた同胞たちに再び戦場へ連れて行く気はない。争いなどないほうがよいのだからな。
「で、ですが、それでは魔王様だけが……」
「今は我も人族であるし、いろいろとやりようもある。それに我にはミラもいてくれるからな」
「は、はい! ミラは一生魔王様についていきます! くふふふ……」
前世でも世話になったが、今世ではそれ以上に助けてもらっている。今後もミラには頼ってしまいそうであるな。
ゼノンは子爵家の子であるようだし、権限は多少なりともある。今後どのように支配領域を広げていくか考えるとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「我らは一度屋敷へと戻る。少しの間不便ではあるが我慢してくれ」
翌日、グリフォンに乗ってカルヴァドス領へ入り、以前討伐した盗賊どもの拠点のひとつへと到着した。
ここならば、人は立ち寄らないため、しばらくの間の時間稼ぎとなる。すぐに屋敷へ戻り、人が立ち寄らず、ある程度街から近い場所を見繕うとしよう。
「あ、あの、魔王様! き、昨日は大変お見苦しい姿をお見せしてしまいました!」
昨日のこととは我にもたれかかって寝てしまったことであろう。
セレネは顔を赤くして恥ずかしそうにしている。歳は今の我よりもひとつ下の9つで、身長は我よりも小さく小柄だ。こうして見ると、年相応の子供であるな。
「気にする必要はない。すぐに戻ってくるゆえ、それまでの間みなの者を頼んだぞ」
「はい、承知しました!」




