第23話 明日からのために
「ぷはあっ! き、貴様ら、儂にこんなことをして――」
スパッ。
「ぎゃああああ!」
猿ぐつわを外してすぐに喚くザイラス。やかましいので即座に耳を斬り落とす。
我の同胞をあそこまでいたぶってくれたのだ。我もあの者たちほどではないが怒りを感じている。同胞たちも怒りを抑えられるか怪しいところなので、少し離れたところでミラだけを連れて尋問を行う。
「いいから黙れ。貴様には聞きたいことがある。あの者たち以外の魔族の居場所を言え」
「い、いや……あいつら以外の魔族の居場所など……」
スパッ。
「ぎゃああああ!」
「ミラ、止血だけしておけ」
「はい、『ヒール』」
ザイラスが失血死しないように斬り落とした耳と指の止血だけしておく。
「ほ、本当に知らないんだ! あの隠れ里は森で狩りをしていた者がたまたま見つけて報告が入っただけなのだ!」
同胞たちからもあの場に他の魔族がいないことを聞いたが、他の地に我が同胞がいないかを確認しておきたかった。
保身のことしか考えていないこいつがこの状況で口を割らぬということは本当に知らないのだろう。ちっ、使えないやつめ。
「仕方がない。貴様の領地のことについていくつか教えろ」
「わ、わかった……」
我が同胞たちの情報を持っていないのであればこいつにこれ以上用はない。今後必要になりそうな情報だけを搾り取り、同胞たちを弄んだ報いを与えるとしよう。
ザイラスからは必要な情報を聞き出し、同胞たちの手で仲間の仇をとらせ、最後は奈落の暴食によってザイラスの死体を呑み込んだ。やはりと言うべきか、こいつを呑み込んだことにより、結構な力が戻る。
同胞たちに与えた痛みを与え、ミラの回復魔法で回復することを繰り返し、とどめを刺す。公開処刑を見に来ていた者たちを始末した分を含めて、同胞たちの無念をほんの少しだけだが晴らせただろう。
明日からも生きていくうえで、大切な者の仇をとることは区切りのためにも必要なことである。
「これからのことについてだが、セレネたちには選択をしてほしい。我の領地の屋敷で生活をするか、我の領地の中で限りなく人が立ち寄らない場所で生活をするかだ」
改めてセレネと同胞たちと向き合う。明日にはグリフォンによってカルヴァドス領まで帰ることが可能だ。
その際に彼らが今後どうしたいかを選んでもらう。
「この身体は隣の領主だった息子のもので、我が領主を受け継いだ。人族の街ではあるが我が手中にあり、屋敷の者は契約で縛っているゆえ、屋敷内で暮らす分にはまともな生活ができることは保障しよう。しかし、まだ我の力では魔族が自由に街を歩けるようにすることはできない。屋敷の中だけという不自由な思いをするのならば、我の権限で人の立ち寄りを禁じた森などで新しい集落を作るという選択もある」
残念ながら今の状況では魔族が大手を振って街で生活をするのは難しい。この国から見ればカルヴァドス家の権限がそこまであるというわけではないからな。
それならばいっそ、立ち入った者は処刑すると厳罰を定めた森などで新しい集落を作るという方が自由に暮らせるかもしれない。
「……魔王様には申し訳ないのですが、たとえ魔王様が統治する街であろうとも、私は憎き人族と共に生活することはできません」
「儂も申し訳ないのですが、妻を殺した人族を許すことはできないです。もちろん人族との戦争が起こる前は人族の中にも交流できた者がいたことは重々承知ですので、魔王様の統治に異議を唱えるつもりはございません」
「うむ、承知した。やはり新たな魔族だけの集落を作るとしよう。必ず安全な拠点を築いてみせるゆえ、少しの間だけ待っていてほしい。もちろん我の屋敷内で生活をしたいと思う者がるのであれば、遠慮なく言うといい」
予想していた通り、みなは新たな集落を作ることを選んだようだ。彼らにとっては直接大切な者の命を奪った人族の近くにいたくないという気持ちはよくわかる。
すぐにユルグに伝えてちょうど良い土地を用意するとしよう。それまでは討伐した盗賊たちの拠点でちょうどよい場所を一時的に見繕うとしよう。
「ゼノン様、本当になんとお礼を言ったらいいか……」
「先も言ったが、セレネが礼を言う必要などない。他の者に聞いたが、これまではセレネがこの村の指揮をとってくれていたのだな。本当によく頑張ってくれた」
「は……はい……」
セレネの両目からまたしても涙がこぼれ落ちる。
ザルファードの子であるセレネの父親がみなを率いていたようだが病で亡くなり、そもままセレネが集落を率いていたらしい。まだ幼いながらも彼女は立派にその役割をこなしていたようだ。
「す~す~」
「むっ、眠ってしまったようだな」
狩った魔物の肉を焼いて腹を満たしていると、隣にいたセレネが我の方へ寄りかかり、そのまま寝息を立てて寝てしまった。




